ちょっとだけイキる、ただしモテないものとする
@NEET0Tk
第1話
学校生活とは難しいものだ。
それは勉強も然りだが、同級生との付き合い、部活動や行事への熱、絶対的上位者先生との対立などなど。
あまりに問題点が多いこの生活で、俺にとっての日常とは常に未知との経験ばかりである。
「よろしくね」
「あ、あぁ」
隣の席へ座ったのは、このクラスで1番可愛いと噂されるクラスメイト。
そりゃ当然だが女優とかアイドルの方が顔自体はいい。
だがなんというか、同い年のみんなの人気者が笑顔で話しかけてくれる。
そういう状況というのは、案外心が躍るものだ。
さて、ここで俺の思考に巡るのはどうすれば彼女に良く見られるか。
それは付き合いたいという気持ちもあるが、可愛い女の友達がいるというアイデンティティは俺の心を豊かにする。
学生にとって、美男美女という存在は近くにいるだけで自身の価値を上げるのだ。
だが勿論物事はそう簡単ではない。
「えーそうなんだー」
クラスのマドンナ、通称Aは後ろの席の女子と楽しそうに喋っている。
あの環境に潜り込む事は愚策。
『え、何こいつ急に。空気も読めねぇのかよキモ』
と思われるのが関の山だ。
ではどうするか。
簡単だ、隣の席というのは授業中で数多くのイベントが存在する。
それを利用すれば喋る機会などいくらでもあるのだ。
「では隣の人とこの問題について話し合ってみて下さい」
そう言われると、Aは悩ましげな顔でこちらを向く。
きっとこの問題について考えているのだろう。
ちなみに俺は答えはすでに分かっている。
さて、ここで俺には様々な選択肢が課されるわけだ。
1、素直に答えを口にする
これは一見正解に見えるが、その実最も愚策と言えるだろう。
『これ、毒です』
『なるほど!!』
と一瞬感激されるが、その後の話し合いが続かない。
これではせっかくの話し合い時間を無駄にしてしまう。
2、分からないふりをする
馬鹿か、あり得ない。
あ、こいつわかんね〜んだ。
そんな感想を抱かれたと思い込むだけで俺の心は強烈なダメージを受ける。
きっとこれから分からない場所があっても
『あいつ馬鹿だしいっか』
となれば終わり。
それは死んでもごめんだ。
ではここで第3の選択肢
「問題、分かったか?」
そう
一度相手に委ねるだ!!
彼女の様子からして間違いなく答えは分かっていない。
そこで詰まっている部分を俺が少しずつ導いてやれば、話も弾み俺の知的さもアピール出来るわけだ!!
さぁ教えてごらん、どこが分からないんだい?
「えっとね、ここまで出てるんだけど……あ、待ってね」
「ん?」
「ここがこうで、こうで、こうか!!」
「あ、あぁ」
「やった!!」
Aは嬉しそうに笑う。
皆が言う通り、素敵な笑顔だ。
「永遠はどう?分かった?」
「あ、あぁ、一応」
「そうなんだ。えへへ、みんな悩んでる。私達天才コンビだね」
「……そうだな」
そしてAは後ろの友人の方へと行き、「分かんないかー」とニヤニヤと笑っていた。
はぁ、またカッコつけられなかった。
「なぁ永遠。これ分かるか?」
「……隣の人に聞け」
「コイツ馬鹿だから分かんねーんだよ」
「あんたも馬鹿でしょ!!」
「俺はお前らが羨ましいよ。いいか、ここはだな」
俺は虚しさを抱えながら問題を教えるのだった。
◇◆◇◆
男として生まれたからには、一度は夢見るイキり。
さて
「あれ〜」
何やらAがガサゴソと忙しそうに音を立てている。
どうやら筆記用具が無くなった様子。
ではここでの選択肢は一つだけ。
そう、無いなら貸すだけだ。
「ほら」
「え?」
「無いんだろ?」
俺はスッとシャーペンを手渡す。
Aはそれを見て、パチクリと瞬きをする。
そして苦笑いを浮かべながら
「ごめん、無くしたの消しゴム」
と口にした。
俺は表情を出来るだけ変えず、机に視線を戻す。
俺の持つイレイサーはただ一つ。
つまりこれを貸せば俺は今から行われる小テストをミス無しでクリアする必要があるわけだ。
いけるか?いや、やるんだ!!
あそこまでやっておいて「消しゴム一個しかないや、ごめん」は男が廃る!!
さぁ勇気を出せ、時にはテストよりも大事なものがあるだろ!!
「あ、じゃあこれ」
「わー!!Bちゃんありがとう!!ん?永遠君何か言った?」
「……いや、良かったなって」
「うん!!見てBちゃんの消しゴム、可愛くない?」
「(何このキャラクター意味分かんねー)ああ、結構好きなデザインかも」
「だよね!!」
こうして小テストが始まった。
俺の点数はなんか微妙だった。
ちなみに一回だけミスをした、俺はしっかりと消しゴムを使ったのだった。
◇◆◇◆
休み時間に特段話しかける事はない。
何故なら目の前に男友達がいる中で女子に話しかければ、それは弄りの対象になるからだ。
これは一軍男子だろうと同じ事。
奴らは最初に群れを無し
ある程度の好感度を獲得してからが『女友達』というレッテルを我が物とし、タイマンでの戦闘を行へるようになる。
だが残念ながら一軍どころか二軍にすら入っているか分からない俺が女の子に話しかけるにはどうするか。
そう、大義名分。
話しかける何かがあれば、躊躇いが消える。
そして現在、俺はとあるアイテムを手に持っている。
それは先程彼女が無くした消しゴム。
どうやら俺の椅子の下に落ちてたようで、影が重なり見つけられなかったようだ。
ここは素直に返すが吉だが、それでは会話とは言えないだろう。
何か更なる力はないだろうか。
「ッ!!これは!!」
そこで気付く。
消しゴムに、謎のキャラクターがいることに。
先程Bが持っていた消しゴム、あのキャラクターと雰囲気が似てる。
どうやらこれはシリーズものらしい。
であれば、先程俺が設置した布石が上手く発動する!!
そう、好きな物談義。
それは男女問わずあらゆる人間が求める魅惑の言葉。
自身の好きなものを語り合える喜びというのは他には言い難い魅力があるのだ。
筋道はできた。
後は俺のアドリブ能力を試すのみ!!
「A」
「ん?永遠君どうしたの?」
「これ、消しゴム」
「わぁ!!ありがとう!!どこにあったの?」
「椅子の下。隠れるように落ちてたんだ」
「えー、全く、私から逃げようなんて悪い子だなー」
俺はAに消しゴムを返す。。
それは女の子の手だった。
「ところでそのキャラ、さっきのと同じやつだろ?好きなのか?」
「え」
俺の言葉にAが驚いた表情をする。
なんだ、何をミスった?
「えっとね、Bちゃんのと私のは全く別のキャラクターかな。い、言われてみれば確かに絵柄が似てるかも!!」
「……」
先程は良く見てなかったBの消しゴム。
今一度みれば、全然キャラクターが似てなかった。
記憶のずれ。
どうにか共通点を見つけようとするあまり、無理矢理関係性を求めたのだ。
「……どっちも、俺は結構好きだな」
「女児向けアニメのキャラだけど……見る?」
「……気が向いたら」
「そうなんだ」
俺は窓の外を眺め、ちょっとだけ涙を流したのだった。
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