第25話

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その日、俺は時計台の前で女を待っていた。


確か名前は彩乃だったか?いや、絢香だったか?


何にせよ記憶に残らねぇって事は俺にとってそれだけの存在でしかなかったって訳だ。


よく待ち合わせかなんかで使われるこの広場は日曜日だっていうのもあって人が多い。女を待つくらい何でもないが、こういった場所も人混みも苦手な俺にとっては苦痛だった。


つーか、まじで来ねぇ、あの女。何やってんだ?


女は無駄に時間がかかる生き物だ。分かっちゃいるが、苛々する。なんなら帰っちまおうか。なんて、耽っている時だった。




「俺ら別れよう」



「……うん。分かった」



「良かった。お前は物分かりいいからな。これからは友達としてよろしくな?」



「そうだね、うん。友達としてよろしく」




高校生くらいのカップルだろう。別れを切り出す男とそれを簡単に受け入れた女は彼氏彼女としてではなく、友達としてこれから付き合っていくらしい。


すぐ近くで交わされた言葉に俺は心底馬鹿らしいと欠伸を噛み殺した。男と女が友達なんて、そんなの無理だろ。しかも別れた男と女がなんて、余計無理に決まっている。若いって恐ろしいなー。他人の事をとやかく言えるほど俺もまともな恋愛なんかしちゃいねぇが、この女も男の事をさほど好きではなかったんじゃねーか?簡単に別れを受け入れるくらいだ。その女の後ろ姿しか見えないが、別れといて笑っているようだ。


そして「バイバイ」と言い合った二人。男は足早にその場を去っていた。


俺は時間を見る。


…まだ来ねーのかよ、あの女。

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