第25話
───────────
───────
その日、俺は時計台の前で女を待っていた。
確か名前は彩乃だったか?いや、絢香だったか?
何にせよ記憶に残らねぇって事は俺にとってそれだけの存在でしかなかったって訳だ。
よく待ち合わせかなんかで使われるこの広場は日曜日だっていうのもあって人が多い。女を待つくらい何でもないが、こういった場所も人混みも苦手な俺にとっては苦痛だった。
つーか、まじで来ねぇ、あの女。何やってんだ?
女は無駄に時間がかかる生き物だ。分かっちゃいるが、苛々する。なんなら帰っちまおうか。なんて、耽っている時だった。
「俺ら別れよう」
「……うん。分かった」
「良かった。お前は物分かりいいからな。これからは友達としてよろしくな?」
「そうだね、うん。友達としてよろしく」
高校生くらいのカップルだろう。別れを切り出す男とそれを簡単に受け入れた女は彼氏彼女としてではなく、友達としてこれから付き合っていくらしい。
すぐ近くで交わされた言葉に俺は心底馬鹿らしいと欠伸を噛み殺した。男と女が友達なんて、そんなの無理だろ。しかも別れた男と女がなんて、余計無理に決まっている。若いって恐ろしいなー。他人の事をとやかく言えるほど俺もまともな恋愛なんかしちゃいねぇが、この女も男の事をさほど好きではなかったんじゃねーか?簡単に別れを受け入れるくらいだ。その女の後ろ姿しか見えないが、別れといて笑っているようだ。
そして「バイバイ」と言い合った二人。男は足早にその場を去っていた。
俺は時間を見る。
…まだ来ねーのかよ、あの女。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます