第2話
お待たせいたしました。
さあ、いまよそって差し上げますね。
おだしのいい香りがしますでしょう。
待ちきれなかったですか?
それはそれは、申し訳ございませんでした。
さ、どうぞ召し上がってくださいな。
この具ですか?
なにかの目玉みたい?
ああ、これは先ほど申しました、オニノメでございますわ。
この季節になりますと、沼地の畔にいくばくか生えておりますの。
黒いしわしわの皮を剥きますと、このように、つるんとした丸い果肉が採れるのですわ。
まるで鬼の目玉のようでしょう?
ええ、もちろん毒などございませんわ。
あ、ただ、この細い葉っぱは、外で見かけても決してそのまま口にしてはいけませんわ。
ええ、シタヌキでございます。
そのまま食べると、舌が爛れ落ちてしまいますので、舌抜き、と呼ばれております。
ほほほ。
ご安心なさって。しっかりと毒抜きは済ませてありますからね。
ほら。わたくしが食べてもなんともございませんでしょう。
いくら茹でても抜けないこの歯ごたえが、とても美味しいんですのよ。
そうそう、歯といえば、このハガクシは……。
あら、聞かなくてもよい、と?
そうですわね。冷めてしまってはもったいないですわ。
わたくしもいただきますわね。
え?
わたくしを待っている間に、何かの鳴き声が?
ああ、鳥の声でございましょう。
毎年この季節になると、聞こえてくるんですわ。
あらたまの
年行き返り
春立たば
まづ我が庭に
鶯は鳴け
なんて、今の平地の方々は、万葉集などお読みにならないかしら。
え?
そんな綺麗な声じゃなかった、ですか?
悲鳴のようだった、と?
ええ、ええ。
そういう鳴き声なんですわ。
あら。
ちょっと失礼しますわね。
襟元に、なにか……。
ああ、取れましたわ。
ほら、鳥の羽が。
ここに来るまでについたのでしょう。
ちょうど、先ほどお聞きになった鳴き声の鳥のものですわ。
こんな色の羽は見たことがない、ですか?
そうですか、この辺りでは珍しくもないのですが。
ずいぶん大きい?
そうですね、ヤマドリなんかに比べれば、食べ応えのある鳥なんですのよ。
ええ、そうです。
この鍋のお肉は、この鳥のものですわ。
ああ、なるほど。
ひょっとして、番を殺された鳥が、相手を偲んで泣いているのかもしれませんわね。
ほほほ。
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