伯爵令嬢は王子との婚姻は望みません!【全3話】【お題で執筆!! 短編創作フェス】【羽】【10】【命令】
Minc@Lv50の異世界転生🐎
第1話 落ちた
「あっ!」
そう言って手を伸ばした時には時すでに遅し…でダチョウの羽は階下へとふわりふわりと風と
ここは2階のバルコニー。ロココ調の建物で曲線的な宮殿のバルコニーの手摺は曲線的な脚で支えられており幅も広かったので上半身を思い切り載せて円舞曲を踊りながら舞い降りる羽を見送っていた。
ここ数カ月でいろいろとあった。
親友のリズはバラーク王国へと嫁ぎに行ってしまい、ニーナは仕事で忙しくしている。結婚できるかもと思っていた男性はその詐欺に合い大騒ぎしていた。その姿はとても浅ましく恋心も一瞬で冷めてしまった。親も貴族にしては珍しく恋愛結婚だ。兄がいて家も安泰なので恋愛結婚を望んでいる。
今日は新しい16歳のためのデビュタントを兼ねた王宮の舞踏会だ。白いドレスに身を纏ったデビュタント達はとても初々しく、これもまた自分の気持ちと対照的で余計に落ち込ませる。
もう社交界デビューして1年。ある程度の貴族の独身男性も知っているし、ここから恋に落ちるって事も無さそう。
羽が落ちていく様子は自分のやる気を表しているようで、つかみ損ねた羽はただただ風に揺られて落ちていくだけだ。
(マーサが『今日は絶対に
そう心で言い訳をしてそろそろ上半身を起こして元に戻ろうと手を手摺にかけて起き上がろうとした瞬間!
ズルッ!と手が滑り重心が柵の外側に!離れたはずの地面との距離がまた少し近づいた!
と思ったらふわぁっと遠のいた。遠のいたどころか景色は地面の方から空へと世界が一転し、そして先ほどまでバルコニーから見ていた庭園の景色へと戻った。
あまりに一瞬の出来事で声を上げることもできなかった。
「大丈夫ですか?」
その声で我に返る。どうやらこの声の主に助けてもらったようだ。
「あ、ありがとうございます…」
自分の腰にその人の腕が回っていてその男性に密着している事に気が付いた。
「申し訳ございません。手を滑らせてしまって…」
助けてもらって失礼になってはいけないのでその腕に肘を置くような形で力を込めて押しのけ、その男性と距離を取り向かい合いカーテシーをする。
「助けていただきありがとうございました。わたくしはサントーリ伯爵の娘、プリシラと申します」
「私はフレディ・ファンティー子爵と申します」
そう男性は言うと足を肩幅に広げ、背筋を伸ばしたまま、彼は優雅に体を前に傾けるボウをした。お辞儀の深さは控えめでありながら、誠実さと自信を感じさせるものであった。
とても優雅なボウをしてくれた彼は髪の毛が茶色の癖毛を越えた癖毛でふわふわを越えたボウボウで鼻のところまで隠れており、まるで茶色い羊のようだった。
「ファンテイー子爵…?」
(初めて聞くわね。このプリシラが知らない家があるなんて…)
「最近まで第二王子に付いてバラーク王国に留学しておりましたので…」
「あ、いえ、聞きなれない家名でしたので…大変失礼いたしました」
(あぁ!もう私ったら!助けてもらっておいて失礼すぎるっ!)
恥ずかしくなって扇を出してパタパタと自分を扇いだ。
「あ、喉が渇いてますか?ちょっとお待ちください」
そう言って彼は建物内にいる給仕からシャンパンを2杯もらってきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
別に喉が渇いていたわけではないけれど好意は素直にいただいた。思わず同じようにシャンパンを飲む彼を見てしまっていた。
(鼻と口しか見えないわ。でもすごく綺麗な鼻筋と顎のライン…もしかして…目が離れていたりして…もしかしてものすっごく目が小さかったりして…)
「ふふっ」
「?」
(勝手に想像して失礼だわ。でもコンプレックスで隠しているかもしれないから目については触れないでおこう…)
「ファンティー子爵は今日はデビュタントではないの?誰かパートナーといらしているんではなくて?」
「いえ、王子に付き添って来ただけですので…サントーリ伯爵令嬢は…どなたか…と?」
ファンティー子爵は見えているか分からないそのもじゃもじゃ頭で左右を見渡す。
(見えてるのかしら)
「ふふっ。プリシラでいいわ。今日は兄と来たの。もう兄はどこかに行ってしまったわ。まぁ私もちょっとデビュタント達の可愛さに当てられてしまって…バルコニーで一呼吸ついていたら髪飾りを落としてしまって…で、手を滑らせてしまったの。助けてくださってありがとうございます」
もう一度お礼を言うと慌ててファンテイー子爵も
「では、わたくしの事もフレディと…で、その髪飾りはいいんですか?」
「あぁ、いいのよ…別に…誰かに見せたかったとかそういう物でもないし…」
「そうですか…そのままでも美しいですけど、きっと髪飾りを付けたアナタも美しかったでしょうね」
「ふふっ。お上手ですこと」
お世辞を聞きなれたプリシラは軽く流す。
「そうだ…もしかしてプリシラはマルクルド帝国の貴族にはお詳しいですか?もし良かったらお教え願えますか?」
(そっか、留学していたなら良く知らないわよね。王子の側近として覚えておきたいわよね…)
「いいわよ…あのお髭を蓄えて立派なお腹をしていらっしゃるのはキアルージ伯爵でしょ…あの方は…」
バルコニーの窓越しにプリシラは貴族達の名前を次々に教えてくれる。
「…すごいな…ほとんど覚えているの?」
「ま、そ、そうねぇ…貴族だったら当たり前なんじゃないかしら?」
(恋愛相手を探しているうちに覚えたっていうのは内緒にしておこう…)
シレッと答えるプリシラに驚きを隠せないフレディだった。
「じゃ、あのご男性は?」
「あの方はアデール子爵よ」
「どんな方なの?」
「う~ん、それは教えられないわ。貴方が彼女と話す前にわたくしの心象を伝えてしまったらつられてしまうでしょ?名前やお仕事などは教えられても性格などはご自分でお確かめになるのが一番だと思うわ」
「なるほど」
と小さくつぶやいてフレディは納得してくれた様子でプリシラも安心した。おもむろにフレディは腰を曲げプリシラの顔に近づいて来た。
「あ、あの『一曲は誰かと踊ってくること』と王子に命じられておりまして…良かったら…私と一曲踊っていただけませんか?」
「え、ええ、じゃぁ助けていただいたお礼に一曲」
「ありがとうございます」
顔は見えないけど喜びがにじみ出ているようだった。
「では」
彼は低く柔らかな声で囁きエスコートするために手を出してくれた。彼の手に触れると、その温かさと安定感に女性は安心感を覚えた。彼の指先が女性の手を包み込むように軽く握り、彼はゆっくりと一歩前へ進んだ。その動きはまるで舞踏のリズムに乗っているかのようで、一切の無駄がなく滑らかだった。
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