22.告白の返事に祝福をside.明霞

 あたしから話をしようって言ったのは良い。けどその実、この行動が正しいのかどうか分からない。


「────はぁ」


 学校について一息。


 篠宮しのみやさんの好意には気付いていた。あたしはそこまで馬鹿じゃない。でもそれはあたしに向けていいものじゃないと思って見ないフリをしていた。


「でも……もうちゃんと向き合わなきゃいけないわよね」


 自分の机にバッグを置く。まだ誰もいない教室。この前まで文化祭で使った教室。いつもの教室はみんな思い思いのことを言い合って賑やか。


 けど今だけのこの時間はあたしだけしかいない。静かであたしの呼吸ひとつひとつがしっかりと聞こえる。


「──────」


 換気のためにカーテンを開け窓を少し開ける。

 少し冷たい風が吹いて体が震えて開けた窓から離れる。


 いつもならあたしが登校して程なくして人が多くなった頃に篠宮さんは登校してくる。けどどうだろう。10分か20分経った頃にあたしの居る教室に向かってくる足音が響いてきた。


 ────来た、かしら。


 その足音が篠宮さんであるなら、だけど。


「あ、お、おは……おはよっ! 明霞めいかちゃん!」


 大きな裏返った声が後ろから響く。その声は待ち望んでいた篠宮さん。

 窓に目を向ければ風が吹き込み、カーテンがふわりと膨らむ。あたしはちゃんと笑えているかは分からないけど振り向く。


「おはよう篠宮さん」


 そこにいたのは恐らく走ってきたんだろう。頬が上気してる篠宮さんが立っていた。それにいつもより硬そうな雰囲気だと思うのは気のせい、なのだろう。


「……ぁ。えと……め、いかちゃん。ちょっと……いい?」


 気のせいじゃなかった。声音も震えていて、胸部分の制服を握る姿も緊張していますと言ってるようなものだった。


「えぇ。良いわよ。でもその前にバッグ、席に置いたら?」


 席を指しながら言うと、篠宮さんはこくこくと頷いてぎこちない歩き方で向かう。大丈夫かしらと心配に思ってる自分に内心驚く。


「……じゃああっち、行こ?」


 人が来るのを危惧して……もあるだろうけど、篠宮さんに至ってはそうではないんだろう。あたしは頷き、先を歩く篠宮さんの少し後ろを歩く。




 ────あ、ここは。


 移動中は言葉のひとつも無かった。

 そして一緒に向かった先は、初めてちゃんと話した階段横。


「…………」


「…………」


 着いてからもあたしたちの取り巻く空気は沈黙で包まれている。どちらかからでも声を掛けるだけ。たったそれだけなのにあたしは出来なかった。

 篠宮さんの顔も徐々に緊張感で辛そうな顔だった。その顔は見てるこっちも辛く感じてしまう。だから──。


「────篠宮さん」


「は、ひゃいっ!?」


「……ぷっ、っく、ふふ……っ」


 肩をこれでもかというほどビクつかせながらまた声を裏返らせる反応する篠宮さんが面白くてあたしは吹いてしまう。


「──────……かわいい」


「…………?」


 何か呟いたのは分かった。けどなんと言ったのか聞こえなくて首を傾げる。すると篠宮さんは目を段々と潤ませて泣き始めた。


「し、篠宮さん? なんで泣いて」


「ふぇ? え、な、んで……あ、はは。と、止まんないや」


 泣いてることに気付いた篠宮さんは涙を拭いながらもぽろぽろと溢れてくる涙に思わず笑っていた。

 あたしはもしかしてまた傷付けた? と思って、どうにかしなきゃと思い、ハンカチを取り出して篠宮さんの涙を拭う。あたしに拭かれながら言った。


「わた、しね。ばかだ……。せっかく言おうと思ってたのに、決めてたのに……引っ込んじゃって」


 ────なんだ。一緒じゃない。


 その言葉を聞いて、篠宮さんもあたしに言いたかったことあったんだと気づいた。

 あたしは努めて笑みを浮かべて答える。


「あたしも、決めていたのよ」


「え……?」


 あたしのハンカチには涙と一緒に落ちてしまったファンデーションも付いていたけど、気にせずに篠宮さんの両頬を優しく両手で挟む。


「一度しか言わないから、良く聞きなさい」


 じっと篠宮さんの茶色い目を見つめながら続ける。


「篠宮栞里しおりさん。あたしはあんたのこと、好きよ。。友達としてじゃないのは分かってるわね?」


 ゆっくりと見開かれてく目。そしてまたぽろぽろ流れてく涙。


「あ、あぁあちょ、ちょっと! なんでまた泣いてるのよ!?」


「だ、だってぇ……! わたっ、しから言いたかったの! でも言えなくって……ぇ!」


 またあたしは篠宮さんの涙を拭いていく。ズビズビと鼻を啜る篠宮さん。


「じゃあ、聞かせなさい」


 徐々に覚悟が決まったような目をするのが分かったから顔から手を離す。


明霞めいかちゃんっ」


「えぇ」


「私、し、篠宮……栞里は、明霞ちゃんのことが」


 あたしを真っ直ぐ見つめるその目が、顔があたしは好きなんだ。


「ずっと、ずぅっと前から大好きです! 私の恋人になってくださいっ!」


 その真っ直ぐな気持ちにあたしも答えよう。

 あたしは自分の胸に手を当てて微笑みながら答える。


「──────こんな、あたしで良ければ」


 そっと指を絡めるように手を握る。篠宮さんは目の端に涙を溜めながら笑うのを見て、あたしも笑う。


 その時、廊下の先が人の気配が増えてきた。それに気づくあたしたちだけど、気にしないように頭の隅に追いやり、篠宮さんに顔を近づける。


「…………んっ!?」


「……ん、ふふっ。今はこれでおしまい。また今度続き、しましょ」


 顔を真っ赤にさせる篠宮さんに笑いながら離れて今はバードキスで終わらせた。

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