現実世界でスキルを持った女の子『私お花の声が聞こえるの』

音無 雪

第1話 私お花の声が聞こえるの

異世界転生と言われる物語は数多くございます。


剣と魔法が当たり前のように存在する世界


人々は生活の中で魔法を使うことで日常生活を豊かにし、時には魔物を撃退する強力な武器となる。

転生した主人公はスキルと呼ばれる特別な力を持って無双する物語


心躍るものがございますね。わたくしも楽しませて頂いているひとりでございます。



精霊の声を聴き、心通わせて術を紡ぐ

素敵ではございませんか



しかしそれは本の中に物語として存在する架空の世界でございます。残念ながら現実世界には魔法も精霊も存在しません。子供の頃、絵本やアニメで見た夢物語 大人になれば知識と理性で否定してしまう夢物語 


そう 夢のお話でございます。



そのうえであえて語りましょう。




この現実世界で『世界樹の聖女』と呼ばれる「じゅうななさいの乙女」が伝える物語





この物語を手に取っていただいたあなたは幸せな方でしょう。



心豊かな方でしょうから




―――― § ―――― § ―――― § ――――




青い空 入道雲  夏




小高い丘の上にある我が家


ご先祖様から受け継いだ敷地は庭師の方々に入っていただかなければ維持が出来ない程度には広い面積がございます。

その中でもちょうど丘の一番高い位置に当たる場所 私の身長程度に塚のような小山がございます。


小山の上には立派な楠



遠く離れた場所からもわかるほどに枝葉を伸ばした大樹でございます。



街の方々からは親しみを込めて「世界樹」と呼ばれております。


世界樹の下にある敷地は地域の方のために小さな広場として開放しております。

ご近所さんの有志により花壇やベンチが整備され、いつも快適に過ごせる場所として維持されております。

みなさんのご厚意に感謝いたします。



そんな優しき有志のひとり、小学生のみどりさんが今日も花壇のお世話をしております。毎日のように来てくれるのですよ。



「雪ねえさま おはようございます」



挨拶もしっかりできる礼儀正しい女の子。私の事を「雪ねえさま」と呼んで慕ってくれる可愛い妹の一人でもございます。

妹と申しましても血のつながりはございません。私は一人っ子でございます。

だからでしょうか 妹として可愛がる対象が欲しいのでございます。そうやってじゅうななさいまで生きておりますと何人もの妹がおりまして、その中でも彼女は最年少でございます。

ちなみにじゅうななさいよりも年上の妹も存在しますが、時空の歪みや思春期症候群の類と理解していただけると幸いに存じます。



花壇に水を撒くために小柄な身体でホースを引っ張っている姿は見ているだけで癒されます。無自覚に「よいしょ よいしょ」なんて口にしているのが愛らしくてたまりません。



「このお花がせまいよって泣いてます。おひっこししてもいいですか」



見ると少し元気のない花がありますね。周りよりも大きいですから根を張る場所が必要なのでしょう。

花壇の管理権限はみどりさんにありますからね。自由に植え替えしてくださいな。新しく場所を作っても良いですよ。


花壇の端には『花だんのおどうぐばこ』と書かれた木製の箱が設置されております。そこから愛用のスコップを取り出すみどりさん


いくつもの道具が収納されておりますが、その中にみどりさん専用の道具が用意されているのです。花柄のテープを巻いてある物がみどりさん専用ですね。これは他に使う方々がみどりさんに敬意を払って行っているのですよ。一目置かれているのでございます。




「おひっこししますよ。少しがまんしてください」


話しかけながら丁重に丁重に掘り出します。植え替える場所は広場の奥にある別の花壇になったようです。すでにふわふわの土が待っていますよ。




「こっちが前でいいですか」


に確認しているようです。たしかにそちらの方が美しく見えますね。

土をかけて安定したら葉や花にかからないように根元へ水を注ぎます。花の状態によって散水方法も変えるのが彼女のこだわりです。植え替えが終わって満足したようですね。




この広場に植えられた花のほとんどはお花屋さんで廃棄される寸前のお花をご厚意で頂きました。枯れ始めて商品としての価値がないと判断されましたが、まだ生きているからと移譲されたお花たちです。しかしここで立派に育っております。むしろ育ちすぎではないでしょうか 


管理について陣頭指揮を執っているのがみどりさん

彼女の指示は迷いがなく、しかも常に適切な方法なのでございます。



力を取り戻して咲き誇る姿を見てお花屋さんは喜びながらも苦笑いをしております。


「ここまで実力差を見せられると勉強が足りないって思い知らされるね。何が違うのかな」




そう 彼女は何かが違うのです。



『私 お花の声が聞こえるの』


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