23.付き合ってからの初デート……?

 付き合い始めてなんだかんだでもう12月。

 月末にはコミケがあるけど、今日は付き合ってもうそろそろ2ヶ月。


「あんたから誘ってもらったのは嬉しいけど……なんでここなのかしら?」


 私が連れてきたのは水族館。

 いつかは行ってみたかったから来れてよかった。


「私が来てみたかったからだけど……だめだった?」


 首を傾げながら見つめると、明霞めいかちゃんはパッと顔を逸らして「別に」と呟いた。

 お耳真っ赤になっててかわい〜!


「ちょ、抱き付かないで……」


「明霞ちゃんがとってもかわいいのがいけないよ〜!」


「わ、わかったから! はやく中に入りましょ」


「えへへっ♡はーい!」


 明霞ちゃんの腕にいつものように抱きついて水族館に入る。


「あっ、サンゴ……なんて読むのかな? の海だって〜」


「サンゴ『しょう』と読むわ。ほらここ、ルビ振ってあるじゃない」


「あっ……えへへ。ありがと」


 パッと見ただけだったからふりがなまで読めてなくて少し恥ずかしい。


「せっかちさんね栞里しおりさん」


 付き合って2ヶ月近くだから私の名前を呼ぶなんてのはもう慣れたんだろう。最初の頃は恥ずかしがってたのに。でも嬉しいからもんだいなし!


「そ、そこまでせっかちじゃないもーん。ただ漢字よわよわなだけだもーん」


「あら。オタクなら漢字に強くなくっちゃダメじゃないかしら?」


「あったしかに」


「ちょっと、もう少し反論しなさいよ」


 ジト目を向けられるけど明霞ちゃんの言葉は確かにと納得が行ったからなぁ……。


「ま、まぁ先進もうよ!」


「まったく……調子がいいんだから」


「にひひ、それが私なので」


 何事もなんとかなれなのが私なのだ。

 私は笑いながら隣のコーナーを指差しながら向かった。




 2階へと向かう途中。アーチトンネルのコーナーを通った。


「クラゲぷかぷかしてる〜」


「綺麗ね」


 頭上の水槽を泳ぐクラゲをゆっくり見上げながら眺める。ぷかぷか泳いでいてかわいい。その姿を見ながらぽつりと声に出してしまう。


「……こんなふうにいたいよね」


「どうしてかしら?」


「へ? あ、声に出てた?」


 頷かれた。え、うそ。くっそ恥ずかしいんですけど?

 私は恥ずかしくて顔が見れず、黙ってしまう。


「ね、教えてくれるかしら」


「えと……その、このクラゲたちってさ、ゆったりしてて天敵もいないからってのもあるんだろうけど」


 顔の前で手のひらをパタパタ振りながらアーチ型の水槽をまた眺める。


「……自由でいいなぁって」


「あぁ、なるほど。ふふっ。そうね。確かにあんたはのんびりしてるものね」


「えぇーそうかなぁ?」


「そうよ。あんたは誰よりものんびりさんよ。そんなあんただからあたしは好きなのよ」


「んくぅぇ……」


 唐突に言われて喉が変な音が鳴った。そんな私の様子を見ておかしいように明霞ちゃんはクスクス笑った。


「それじゃあ2階に行きましょう?」


「……う、うん」


 今日の明霞ちゃんは少しイジワルだ……。でもそんなとこも好きなんだよなぁ私。


「……ここなら良いかしら」


「え……?」


 暗がりの中で、影が降りてきた。降りてきた方に顔を向けると明霞ちゃんの顔が近づいていて、私は身を固めたままでいたらちゅっと唇が触れた。


「…………!?」


「……ごめん。あまりにも可愛かったからしちゃったわ」


 こんなところでちゅーするなんて反則以外のなにものでもないよ明霞ちゃん……。


「あら……? 大丈夫? って固まってる……!?」


 明霞ちゃんが私の目の前で手を左右に振ったりしているのを見て我に返って、抜けない衝撃のまま見つめる。


「……ひきょーだよ明霞ちゃん」


「ダメだったかしら」


「だめ……じゃないけど、ぉ……」


 どうしよう……。私もしたくなっちゃったじゃん。


「したくなった?」


「……へっ?」


 どうやらバレてるみたい。


「あんたの目がそう言ってるわよ」


 フッと微笑んで、私のほっぺを撫でられる。

 たったそれだけなのに、私はドキドキしてしまう。暗がりの中なのに、明霞ちゃんの顔が分かる。


「め、……いかちゃ」


「トイレ、行きましょうか。パフォーマンスステージでのショーもまだ時間あるみたいだし」


 明霞ちゃんはそう告げてから私の手を引いて、2階のトイレへと連れて行かれた。




 ──────ガッチャン。


 個室の鍵が閉められて、後ろから抱き締められる。背中に当たる明霞ちゃんの豊かすぎる胸。耳に当たる吐息がこそばゆい。


「め、明霞ちゃ、んっ。……い、息」


「当ててる、なんて言ったらどうするの?」


「ひぅ……」


「ふふっ。また変な声出てるわね。そういうとこほんと可愛いわね。あー、……好き」


「んんっ……!」


 声をひそめるように言われて、変な声が出かけた。私は急いで手で口を覆う。そうしてなお、耳に生温かい吐息がかかる。


 ────私、耳弱かったんだ。


「……はむ」


「〜〜っ!?」


 また危うく声が出かけた。ううん。手で塞いでいるから出てはいるんだろう。今、明霞ちゃんに耳を甘噛みされたのだ。これはいわゆる、耳責めというやつだ。


「ぁむ、ちゅ……れろ」


「ぅぅんっ! ……ぁ」


 ぴちゃりと水音が聞こえた。耳責めが堪えられそうになくて足が震えて壁に手をつく。両手で塞いでいたのが片手になり、声がおさえられそうもなくて首を左右に振る。


「っは、ふふっ。いつかはこうしたかったの。あんたに責めてみたかったわ」


「ふぁ……ん、けど……こ、こんな場所は、は……恥ずかしいよぉ」


「分かったわ。じゃあ、キスしてもいい?」


 明霞ちゃんのお願いには断れない。コクっと私は頷くと、顎に指を添えられて明霞ちゃんの方を向かせられる。


「ん、っ……んんっ」


「んっ、ちゅ」


 舌が、触れた気がした。

 唇が離れた後、見つめあってからまた唇を合わせた。合わせては離れてを2回は繰り返した。


 ────好き。好きすぎてお腹、きゅんって……。


「はぁ、はぁ……」


「ん、んん……ねぇ、明霞ちゃん」


 もうショーとかどうでも良くなってきちゃった。

 今はもう、明霞ちゃんと一緒にいれたらそれで。


「お家、行こ? 私の」


「……帰っていいの?」


 私は頷く。我慢が出来そうにないから。

 明霞ちゃんは優しいけどその笑みがとってもえっちだった。


 ────私、抱かれちゃうかも。


 自分から誘っといて、何言ってるんだと言われたらそれまでだけど。

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