忌み子のラブソング

鋏池 穏美

ごみ箱から拾った宝物

【罪深き人間。それは十の奇跡の力、『地、水、火、風、金、光、闇、命、時、空』のうち一つを、その身に宿した種族。十の奇跡の力は十大元素とも呼ばれ、魔素と呼ばれる原子を根源とする。この根源の魔素こそ、人間の活動に必要不可欠なものである】


 擦り切れてぼろぼろになった本のページを捲る。わたしみたいに、ぼろぼろだ。


【今より数千年の昔、この地は人間たちによる終わりなき争いが続いていた。いったい、どれほどの血が流れたのだろうか】


 開いたページ、涙がぱたぱたと落ちて染みを作る。ごみ箱から拾い、大事に、大事にしている本。


【長い、長い人間たちの争い。なぜ、同じ種族でこうも憎しみ合うのか。醜い本性こそが、人間の本質なのだろうか】


 わたしだって、知りたい。みんなが、みんなが化け物に見える。


【見かねた天上界に住まう天使様が、この地へと降り立つ。天使様は十の奇跡の力、その全てを行使する尊き存在。十天使とも呼ばれ、十色といろの羽は眩い光を放つ。天使様は世界を十大元素ごとの国に分け、争いを一年足らずで終息させた】


 わたしにも、奇跡の力を。


【だが天上界は人間界に干渉しないことが掟。掟を破った天使様は天上界を追放され、十色に輝いていた羽は失われた】


 天上界があるのなら、神様がいるのなら、お願いだから、わたしを、わたしを救って、ほしい。普通に愛されて、ごみ箱を漁らなくても与えられる、そんな普通の生活を。


【天上界を追放され、堕天となった天使様。もはやなんの力も行使出来ず、人間よりも劣る存在へと成り果てた。ただ、天使様は息を呑むほどに美しかった。誰もが劣情を抱いてしまうほどに。争いの終わった世界で、いったいどれほどの子を天使様は産まされたのだろうか。いつしか天使様は、人間を呪うようになる。天上界もあまりの人間の醜さに、堕天した天使様を回収し、天上界で幽閉した。人間界に残されたのは、天使様の血であり呪い】


 わたしは何も、何もしてないのに。


【それから数千年、人間たちは争いを続けていた。十の国による終わりなき争い。過去、争いを終わらせた天使様はもういない。かわりに、天使様の血によって呪われたがときおり産まれるだけ。何も出来はしない、穢れた呪いの象徴】


 ぱたんと本を閉じ、空を見上げた。涙が、溢れないように。わたしは、わたしは──

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