第2話
十津河壱翔(とつかわいっと)
一見彼は紳士的。黒のスーツは細身な体とよくあっていて、長い手足がよりいっそう長く見える。
笑えば真っ赤な舌と真っ白な歯がちろりと覗き、切れ長な目は細くなる。笑顔がすごく可愛い。その笑顔は10も年上だとは思えないほど無邪気。多分、このギャップに私はやられちゃったんだと思う。
「美里(みさと)」
甘い囁きが耳元で響いた。後ろからぎゅっと抱き締められたままたくさんのキスが降り注ぐ。
「おはよ」
「…おはよ」
起き上がった壱翔は上半身裸で一瞬ちらっと目を泳がせた私をクスクス笑う。
「照れてんの?」
「…照れてない」
「っハハ。もっとすげーことヤッてんのに」
こうやって平気で言う言葉に私はいつもドキドキさせられるんだから困ったものだ。
本人はちょっとやそっとのことじゃ動じない。
それは彼の性格でもあって、職業上の問題。
本当に、私からしたら壱翔はただの普通の男。
普通じゃないと言えば、この垂れ流しのフェロモンがそこら辺にいる男と比べものにならないってことくらい。低い声は聴いただけで腰が砕けそうになる。
私がその声が好きだと壱翔は分かってるから、甘ったるく優しい声で名前を呼ぶ。それに私はすごく弱い。
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