02-05:思ってたんと違う

「はあっ……ふうっ……」


 ジャージー姿で、校庭の隅っこをランニング。

 グラウンドをフル活用してる各種運動部へ遠慮するように。

 3周ごとに、校庭隅のサクラ林の中で柔軟体操ワンセット。

 そしてまたランニング……。

 な、なんか……。

 思ってたのと……違う。

 違うよ蔭山さん……。


「か、蔭山さん……。トレッキング部って……意外とハードね……」

「……ですです。なんだか騙して入部させたみたいで、申し訳ないです」


 長い三つ編みを左右へ振り振り、先を行く蔭山さん。

 恐縮そうな声色で、こちらを振り向く。

 前髪で表情伺えないけど、きっと申し訳なさそうにひそめた眉してる。


「ううん、体力には自信あるから……大丈夫。はぁ……はぁ……」


 うん、体力には自信あるけれど。

 この基礎練のペース配分、すぐには掴めない。

 ランニング、蔭山さんも仁科さんも息切れなくこなしてる。

 あたしは……喉の奥がヒリヒリ熱くて、肺も脇腹も痛い。

 二人の背に、必死に食らいついてるだけ。

 なるほど、蔭山さんのあの見事なダンクにも納得……。

 ああっ……と。

 疲れで脚がもつれたっ!


「……きゃあっ!?」


 ……転ぶ。

 倒れる先は土剥き出しの地面。

 顔を……両手でガード──。


「灯さんっ!」

「えっ……?」


 崩れ落ちた上半身が、自分以外の力で引き上げられた。

 左掌が、強い力と熱に覆われる。

 転び掛けたあたしの体を、間一髪で蔭山さんが支えてくれてる。

 両手で、あたしの左手を掴んで──。

 それでもあたし、体勢立て直せなくて……。

 両膝を地面に落として……硬直フリーズ


「はああぁ……はあっ……ふううぅ……。ありがと……蔭山さん……」

「そ……そんなっ!? こちらこそ、あの、無茶させてしまって……」

「ううん、そんなこと……はあっ……ふはぁ……」


 肩で息をし、蔭山さんの右手を握り締めながら、安請け合いを心底後悔。

 部活、不純な動機で入るものじゃないよね……。

 けれど蔭山さんの掌、あったかくて、柔らかくて……。

 しっとり系の肌で……指細くて長くて……。

 爪、ナチュラルな血色でめっちゃピンクピンク。

 キレイ、KAWAIIカワイイ

 ……前言撤回。

 部活に入る動機、不純でもいいよねっ!


「よ~し、灯さ~ん。ここらで一旦、水分補給だよ~?」

「仁科……さん?」


 部長の仁科さんがあたしの背中抱え上げて、直立させる。

 それから真正面に回って、にまぁ……と緩い笑顔。


「この体力作り、トレッキングに欠かせないものではあるんだけれど~。利賀先生が楽するためにやらせてるものでもあるからぁ、根詰めなくてもいいよ~?」

「そ、そうなんです……か?」

「うん~♪ トレッキング部作りたいわたしとぉ、楽な部活の顧問になりたい利賀先生の利害が一致してぇ、この春設立できたの~。えへへっ♪」


 ふわふわとした口調。

 中肉の体型と丸めの輪郭からにじみ出る、ほわほわとした雰囲気。

 この先輩……甘えさせてくれそう。

 ──トク……ン……。

 それに比べてあの鬼畜眼鏡教師。

 おとしなく生徒やってたらズカズカつけ入られそうで、油断ならねぇなあ!

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