25.栞里さんに胃袋を掴まれてside.明霞

 付き合ってはや2ヶ月。あたしは日に日にダメになっていってる……というより元よりズボラではあったけど。……まぁ、そこは置いといて。


 今は暇が出来たから、日記を書き始めるとするわ。


「……って言っても何を書いたら良いのかしら?」


 書くこと多すぎて分からないわね。

 そうねぇ……。


「……あ、そうだ」


 栞里しおりさんが作ってくれた手料理の感想でも書こうかしら。


 あたしはふんと鼻息を鳴らして広げたノートに羅列していく。




 【12月5日 晩ご飯に作ってもらったもの】

ポーチドエッグを作ってもらったわ。結構難しいって思ってたけど、栞里さんは難なく作ってて羨ましかったわ。なんであんなに上手く出来るのかしら?


しかもちゃんと半熟で味もしっとりしてて若干の塩加減もちょうど良くて、ずっと家にいて欲しいくらい。


ほんとうに大好きよ。もしあたしが男の子だったら────────────(ペンで掻き消してるため判読不能)




 な、なんてこと書いてるのあたし!

 あ、あたしそこまで堕ちてたかしら?


 よくよく考えるとそんな覚えないわねと思い直す。たしかにあの子の作るものは美味しい。お母さんが作る料理と同じくらい好き。だから別に堕ちたわけじゃ……。


 ん……? お母さんが作る料理と同じくらい……


「って、何考えてるのよっ!」


 机にバンっと手を当てて、ベッドの上に飛び乗る。両足を抱えてボソッと呟く。


「────別に、栞里さんの料理嫌いじゃ……」


 ぼふっとベッドに横になって丸くなるようにさらに膝を抱える。

 こんなふうに思うなんてまるで餌付けを待ってる雛鳥じゃない。


 あたしは……別に、胃袋なんか掴まれてなんか……ない、……ん、だから……。




 ピピピピピ────。


 気付けば、寝てた。いつからかスヌーズ設定してたスマホの目覚ましが鳴るのを耳にしてのそりと起き上がる。

 目が開かない。とっても眠い。もっと寝てたい。だけど。


「んんぅ〜……!」


 目を掻きながら大きく伸びをすると部屋の扉が開いた。


「あ〜起きた〜。おはよ、明霞めいかちゃん!」


「んぇ? あれ、なんであんたがいるんだっけ?」


 そこには制服の上に薄ピンクのエプロンを着た栞里さんが立っていた。あくびもしてる最中だったから変な声出ちゃったわ。


「なんでって、明霞ちゃんが合鍵渡してくれたでしょ? 『もっとあんたの料理食べたいわ』って言ってさ」


「……っ! そんなこと、い、言ってな……!」


 自分でも顔が熱くなるのが分かって、カァっとしながら立ち上がるけどその時の記憶が蘇り、しゅるしゅると座り込む。


「なはは! 朝ごはん食べる?」


「……食べる」


「おっけー。あっ、明霞ちゃんのお母さんとお父さん用にも残しておこっか?」


「そう、ね……。えぇ。残しておいたら食べるんじゃないかしら?」


「はーいっ。じゃあ作ってるから顔洗ってきなよ〜?」


 ……なんというか。栞里さんがいる日常が当たり前になってきたわね。でも、その変化があたしは楽しく感じてる。


 ────はぁ……。あたし、ほんとにダメになりそうね。


 もうすでにダメになっているというのに、そこに気づくあたしじゃあなかった。

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