第6話 一難去って
「
親父の大声と共に恐ろしい速度で振り下ろされたピコピコハンマーは普通に使っていたら聞こえない音を立てて俺の頭に衝突した。
「痛ってえ!?今ちゃんと集中してただろ親父!!!」
「バカモン!妖気が乱れとるわ」
「一週間でここまで制御できたんだから上出来だろ!?」
「まだまだじゃな」
「クソ親父め」
見ての通り、あの神社での一件後、俺は親父にしごかれていた。どういう経緯でこうなったのかを説明するとこうだ。
気絶していた俺達を親父の関係者?が専門の病院へ
↓
俺にも父の命に別状はなし。だが、引退していた身でありながらも密かに行っていた陰陽師の仕事は、利き腕を失ったことで継続は不可に。
↓
俺が妖力に目覚めたことと親父の完全な引退が合わさり、陰陽師になることへの打診を受けたが、保留に。
↓
どちらにせよ妖力のコントロールは身につける必要があるため特訓。
と言った流れだ。俺自身、陰陽師になることにそこまで抵抗があるわけではない。でも、まだ覚悟が決めきれていない。親父の右腕のように、人一倍怪我をする仕事に俺は躊躇している。
「わしの腕の分働けるようになってもらわねぇと、この街や、お前の友達にまで被害がでる。さっさと鍛えて俺よりも強くなれ、紅城」
病院で目覚めた親父に俺は何度も謝った。自分のせいでこんな目に合わせたという自責の念に駆られていた。だが、親父はそこまで気にしていなかった。強いて言うなら、「左腕じゃなくて良かった。結婚指輪と俺の命を守れたのなら安い買い物だ」、ってさ。
「
勝手に俺が働く前提になっていたので、そこは訂正しておく。
未だに俺の心からは罪悪感は消えないし、今後も消えない。でも、俺はそれを背負って生きていこうと決めた。ずっとくよくよしていると、自分のことを守るために体を張ってくれた親父に失礼だ。
「そういえば、なんで俺は妖力をコントロールできなきゃいけないわけ?」
座禅を組んでいたが、集中が切れたのでふと気になったことを親父に聞いてみる。別に使わないのなら鍛える意味はないんだし。
俺の言葉に、「何を言ってるんだ?」的な表情をした後、親父は話を始めた。
「あれ?言ってなかったか。そいつはだな、妖力を持つ
怪異を引き寄せるエネルギーでもある妖力をコントロールするためってことか……。
「────なぁ、親父。俺、それ初めて聞いた……」
「……そうか、すまん忘れてた」
「てか、その”怪異”ってやつは何なの?」
怪異という馴染みのない言葉を俺は聞いた。というか、引き寄せるのを限り無く小さくするってことは鍛えたところで多少は引き寄せるってことか?
「そうだな……”怪異”ってのは化物の総称だ。大まかに分けて二種類。一つは前の口裂け女みたいな”都市伝説”。もう一つは”妖怪”」
「都市伝説と妖怪……」
親父の言葉をなんとなく復唱した俺だったが、怪異になんとなくイメージがついた。俗に言うお化け的なものか。
「勘違いしてるだろうから教えておくが、お化けとは違うぞ」
「え、違うのか?」
全く違ったらしい。
「まず”都市伝説”についてだが、あれは別に死者じゃない。人の恐怖からできた空想上の生物ってのが妥当なところだな。あいつらは強くなるために、人の魂と恐怖を目的に人を襲う。すぐに人を殺す怪異もいれば、恐怖心を煽るためにじわじわと襲ってくるやつもいる。そいつらを倒すのが”陰陽師”の仕事だ」
「難しいこと単語が多くて仕方ねえな」
親父の説明は詳しくて長ったらしく、その世界に足を踏み入れて間もない今の俺では知らないことばかりですぐに理解が追いつかず、一言文句を言った。
病院で親父から陰陽師から少し説明を受けたものの、いまいちイメージが掴めていない俺。
「一旦説明するから分かんないところは後で聞け。とりあえず”妖怪”についてはだが、まず基本遭遇はないと思っていい。わしでも一度”海坊主”ってやつに遭遇したぐらいで、まぁそいつには逃げられちまったんだがな」
「親父でも勝てなかったの!?」
「いや、あいつの”核”を攻撃しようとしても海から水を持ってきちまうからキリがなくてな」
「へぇ〜」
まだ都市伝説と一度しか遭遇していない俺にはよく分からないが、親父がそんなふうに言うんだから強かったんだろう。それと、”核”か。
「”核”って人間でいう心臓とかの急所のことか?」
「ああ、それでいい。わし達が心臓から妖力を流すように、あいつらも核から体を構成している。だから、そこを攻撃しない限り再生されるから気をつけろよ」
心臓から妖力を流してたんだ……初耳なんですけど。
「ん?なんで俺が戦う前提なんだよ!?」
「────チッ」
「親父、今舌打ちしたよな!?」
「空耳じゃないのか?あと、人形の怪異は大抵”心臓”か”脳”が核だからな」
クソ親父め、そんな豆知識は普通の高校生にいらない。
ここまで色々聞いて、最終的に俺は思っていることを正直に親父に伝えるとしよう。
「ん〜〜っとさ、親父。ここまで陰陽師になりたくないって俺は言ってたけど、実際にはあまりそうは思ってない。それにさ、この街を守っていたのは親父なんだろ?俺が戦えなくしたんだから、親父の代わりは俺がするよ。気にすんなって言ってもらえるのはありがたいけど、せめて責任くらいは取らせてくれ。でなきゃ俺は俺自身を許せなくなる」
「────楽な仕事じゃないぞ?命の危険だってある。そいつを分かってて言ってんのか?」
稀に見る父の真面目な顔だ。あんだけ俺に陰陽師になれとか言っていたくせに、いざ息子がそれをすると言ったら不安になったってところか?でもまぁ、命の危機が平気である仕事だし、それもそうか。
「正直……まだ陰陽師になるって言い切れない。でも、誰かがそれをやらないと。この街の人が、俺の友達が危ない目に合うって聞いて黙ってられない。だから、まずお試し的な?」
俺の中で怪異と戦うことと陰陽師になることは別だ。趣味でやるというわけではないが、本職のような形でやるつもりは今のところはない。
「……そうか。まぁ、陰陽師になるなら”十二天将”くらい強くならないとだからな?」
そう言いながら、親父は座っていた俺に手を差し伸べてきた。
「あのさ、まじで知らない単語を知ってる前提で話すの止めてって」
十二天将とかなんか名前から強そうなんだけど、一体どんなやつなのだろうか。気になる……
「ん?そうじゃったか。なら、次はそれについて教えるとするか」
「ハッ、よろしく頼むよ」
少し笑いながら言った俺は親父の手を取って立ち上がった。
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陰陽師の必須知識コーナー!!!(紅城が立ち上がったあとに聞いたこと)
・天恵:神から授かる特殊能力。『灼國』のように炎を出して操るようなものもあれば、様々なタイプがある。(異世界ならスキル的なやつ)
・加護:神から力を借りて行使する技の種類を決めるもの。複数持っているのが基本だが、五つとかはまじの稀。(どの魔法が使えるかを決めるやつ)
・神術:加護を授けてもらった神の力を借りて行使した技のこと。様々なタイプがある。詩郎の傷を止血したときに使ったのもこれ。なお、この上位の技が存在するが使用した人物は少ない。(魔法的なや〜つ)
・妖力:生まれ持っているパターン。死の淵で手に入れるかの二択でのみ発現。天恵や神術を使うために必須。これがないと怪異に攻撃できない。刀とかに纏わせるのはそのため。斬れ味が良くなるとかの訳では無い。(簡単に言うと魔力的なやつ)
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