うさ耳だけど筋肉最強!? ハンマーで異世界ぶっ壊しもふもふ無双

うーた

第一章

1.異世界転生とうさ耳の衝撃

 俺の人生は筋肉と共にあった。


 朝起きてすぐ、まずは冷えたプロテインを一気飲みするのが日課。


 シェイカーを振る軽快な音は、俺にとっての朝の目覚まし時計みたいなものだ。


 カロリー計算も完璧。

 鶏胸肉とブロッコリーを中心にした高たんぱく低脂肪な食事を取り、筋肉のためにできる限りのことをしてきた。


 そして日中はジム通い。


 お気に入りのタンクトップを着て、筋肉をしっかりアピールする。


 汗が滴る中、ベンチプレスで限界に挑み、スクワットで太ももを追い込み、デッドリフトで背中に刺激を与える――その繰り返しが俺の生き甲斐だった。


 鏡に映る自分の鍛え抜かれた身体を見て、達成感に浸るたびに思う。筋肉こそが俺の全てだ、と。


 だが、ある日、その全てが一瞬で崩れ去る出来事が起きた。


 いつものようにジムに向かい、スクワットで限界に挑んでいた時のことだ。


 重りを積んだバーベルが背中にずっしりとのしかかり、筋肉に張り詰めた緊張感が走る。


「うおおっ! ラスト一発――!」


 俺は気合を入れて力を振り絞り、膝を伸ばそうとした。


 ――だがその瞬間、突然、視界が真っ白に染まった。


 眩しい光が脳裏を貫き、耳鳴りが響く。そして次の瞬間、俺の意識は途絶えた。




 目を覚ますと、俺は森の中に倒れていた。


 頬に感じる冷たい草の感触、耳元で聞こえる小鳥のさえずり。


 うっすらと開いた目に飛び込んできたのは、青々と茂る木々の葉と、それらの間から差し込むやわらかな日差しだった。


「うっ……ここは……?」


 ぼんやりとした意識の中で、俺は頭を抑えながらゆっくりと起き上がった。


 しかし、目の前に広がる光景に言葉を失う。


 見たこともない深い緑の森。


 ジムの金属的なトレーニングマシンや、汗臭い空気とはまるで異なる、澄みきった自然の匂いが鼻をくすぐる。


「なんだ、ここ……? 俺、ジムにいたはずじゃ……」


 まだ夢の中にいるような気がして、自分の頬をつねってみる。けれど、しっかりとした痛みが返ってきた。


「これは……夢じゃないのか?」


 ふらつく足で立ち上がろうとした瞬間、違和感が体中を駆け抜けた。


 何かがいつもと違う――いや、何もかもが違う。


 腕を見下ろして、言葉を失った。

 やけに華奢で細い腕。そして肌は驚くほど柔らかく、きめ細やかだ。


「……なんだこれ?」


 恐る恐る頭に手を伸ばす。

 すると、指先にふわふわとした柔らかいものが触れた。


 何だろうと軽く引っ張ってみると――痛みが走った。


「えっ、これ、俺の……?」


 慌てて近くを見回すと、少し先に澄んだ小川が流れているのを見つけた。


 俺はふらふらと歩み寄り、水面に顔を映してみた。


 そしてその瞬間、思考が一瞬停止する。


 そこに映っていたのは――長い銀色の髪が輝く、まるで人形のように整った顔立ちの少女。


 そして、その頭には、もふもふと揺れる大きなうさ耳。


 さらに驚くことに、その瞳は淡いピンク色で、どこか夢幻的な輝きを放っている。


「……は?」


 俺は何度も目をこすり、水面に映る姿を確認した。しかし、何度見ても変わらない。


「なんだこれ!? 俺……女になってる!? しかもウサ耳美少女!? どういうことだよ!」


 思わず大声で叫ぶ。


 だが、その声ですら、自分の耳を疑うほど澄んだ可愛らしいものだった。


 ――信じられない。この声が俺の声なのか?


 恐る恐る自分の体を確認する。

 華奢な腕、小さな手、女性らしいシルエット。そして背中には柔らかそうな銀髪が流れている。


「おいおい……冗談だろ……!」


 足元の水面に映る少女の顔が、俺の動きに合わせて動いている。

 しかも、頭のうさ耳もピコピコと動くではないか。


「どうなってんだよ、これ……!」


 慌てふためく中、耳に触れると、そのもふもふ感に一瞬だけ心が癒やされてしまう自分がいることにも気づく。


「……いや、癒されてる場合じゃない! 俺は何がどうなってこうなったんだ!?」


 呆然とする俺をよそに、周囲は静寂に包まれたままだった。


 ただ、さっきよりも鳥のさえずりが多くなったように感じるのは気のせいだろうか。




 だが、混乱している暇はない。


 異世界だろうが、美少女だろうが、俺は筋トレマニアだ。


 この予期せぬ状況を把握するには、行動あるのみ。


「まずは……体力テストだな!」


 俺は、さっそく地面に手をついて腕立て伏せを始めてみた。


「……軽い!?」


 驚きの声が漏れる。

 何だ、この軽さは。まるで自分の体が羽になったかのようだ。

 スイスイと上下動を繰り返しても、全く疲れを感じない。

 それどころか、動くたびに頭のうさ耳がふわふわ揺れるのが妙に心地良い。


「いやいや、これだけじゃわからん。次だ!」


 俺はその場で飛び起き、自重トレーニングの最高難易度とされる「プランシェ」に挑戦することにした。

 両手を地面に付き、体を前傾させ、腕だけで全身を浮かせる技だ。

 これができるのは、体幹と筋力を極限まで鍛え抜いた者だけ。


 普通なら相当苦労する技だが……


「……嘘だろ? 普通にできる……!」


 体はピタリと安定し、まるでこの技が当たり前かのようにキープできている。

 この小さく華奢な体なのに、筋力だけは健在どころか、むしろ向上しているような感覚だ。


 そのまま笑みを浮かべながら姿勢を保ち、軽く息を吐いた。


 全く疲れないどころか、心なしか力がみなぎってくるようだ。


「はっはっは、いいじゃねえか! もっと試すぞ!」


 俺は立ち上がり、近くの木を見つけた。

 どっしりと根を張った、かなりの大木だ。

 試しにその幹を手で軽く叩いてみることにした。


「おりゃっ!」


 バキィンッ!!


 突如響き渡る轟音に俺は目を丸くした。


 目の前の大木は、叩いた瞬間に粉々に砕け散り、上半分が斜めに崩れていく。


「うおっ……嘘だろ!?」


 俺は自分の手を見下ろした。


 この細くて華奢な腕が、どうしてこんなパワーを秘めているんだ?

 しかも、全く痛みも疲れもない。


 もう一度試しにその場でジャンプしてみた。

 体は軽々と宙を舞い、地面から数メートル以上の高さにまで到達。

 空中でくるりと回転し、軽やかに着地する。


「すごい……本当にすごいぞ!」


 驚きと同時に、自然と笑いがこみ上げてくる。


 この状況に普通なら戸惑い続けるだろうが、俺は違う。

 こんな状況でも、すぐに適応して楽しむのが俺の強みだ。


「筋肉は裏切らない……いや、この体はさらに進化してる!」


 何度か腕を振り、軽くストレッチをしてみる。

 可動域が以前より広がっているのを感じるし、身体の反応速度も格段に上がっている気がする。


 ふと目の前をふわふわと揺れる自分のうさ耳が視界に入り、思わず触ってみる。その柔らかさと弾力に、俺は一瞬だけ妙な幸福感を覚えた。


「異世界転生でウサ耳美少女……しかも超人的な力か。面白いじゃねえか!」


 俺は拳を握りしめ、意気込む。

 この体と力を得た以上、次は目標を掲げるべきだろう。


「よし、異世界でも筋肉を鍛え続けるぞ! 目指せ、最強のもふもふ美少女!」


 そう心に誓い、俺は一歩前へ踏み出した。


 きっと、これから何があっても、この力と筋肉が俺を支えてくれる。

 いや、この耳も何か役立つに違いない。

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