第2話 ホール
フレディの足取りは軽快でありながらも、地に足がついた確固たるものであった。フレディの背筋は常にまっすぐに保たれ、その立ち振る舞いには揺るぎない自信と品格が漂っていた。
(やっぱり王子といつも行動を共にしている人は優雅さが違うわ)
プリシラが一歩を踏み出すたびに、フレディはその歩調を合わせるように動き、微笑みを浮かべた。彼の優雅さと礼儀正しさは、フレディのエスコートが単なる動作ではなく、真心からのものであることを示していた。
(なんだろ…この人のエスコートはとても動きやすい…)
もうデビュタントだけのダンスは終わっており、参加者が誰でも踊れるようになっていた。
会場に響く優雅なワルツの音楽に合わせて、フレディはプリシラの手を取り、その目はしっかりとプリシラの瞳を見つめていた。
フレディの一歩一歩に導かれるように、プリシラは軽やかに動き始めた。フレディの手の温かさと確かなリードに支えられ、プリシラは安心して身を任せることができた。
フレディの足取りは滑らかで正確であり、プリシラはその動きに自然に合わせて踊った。フレディの軽快なステップに従うたびに、プリシラのドレスが風に舞うように広がりる。
旋回するたびに、フレディの手がプリシラの背中をしっかりと支えてくれる。
(こんなに楽に楽しく踊れるのなんて初めてかも)
プリシラも自然と笑顔になっていた。フレディも目は見えないけど口角が上がっており楽しいというのが表情に出ていた。
1曲がこんなにあっと言う間に終わってしまった事があっただろうかと思うくらい楽しい時間だった。終わって欲しくなかったくらいだ。
「喉、乾きませんか?」
返事をする前にフレディは右手でプリシラの右手を取り、左手でプリシラの腰を支えて流れるようにまたバルコニーへと促された。
そうしてまたシャンパンを片手に彼と向き合っている…
(なんだろう自然と流されている感…)
ふと中を見るとバラーク王国の留学から帰って来たばかりの第二王子のアルフレッドが多くの女性に囲まれていた。
王子はやはり第一王子と同じく金髪だった。この国では金髪は王族くらいで珍しいのですぐ分かる。顔までは良く見えないけどきっと
どうやら女性達が次に踊る女性は自分だと名乗り上げているようだ。囲んでいる女性達の頭にはなんだか羽の髪飾りが多いように見える。
(羽飾りって流行っているのかしら…)
「王子が気になりますか?」
「ひゃっ!」
プリシラはいきなり耳元に口を寄せて低い声で言われたもんだから変な声が出てしまった。
「い、いえ、そんなには…」
「そうですか…女性はみんな王子が好きなのかと思っておりました」
(何か思うところがあるのかしら?一緒に留学したからといって仲がいいという訳じゃないのかしら?主従関係だったのかしら…)
「う~ん、王子だからって好きになる事は無いんじゃいかしら?まぁどんな方でも知らないのに好きになるって事は無いかしらね」
プリシラそう言いながら、見目麗しかったが残念だった第一王子の事を思い出していた。
(それに…お妃様教育は無理!無理!無理!)
どうやら踊る順番が決まったらしく王子はその女性とホールへ行った。女性の羽の髪飾りが揺れる。
王子の目が無くなった瞬間、サロンでは王子と踊る順番での争いが激しくなり、最初は口喧嘩、それから押し合い、そしてなんとキャットファイトが始まってしまった…
「ちょっと…失礼…」
そういってプリシラはサロン室内へと入って行った。
「やめなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!
後10秒カウントして辞めなかったら水かけるわよっ!」
プリシラはどこからかバケツに水を入れてかまえていた。
しかし誰も耳を傾けない。
「次は私よっ!」
「いぃぃぃちぃぃぃぃ」
「いやよっ!」
「にいぃぃぃぃぃ」
「ちょっと!アンタの方が家格は下でしょ?譲りなさいよ!」
「「さぁぁぁぁぁん」」
気付くと周りで見守っていた人たちも自然とプリシラとカウントしだした。一人、二人と人数が増えていく。
「「「しぃぃぃぃぃ」」」
「「「「「ごぉぉぉぉぉぉ」」」」」
「「「「「「「ろぉぉぉぉぉくぅぅぅぅ」」」」」」」
さすがに一人が気付きキャットファイトの相手にも気付いた。サロンの全員が自分達に注目している事に気づいた彼女たち…
「あ、あらぁ…やだぁ…」
「え、えぇぇとぉ」
「し、失礼しましたぁ!!」
一人脱兎した。
「あ!ずるいわ!」
全員が脱兎した…
サロンは何事も無かったかのように静かになった。
「ふぅ
プリシラが給仕に返す。
会場がわっ!とプリシラに集中した。男も女も関係なく…だ。
「わ、わ、ありがとうございます…ありがとうございます…」
なんとか元のバルコニーの方へと戻ろうとするが、次から次へと人が寄ってくる。
(うん、みんな落ち着いて!猫の喧嘩に水をかけるのは基本でしょう…)
これはこれで混乱なんじゃ…人によってはプリシラの手を取って違う場所へと促そうとする人もいる。優雅に手を離し遠慮する旨を伝える。それでも…と中々にしつこい人もいる。
サッとその手を優しく流れるようにいなしてプリシラの横に立ってくれたのはフレディだった。
「失礼、彼女のパートナーは私ですので」
そのまま流れるように会場を出て、流れるように馬車に乗り込んでいた。
(え?馬車?ど、どこ行くのぉぉ?)
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