33.ひな祭りは巫女さんで
「ひな祭りどーするー?」
「それ前も言ってなかったかしら?」
「いやーかるーく言ったけどさ。ほら、忙しかったし? でもほらもう今はそこまで忙しくはないからいっかなって」
「後に回す感じはあんたらしくて素敵よ」
明霞ちゃんはクスッと笑ってから座る場所を対面から隣に移動して私にしなだれかかる。
「どんなコスプレして欲しいの?」
「んー、そうだなぁ……」
正直、明霞ちゃんには男装もしてほしいけど、女の子キャラコスプレもして欲しい。心がふたつある〜。
「お雛様とかは!」
「却下」
「即答〜」
分かってたことだけど即答されて私はケラケラ笑う。
「じゃあ他に何かあるかなぁ?」
「そうねぇ……元旦に言ってた巫女にしようかしら」
「えっ、いいの!?」
隣に顔を向けると頷く姿を見る。
「でも宅コスよ。良いわね」
「じゃあじゃあ、衣装作りだね! 間に合う?」
「何を言ってるの? 間に合わせるのよ」
何を当たり前なといった目の明霞ちゃんだった。
そうして迎えた3月3日。卒業式も在校生としてちゃんとできたと思う。
明霞ちゃんのお母さんから今日はひな祭りだからって雛人形さんをリビングの片隅に階段状に飾ってくれた。
「何かおかしいところあるかしら?」
「んーんー! 大丈夫! ばっちし!」
巫女さんの格好をした明霞ちゃんに私はカメラを片手にサムズアップする。
明霞ちゃんのしている巫女装束は神社で見かけるような格好。でもただの巫女さんじゃなくて、原○に登場する
「うぅん……。いくら露出対策したとはいっても……」
姿見で体を右に左にとしながら左右に垂れる桃色の横髪の一房を弄るように触れる。
「メイドの時とは違ってなんかスースーしてて……いつもこんなふうなコスプレしているのね」
「んまぁ人気キャラでもあるしねぇ。それじゃあ撮影始める?」
「……そうね。早く始めましょっか」
ローテーブルに置いていた神子の使う札を手に取り待機してる時のポーズとか戦闘でスキル発動のポーズとか色々してくれた。
「こんな感じでどう?」
「全然良いわね。あたし着替えるから編集任せても良いかしら?」
「おっけー!」
マネキンの頭に被っていた神子のウィッグを被せて服を脱ぎ始めたのを横目に私は自分の部屋に向かって編集をし始めた。
「どう……? 編集進んでるかしら」
「わっ! う、うんっ。大丈夫だよ」
パソコンの傍らに置いてたデジタル時計を見ると編集を始めて30分は経過してた。そんな時に後ろから声をかけられて思いのほかびっくりしながら返す。
「あ、びっくりさせちゃったみたいね。ごめんなさい」
「すごーく集中してたからびっくりしちゃった」
私は両腕を広げながら照れ笑いを浮かべる。明霞ちゃんは苦笑して私をぎゅーってしてくれた。
「むふ〜!」
「ほんとあんたってばこうするの好きよね」
「んっ、だいすきっ!」
明霞ちゃんとぎゅーとするの大好き。体がぽわぽわするし、癒しになるし落ち着くのだ。
「もうそろそろ終わりそうだけどあとは明霞ちゃんがやるー?」
「そうね。あとはあたしがやるわ」
「はーい」
椅子から立ち上がって編集を変わる。
「何か飲みたいのあるー?」
「んー……ココアが飲みたいわね」
「おっけ〜」
頷きつつ明霞の耳たぶにちゅーしてからキッチンに向かった。
宅コス画像を編集し終えて、CostterとCostagramで貼ると早速たくさんの反応を貰ったみたいだった。
「やっぱりすごい反応ねぇ」
「えーっとー? 『ラピス様があの○重神子様を!?』、『めっちゃかわいい!』だってー」
ラピスとは明霞ちゃんのコス名義でアカウント名で、今までは日常系のツイートとかもせずひたすらにコス画像を貼ってるだけだ。
文化祭でのメイド服は集合写真は私のアカウントで加工処理して出したけど。
「これを機に女の子キャラのコスプレして欲しいみたいなのもあるねー」
「うーん……あまり露出しなかったら」
およ? 割と好印象……?
「じゃあじゃあ!」
「待った」
身を乗り出しかけて顔の前に平手を向けられる。
「ああは言ったけど、こういった日以外はダメよ」
「ちぇ〜」
「こうでも言わないとあんたのことだから色々させたいって言うじゃない」
それはほんとにそう。明霞ちゃんにして欲しいコスはいっぱいあるんだもん。
「納得してくれて良かったわ。それじゃあひなあられ食べましょっか」
「は〜い! ねね、あーんしてー」
「はいはい。ほら」
摘まれたひなあられを雛鳥のようにパクパク食べる。ひなあられ自体美味しかったけど、明霞ちゃんから食べさせてくれるってことが特別なのだ。
「ん〜! おいし〜!」
明霞ちゃんの肩に頭を預ける。初めての2人で過ごすひな祭りの日はとっても幸せだった。
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