第2話

ある日、里子は決心を固めて川に告げた。「私、名前を変えようと思ってる」と。川は不思議そうに里子を見つめ、どうして名前を変えようと思ったのか、理由を聞いた。


「なんで名前を変えたいの?」川が尋ねると、里子は少し戸惑いながら答えた。「えっと… 執着とか重たい恋愛とか、そういうのやめたほうがいいかなって。川は、重たい女の子、嫌いでしょ?だから、もうそういうのやめようと思ったんだ。それで名前を変えようと思ったんだ」


里子はそう説明すると、川は少し沈黙した後、困惑した表情を浮かべて口を開いた。「何か、自分のこと説明してる感じはわかるけどさ、怖いんだけど… 改善されることがあったとしても、結局どういう風に変わるの?依存って言ったら失礼かもしれないけど、私のために変わるっていうのが、そもそも重いんじゃないかと思うんだけど…」


その言葉を聞いた里子の目から、ぽろぽろと涙がこぼれ始めた。川の言葉が心に深く刺さり、里子は涙を隠すことができなかった。彼女の目には、川からの拒絶のようなものが見えた。川が本当に自分の気持ちを理解してくれているのだろうか、そして、自分がこれまで抱えてきた感情が、川にどれだけ重荷を与えていたのか、里子はその時、初めて気づいた。


「だって、私は…川を好きで、ただ川に認めてもらいたくて…」里子は涙声で呟いた。「でも、私が川を重く感じさせたくないって思うあまり、こんなことになっちゃったんだよ。名前を変えれば、少しでも私の気持ちを抑えられるかなと思ったけど、それすらも川には重く感じられるんだね…」


川は黙って里子の涙を見つめた。彼女がどれほど心の中で葛藤していたのか、そして、どれだけ自分を変えようとしていたのかが伝わってきた。しかし、川にはそれがあまりにも過剰に思えて、里子の苦しみを完全に理解することができなかった。川は言葉を飲み込みながら、少しだけ口を開いた。


「ごめん、里子。私、ちょっとわからなかったんだ。君がどれだけ私に依存してたか、どれだけ一生懸命だったか… 、でも、君が変わろうとしているのを見て、逆に自分が怖くなってしまった。だって、それが君のためにならないんじゃないかと思って。」


里子は涙を拭いながら、うつむいて黙っていた。川の言葉に、少しずつではあるが心が温まるのを感じた。依存という言葉が、自分を傷つけるものではなく、川にとっても一つの大切な気持ちだとわかったからだ。でも、彼女はまだ完全にその感情に向き合うことができなかった。


「でも、名前を変えても、私の気持ちは変わらないよ」と里子は静かに言った。「ただ、少しでも川に負担をかけたくなくて、そうしているだけ。でも、どんな名前でも、私の気持ちは変わらない。これからもずっと、川を大切にしたいと思ってる。」


川はその言葉を聞いて、少しだけ里子の手を握りしめた。何かが通じたような、少しだけ理解が深まったような気がしたが、やっぱりまだ全てをわかりきれていない自分がいた。それでも、里子の真摯な気持ちは、何かしらの形で心に響いていた。

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