ラスボスになるのだけは拒否して、モフモフ達とのんびりします!

新川 さとし

プロローグ


 初めて書いたラノベが大ヒットの100万部。


 印税で、貯金通帳が九ケタに届きそう。


 笑いが止まらない。


 魔法の設定にSFを持ちこんで「謎の超古代文明のナノマシンが大気に満ちているから」という点がマニアに受けた。


 美形の兄と努力家の弟との確執が腐女子に受けて、仲間達との出会いと協力による勝利ってことがボッチ層に受けた……らしい。


 Vチューバーさん達の「ゆっくり解説」の動画では、だいたいそんな感じの説明になってる。


 特に気に入られているのは魔法を出すときのエフェクトだ。

 

「身体の周りに浮かんだ丸い光背から魔法攻撃が出てくる設定も、ナノマシンとの整合性がとれている点に納得する声多数」


 ということらしい。


 ついでに、悪役令嬢ものの要素をぶち込んでみたら、喪じ…… やめておこう。たとえモノローグの中でも、あの人達にケンカを売るのは怖い。


 ともあれオレの書いたごった煮ファンタジー「死神の鎌なんて缶切りにしかならないぜ!」は、いろいろな年代、いろいろな人に受けたお陰で大ヒットしてくれた。


 生まれつき心臓が弱くて、まともに学校にも行けなかったオレだ。まさか、世の大人が頭を下げて「本を出させてほしい」なんて言ってくる日が来るなんて。


 初めてもらった印税は嬉しかった。それまで本を出したのを内緒にしてた母さんにハンカチをプレゼントしたら泣かれた。


「あんたは、とうとう、こんなことを……」

「いや、そんな泣くほどのことじゃないと思うんだけど」

「いいの。こんな風にしてしまったのは私のせいだもの。言い訳はしないわ。大丈夫、あんたを〇したら、お母さんも一緒に逝くからね。寂しくないよ」

「ちょっとまてぇええ!」


 よく聞いたら、とうとうオレが犯罪(千×10引き)に手を染めたと思ったらしい。


 どこの世界に、盗んだものにリボンまでかけてもらえるヤツがいるんだよ!


 ともかく、母さんと二人だけの苦しい生活も、何とか改善できる。来月は母さんもパートをやめて、一緒に安アパートから引っ越す予定。


 爆発的に売れて、既に5巻まできた。


 これだけ売れているんだぜ? なのに、まだ「なんでナーロッパに缶切りが出てくるんだよ!」という哀しい感想を付けてくるやつなんて〇んでしまえばいいのに。マジで思うよ。

 

 オレは感想欄のコメントを淡々と削除して、またブラックリストにいれようとした。ルーティンだ。全面賛美以外の感想は、即座に抹殺だもんね。


 まあ、今日は気分がいいから、ブラックリストはやめておくか。


 なにしろ、とうとうアニメ化のお誘いが来た。


「ヒロインの声に推しの声優さんを使ってもらお~っと」


 原作者って、収録の時に遊びに行って良いんだよね? 表敬訪問なんて言い訳して、差し入れを持っていけば、握手くらいはしてもらえるかも。


 わぁ~ まじでたのしみー


 って、ついつい独り言まで棒になってしまうのは、もう4日も寝てないからだ。新刊の校正と特典用SS4本の締め切りが重なってしまった。


 いや、逃げていたオレがいけないんだけどさ。だって、楽しみにしていた大作RPGが出たら、そりゃそっちが優先だろ。


 ともかく、これで眠れる……


 あれ? なんか、胸が苦しぃ? あ、これは発作だ。クスリニトロを飲まないと。


 強烈な胸の痛み。


 あ、ヤベッ、これ、ダメなヤツじゃん。


 ゴメン、母さん。



・・・・・・・・・・・


 目の前には、やたらと豪華な服を着た厳ついオッサンが座ってる。


 ズラッと並ぶ騎士風の男達。正面のオッサンの横には品の良い女性。結構若いけど、気品がある美女だ。


 見た感じオッサンとの夫婦という感じ。


 片膝を付けているオレに話しかけているらしい。いや、話しかけるっていうよりも「宣告」している雰囲気だ。 


「……であった。以上の理由により、栄光あるアモーア帝国公爵たるメディチ家は、嫡子を長男であるそなた、マーウォルスから、弟であるガイウスに変更するものとする。これは当主による決定であり、異議は一切認めん」


 ん? マーウォルス? それってオレの書いた話の努力型主人公の兄であるマルスの正式な名だ。しかも、設定したのは良いけど、当主による跡継ぎ失格を言い渡されるシーン以外では一切使われなかった、哀しい設定。ファンの間でも「ラスボスである兄の本当の名前は?」ってのがネタにされるほど。


 その瞬間、さっきまで身体を貫いた生死を分ける痛みが一切ないことに気付いた。


 もちろん、これでもラノベを書いている側の人間だ。これはオレの書いた小説のプロローグのシーンだってピーンと来たよ。


 やべぇ。


 このシーンは、今までの傲慢な振る舞いが祟って嫡男(次期当主)の立場を弟に変えると宣告されているところだ。


 マルスは、自分の優秀さに自信があるから怒りを爆発させるんだよね。そう、爆発…… 文字通り爆発する。


 これまで使ったことのない爆発魔法で実家を壊滅させてしまうんだよ。


 結果的に、嫡男の変更の手続き前ということで公爵を継ぐんだけど、自分を見捨てようとした父親を自分の魔法で殺してしまったことの後悔を持て余すことになる。


 そういう心のすき間につけ込まれて闇の組織に引き入れられるんだ。でも、持ち前の能力で、あっさりと闇の組織を乗っ取って、自身が悪の権化となってしまう。


 表向きは「父親の魔力暴走」による事故だと言い張って公爵当主となり、裏側では帝国乗っ取りを画策する。その場にいた人間は、弟のガイウスとガイウスが庇った女性以外は全滅した。


 あまりにも悲惨な結果だけに、皇帝も都で事故を起こした罪を問うよりも「悲惨な事故を慰問する」しかなかったんだ。


 長い物語の中で、超完璧な悪のラスト・ヒーローの爆誕シーンじゃん。


 ちなみに、隣室に控える幼馴染みまでも巻き込んだ爆発魔法だ。すぐ横で控えていたガイウスがとっさに身を挺して庇うシーンにつながる。


 それまでは「マーウォルス様、好き好き、大好き~」だった悪のヒロインが、好きな男にすら殺されかけたところを、ライバルだったはずの「弟」に助けられて闇堕ちするキッカケになるシーンでもある。


 いや、半分は暴走だとは言え、いきなり身内ごと吹き飛ばすとかないでしょ。


 慌てて、オレは恭順の姿勢で頭を下げてみせる。


「お館様のご判断は当然かと」

「ん? とうぜ、あ、あ~ 意味は分かっておるのだな?」


 重厚な声がいきなり裏返ってしまった.よほど慌てた感じだ。


 意外に良い人なの?


「今ほど、身に余るほどのご寛容をいただき、丁寧にご説明いただきましたれば。我が身の至らなさはしかと承知いたしております。これからはガイウス様が第一となりましたので、兄である私は何かと邪魔になりましょう。どうぞ、捨て地へ行けとお命じくださいますよう」


 実際、当初の予定では魔物の跋扈する魔の森の一角に立てた別荘での蟄居を命じようとしていたはずだ。


 いや、自分で書いておいて言うのもヘンだけど、魔物の跋扈する土地に、討伐用の基地ならともかく、なんで別荘なんて建てるんだよ。 


 大人しく頭を下げるオレに、父親は少しばかり首を捻ってから言葉を出した。


「邪魔と言うことではないが、嫡男を降りたお前に対する世間というものもあるだろう。学園が始まるまで半年もあるのだ。しばらくほとぼりを冷ますとよい」


 そう言って、当初の予定されていた「地方追放」となったが、オレの設定とは違って「永久追放」ではないっぽい。半年? ないない。それとも、オレが殊勝なことを言ったからほだされたのか?


『ともかく、魔力暴走はしなかったけど、このパターンはヤバくねぇか?』


 本来の話では、魔力暴走で父親が亡くなりっていうか、ガイウスと闇堕ちヒロインだけが助かるっていうイベントだ。


 結果、マルスの嫡男交代はうやむやになるどころか、公爵家当主となる。


 そして邪魔者・ガイウスを追いやるという話だった。


 あれ? そう言えば、オレの本だと「母親」はいなかったはず。


 ガイウスが生まれたときに難産となって、亡くなっているはずだった。


 だけど、横にいたのは「ママ」だよね?


 え~っと、この話、どうなっちゃうんだろ?




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

この作品は『スキル「SDGs」』と違って、至ってお気楽に進めます。

この先の展開を読んでみたいと言う方は、ぜひともフォローと★★★で応援をお願いします。評判が悪ければ撤退することになるので、ぜひとも、プロローグの時点で★★★をお願いします! ★は、後で減らすこともできるので、とりあえず、入れてくださると嬉しいです!

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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