澄きった海空と戦争の狭間で
三七田蛇一
1話 若き海空
「これで授業を終わります。起立、礼。」
「ありがごとうございました。」
ーこんなつまらないやりとりがあと何回続くのだろうか。
勉学は無駄だ。
どうせ勉強したとしても
俺が小作人にならなければ
家のような貧乏一家は
地主から土地を奪われ
後を追われてしまう。
しかし、
我が両親は自分のことを顧みず
「お前には勉学にいそしんでほしい」だの
「あんたには好きな仕事についてほしい」だの
無理を言っている。
もし自由が叶うのならば
父や母の助けとなるように
農作業をしたいというのだが
昨晩、それを両親に話すと
「私たちのせいね。
私たち一家が貧乏なせいで
我が子の夢を狭めたのね」
両親の悲鳴を聞いた。
生まれて初めて聞いてしまったのだ。
俺が両親を助けたいと思った本音から
両親に伝わらない後悔に変わり
私の心を曇らせた。
「この不安を楽にするにはやはりこの方法しかない」
そう思い
今、俺は校門を出て
あの場所に走り続けている。
あぜ道を走り
丘を越えてゆく。
すると聞こえてくる。
潮が満ち引く音が。
鼻に入ってくる。
すがすがしいほど塩辛いにおいが。
そして見えてくる
どこまでも奥深く広がっていく海岸線が。
そうあの場所にたどり着いたのだ。
ー海だ。
俺は海に着くとすぐさま寝転ぶ。
この砂浜に寝転ぶ。
そして、海を見る。
空を見る。
青を観る。
徐々に心が青く染まっていく。
このまま澄み切りたい。
海空に染まりたい。
その瞬間
邪魔者が入った。
海鳥である。
海鳥は
あーあーあー
と馬鹿らしい声を出す。
さざ波の音、潮のにおい、青色でさえ
白々しく汚していく。
翼をパタパタ動かすことしかできないくせに。
群れをつくるしかできないくせに。
しかも気付く
周りの無駄に気が付いていく
木々が揺れ動く音。
土砂が腐りきった匂い。
そして、
部厚い雲に押される夕日に。
「今日はあんまりだったな。」
俺は体を無理やり起こし
夕日を背にして
とぼとぼ歩こうとした。
その時
「キーーーン、ゴゴッゴッッ」
何者かが海鳥を蹴散らした。
眼を凝らすと
びくとも動かない
漆黒の翼、
一羽の鳥と錯覚をおぼえるほどの
航空機がそこにはあった。
俺は
海鳥を蹴散らしたからなのか
雲を蹴散らしたからなのか
海空に行きたいからなのか
分からない。
ただ
「あれに乗りたい」
こうつぶやいていた。
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