第19話 じゃあ、いちごで
「雪歩ちゃん、颯太に何か隠してるんじゃない?」
姉さんの言葉を聞いて、雪歩が俺の告白に応えないことに確かに理由がある、と思った。小学生の時も、そして今回も雪歩は告白後も変わらずに友達でいようとしてくれた。小学生の時は、それが雪歩の優しさから来ていると思っていたが、今回、はじめて俺を好きだと言ってくれた。プールの予定も変更することなく、俺が言った通りの7月30日に決まった。
付き合いたくない相手とプールに行くだろうか。好きでもないやつにお世辞で好きと言うだろうか。姉さんにあれだけ言いたいことを言われたら、普通なら距離を取ろうとするはずじゃないか。
もし、友達でいたいと思っても、ここまで言われてしまえば、勘違いされないように行動しないと、既成事実のためにキスなど直接的な行動に走る可能性だってある。もちろん、俺はそんな事しないと思ってるだろう。でも、ここまで引き伸ばされて、しかも好きと言ったのだ。それを理由に距離を縮めて来てもおかしくはないだろう。
それなのに、雪歩は距離を取ろうとするどころかむしろ、距離を縮めて来た。つき合いたくない相手にする事じゃないと思う。
「俺とつき合いたくない、どんな理由があるんだよ」
「それは分からないわよ。でも、あの娘のたまに見せる颯太を見る目は恋人同士のそれに似てるんだよね」
なんか今日の姉さん、凄く良い人に思えてくるんだけどな。俺みたいな奴のために自分のことのように怒ってくれて、客観的な評価まで伝えてくれて。
「姉さん、よく分かるね」
「だてに女を20年近くやってるんじゃないわよ」
姉さんと雪歩じゃ、同じ女でも全く違うと思うが……って、そんなこと言ったら絶対しばかれるだろう。
「ありがとうな。そのうち、姉さんの魅力が分かる男と出会えること、祈ってるよ」
「祈らなくていいわよ!! 颯太は押しが足らないんだよ。だから、振られるんだよ!!」
「姉さんみたいに押しまくったら、成就すると?」
「きっとするね」
この人には大人の余裕と言うものが無いのだろうか。そうやって食い下がって、一度のエッチで何回も振られた。まあ、やりたい男と雪歩を同列に考えること自体、無理があるが……。
「何か言いたそうね」
「いや、……別に……、何にも……」
「必死になった挙句、男と一回エッチして、その場で捨てられた可哀想な女とか思ってないよね」
「お、……思ってません」
こういう時だけ察しがいい。まあ、でもこの人はとことん男運がないのだ。きっと、姉さんの魅力が分かる男もいそうなもんだが、どうもチャラ男が好きみたいで、好きになる男の趣味が本当に悪い。
「本当に颯太って、雪歩ちゃん一途だよね。たまには他の女の子と付き合って、とりあえずエッチしたらどう? きっと雪歩ちゃんとの恋も上手く行くと思うよ」
「そんなわけ、あるか!!」
押してダメなら引いてみろか。言ってることも一理あるとは思うが、この人の貞操観念はかなり低いため参考にはならない。そもそも、これで上手くいっても人としてダメだわ。
「まあ、そういう真面目なところが颯太の良いところではあるんだけどね」
「そのくらいしか取り柄がないからな」
「そんなことないわよ。きっと、雪歩ちゃんも颯太の誠実なところ好きなんだと思うよ」
好き……、確かに雪歩は俺を好きなんだよな。確かに雪歩に好かれているとは思う。そうじゃなければ、こんなに長い間一緒にいたりはしない。
「どうして、振られたんだろうな」
「直接聞いてみたら!?」
「馬鹿、言うなよ」
聞いたって、はぐらかされるだけだ。それにしても雪歩が俺と付き合えない理由って、一体なんなんだよ。
「このまま、今と同じようにつき合っていくしかないのかなあ」
「いつかは……それで成就すると良いね」
うーん、いつかは、か……。なんか、それでも良くね、という気がするが、どちらにせよ、何故、好きなのにOKしてくれないのか知っていた方がいい。
「難しいなあ」
直接、聞いても無理だろう。誰か教えてくれれば良いんだけどなあ。それ、誰だよって感じだ。
なんとかなりそうなのに、なんとかならない。本当になんだかなあ、だ。
「姉さん、女の視点として、告白にOKしない理由ってなんかあるかな?」
「ん、単純に嫌いとか……」
姉さんはあはははっ、おかしいと本気で笑う。本当に悪そうに笑うよなあ。馬鹿にされてるのがはっきりと分かるよ。
「だから、男にモテないんだよ」
「うわっ、すごい爆弾落としたね。マジで最低だよ」
姉さんは俺の上に乗っかって来た。
「重い、重いってば!!」
「重いだと!!」
ああ、またもや地雷を踏んでしまったか。雪歩もこんな簡単に分かるなら苦労しないのにな。姉さんなら、きっと困ったことがあったら、すぐに言ってきそうだ。
えっ!? 困ったこと?
「なあ、女の人にとって付き合えないほど、困ったことってなんだろ?」
「うーん、余命いくばくもないとか?」
「いや、マジでやめて……、冬月はピンピンしてるだろ。入院してるって聞いたことないしさ」
「でも、たまに薬もらいに病院行ってるみたいよ」
「そんなもん、女の人なら色々あるだろ」
「まあね……」
でも、そのネタはカマをかけるのに良いのかも知れない。わざと大きく出ると言うのは逆に本質が分かる可能性が高い。
「なあ、冬月が驚くほどのプレゼントってなんかあるかな?」
余命いくばくもないから、こそプレゼントするものがいい。
「指輪!?」
「はああああっ、真面やめて!! 俺振られたんだぞ!!」
「病人なら……イチゴとか?」
確かに今の季節、店頭でイチゴは売ってない。今のイチゴの価格は……あった。
「は、八千円……」
「安いじゃん」
そりゃ、姉さんは他人事だから言えるんだよ。少ない小遣いで8000円は正直キツイ。
「貸しといてあげようか」
「いいの!?」
「まあ、焚きつけたのわたしだからね。余命いくばくもないと思われたら、きっと正直に言ってくると思うって」
7月30日か。その日にイチゴをプレゼントをしよう。これしか本当のことを聞き出す方法はない。
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