この作品は心理サスペンスの要素と病的な百合の雰囲気が濃厚で、ストックホルム症候群や強制的な人間関係、トラウマ依存などのテーマが巧みに織り込まれている。
全編にわたって漂う不確かさと、仄かな哀しみの中で、登場人物たちはそれぞれが抱える罪や闇ゆえに、誰よりも強く互いを見つめ合っている。
特にラストの展開が秀逸で、非常に包容力があると感じた。
歪みから生まれた関係は、もともと簡単に名付けられるものではない。その曖昧さ、あるいは未完成さが、かえって二人の感情に最も自由な空間を与えているのだろう。
そして何より、親の過去の行動に対する反応ではなく、自分自身の欲求と感情に基づいて選択をした時、登場人物たちは初めて「本当の自分」と向き合えたのだと思う。
そこにはもう関係性への定義も、病理的なレッテルも、外部からの倫理や価値観も存在しない。自身から誠実に湧き上がる感情ほど真実なものはないからだ。
ぜひ最後まで読み、彼女たちの勇気を信じてほしい。そしてその寛容さや許しを味わいながら、この関係の中で「救われたのは誰だったのか」を考えてみてほしい。
名付けられず、分類もされない感情は、その曖昧さゆえにこそ、これほど貴重なものなのだから。