第8話 視線


「なぁ親父、メリーさんの詳細について教えてくれ」


 俺は家に帰ってすぐさま親父に話を聞きに行った。


「そうか、もう現れたか」


 親父はそう告げる。もう、ってことは本当ならもう少し後だったってことか?


「それってどういう────」


「一つお前に伝えておくことがある」


 俺が問いかけようとすると、親父はこちらに顔を向けて言った。


「お前が持っていた要石、あれは大昔に神威かむい瑛司えいじという一人の男が置いていったとても重要な石だ。それには彼が持っていたエネルギーが存分に込められている」


 俺があの時に感じた力の流れはそういうことだったのか。何のエネルギーなんだろうと気になっていたがようやく謎が解けた。


「俺はそれを吸収したってこと?」


「それもそうだが、お前自身の妖力も目覚めたはずだ」


「それって結構重要な情報じゃない?」


「まぁな」


 おいおい、そういうのは早く言ってくれよ。自分が妖力を持っていることは知ってたし、きっかけが多分それだとは思っていたけど、早めに教えてほしかった。


 いや、聞かなかった俺が悪いか。


「てか、俺がそんなの持ってていいの?」


 要石がとても重要な物だとは理解したが、それをただの高校生が持ってもいいものなんだろうか?元に戻せと言われたところで取り出すことはできないし、どうしようもないのだが。


「あれは動かせないし、吸収なんてできる代物じゃないはずなんだ。俺や他の陰陽師、そのまた上層部の方でも色々研究しようとした。だが、動かすことはおろか、調べることすらできなかった」


 何かしらの力が働いているのは間違いないのだが、なら尚更なぜ俺が要石を吸収できたのかという疑問が残る。そう言えば……。


「俺が来る前にあの要石は”白虎”とか言われてた奴が持ってたけど、やばい奴なの?」


「……さあ、な。」


 言葉を濁した親父。なにか知っているな?でも、俺には教えられない理由がありそうだ。


「言える時が来たら教えてくれよ?」


「すまん、もちろんだ」


 少しバツが悪そうな顔をした親父。


「ただしこれだけは言っておく。いいか、アイツとは絶対に戦うな。今のお前では手も足も出ないからな」


 また変な情報が入ってきたよ。それと、一つ気になったことがある。親父の話の中で、俺は”白虎”とは口にしたが、親父はアイツと言っていた。つまり白虎は組織の名前か?


「白虎は何かのグループなの?」


「……じき分かる」


 どうしても言えないらしい。


 親父はそれ以上何も言わないと思っていたが、また口を開いた。


「もう一度言うぞ。絶対に手を出すな」


「……分かったよ、親父」


 親父はいつにもまして真剣な表情だった。


「それと、アイツらの目的は不明だが、この要石を探しているのだけは分かっておる」


 これはまじでやばいやつだ。さっさとこの要石をなんとかしないと争いに巻き込まれる。正直手放せるなら手放したいが、それができないことは分かっている。


「そんな物を俺が?」


「お前がそれを手にした事自体に何かしらの意味があるはずだ。だから、無くすなよ?」


「無くさねぇよ」


 俺は決意を胸に親父にそう言った。

 

「さて本題に行こう。メリーさんについてだが、あれは別に強くない」


「えぇ?」


 口裂け女と同じ都市伝説なんだからてっきり化け物みたいな強さかと思っていたが、都市伝説の中でも強弱があるのは当然のことか。


「少し鍛えた今のお前なら苦戦はすれど、勝てるはずだ。今のお前はまだ妖力を多少扱えるだけだが、それでも十分通用する」


「なんだ。なら、気長に待つか」


 噂通りの怪異なら電話で場所を知らせてくれるんだし、まだ時間はありそうだ。


「ただ、そいつの持ってる天恵は、呪いの”じゅ”に移動の””で【呪移じゅい】」


「推測するに瞬間移動ってところかな?」


 俺は移動という単語から推測したことを言葉にする。


「相手に教えた場所に移動するって能力なんだが、近くになら移動できる。連続して使えはしないが、それを頭に入れとけ」


 瞬時に後ろに回られでもしたら厄介そうだな。


「了解」


 俺が父にそう伝えた次の瞬間、スマートフォンが鳴った。確認するが、文字化けしていて誰からかかってきたのかが分からない。でも、この感じからして相手は十中八九、あいつだろう……。そう思いながら俺は電話に出た。


「────」


 耳に当てているがスピーカーからは何も聞こえない。


「──ン、──カ─、カンカンカンカン、」


 耳を凝らして聞いていると、何か音がしているのに気付いた。よく聞いてみると、それは踏切の音だった。


 間違い電話か?と思ったその時、スピーカーから女の声が聞こえた。

 

「私、メリーさん。今〇〇駅にいるの」


 近くの駅の名前だ。


 だが、これを聞いても前のような恐怖はない。色々訓練もしたし、自信がついたってことかな?


「来るよ、親父」


 俺のその言葉に親父は一瞬だけ苦しい顔をしたあと、いつもの表情に戻った。


「……そうか。ならこいつを使え」


 親父はそう言って、俺に刀を投げ渡した。

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