勇者召喚に巻き込まれた俺、嫁達やヒーロー気取りの仲間達と共にゲームの知識で不条理をねじ伏せる

錫石衛

オープニング

とある死霊術師の手紙

 もし、この手紙が届いているなら、どうか最後まで読んでいただきたい。私はこの世界が終わるようなことがなければ死ぬことができなくなってしまったしがない死霊術師です。私は忌まわしき邪神と呼ぶことすら生ぬるい悪の権化のような存在について書かれた本を愚かにも読んでしまいました。

 

 その名はネクロノミコン。これを読んでから私の死霊術師としての知恵や能力は上がりましたが、かの存在によって狙われることが多くなりました。

 

 この本を読むことになったきっかけは、兄に騙されたことです。この兄というのが勇者として魔王と呼ばれる人間と敵対していた種族のリーダーにとどめを刺したのですが、これがまた私の何倍も愚かな奴で小賢しい。兄はその種族、いや、正確には人間以外の会話が通じる種族全般なのですが、彼らを迫害するように人間を扇動したり、仲間である勇敢な戦士と心優しい魔法使いの少女を、自分の取り分が減ることやさらに自分を強くするために殺したりしたのです。

 

 この兄には私へネクロノミコンを読ませた復讐というのもあり、先ほどの2人のうち1人を一時的に死霊術で蘇らせて共に戦ったのです。2人は英雄として各地に今も伝説が残る人物ではあるのですが、私はそこで後に戦士の最後の名言となる言葉を聞きました。

 

「俺らを踏みにじった人生は薔薇色か?」

 

 これを聞いた時、私は書き記しておこうかと思ったくらいに流石と思ったのです。兄は薔薇色の人生という言葉を使うのが好きでした。実際にそれにあこがれていたのでしょうが、殺したはずの仲間に殺された後の自分勝手な無念は大変に心地よい物でした。

 

 話がそれましたね。私は私自身が助かりたいとか復讐を告げたいとかそういう目的でこれを送ってはいません。ネクロノミコンに記されていたかの存在は、私達が住んでいる世界を本当の意味で創った存在のようなのです。


 この本に触れた私は未来が大体どうなるか分かるようになってしまいました。それは、かの存在の恐ろしい計画がおぼろげに察知できる程度で、詳細は分かりませんが、このままだとこの世界の全ての存在が苦しみ続け、その多くが死んでしまう。


 ああ、太陽の神よ。どうか、この計画を阻止できるような何かをおこなっていただきたい。あなたが、もし本当に存在するのならば、ぜひご慈悲をいただきたい。奴の弱点は貴方の発する光なのです。


 ちなみにこの本は燃やしました。これは人が知るには危険すぎる。そして、これを送った後に私はこれに関する記憶を削り取ります。かの存在はこの本の内容の記憶を印として私を狙っていることが分かったからです。そのため、これを送った後には私をこのことを忘れているでしょう。


 しつこいかもしれないですが、どうかお願いいたします。

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