第34話 邂逅

「最後におっちゃんの力になれて嬉しいよ」


おっさん山田の心の中。


闇の思考沼にはまっていたのを引き上げたのは、ついさっき分離したばかりの青年ヤムダの魂であった。


「今はまだ体が気を失ってるから。あの体で気が付いたらもう戻ってこれないと思う」


青年ヤムダの体は港の見える公園のベンチでおねんね中。

会話の途中でヤムダを包む布がエロ虫にペリペリとはがされているなんて知る由もない。


おっさん山田は喜びで心が爆発しそう。

もう当分、下手をすれば永遠に会えなくなると思っていたこの世界の息子が(おっさんはヤムダを育てていません!)自分を救うために戻ってきてくれたのだ。


独り立ちした息子が正月やお盆に突然帰省してきたかのような驚きと喜び。

もう漏らしてしまいそうだ。


「おっちゃんは大丈夫だよ?正義の熱い魂がボクを導いてくれてたのわかってたよ。おっちゃんはいつも正しいよボクが保証するよ!落ち込むことなんてない、ボクが大好きなおっちゃんはいつも強くて正しくて熱い魂なんだから!!」


ガンッ、と鋼鉄の塊で頭をぶん殴られたような衝撃。

純な魂からの全肯定だ、こんな嬉しいことはない!


FTヤマダ目覚めのときがすぐそこまで来た。


自分がいつも正しいなんて思えない。

いつも強くなんていられない、ヘロヘロのボロボロでペシャンピーな心だってよくわかっている。

いつも熱くなんていられない弱い心、何気ない女の子の一言で冷水をぶっかけられてあっという間に氷点下もろくて弱いチキンハート。


そんなこと前世で50年も生きたんだ身に染みてる。


でも俺は。このFTヤマダは!


おっさんの魂にマグマが滾る。大切な存在から注入された情熱が冷え切った心にカツをいれたのだ。


この子を導く魂であり!

この子の育ての親であり!

そして

そして

この子が魂の全てで信頼してくれて!

この子が全てで大好きでいてくれる!


俺はこんな純真な魂が信じてくれる男!

熱い魂を信じられた漢!!


「FTヤマダここに参上!!!」



随分とおっさん山田は拡大解釈して『いいように受け取ってる』ヤムダはそこまで言ってない。

そんなことおっさん山田は気づいてる。

でもいいじゃない?

おっさんのチキンハートがブルプルと感動に震えたのだから!



シャキーンッ!


巨大化しているゴールデンなおっさん山田、両手を平行にグルリとまわして最後にビシリとポーズを決める。


登場ポーズでパワー・アップ完了だ、手四つの力比べから巨大ゴーレムが吹っ飛ばされる。

みなさんご存じのとおり、変身中や必殺技を名乗ってる間は攻撃してはならないアレだ!

みなぎる闘志、燃える闘魂!!!


「もう大丈夫だねおっちゃん!ボクは行くよ?大リーグの話いつも楽しかったよ」


ありがとう

ありがとう

ありがとう・・


小さくなっていく御礼の言葉。


おっさんのガラスのハートには版画のように彫刻刀でゴリゴリと文字がきざまれていく。


「おっちゃんのこと絶対に忘れないよーーーー」


最後のひとことにこぼれ落ちそうな涙を我慢するのでせいいっぱい。

言葉を発してしまえば涙と嗚咽が吹き出ること請け合いだ。


男の別れに涙はいらない、そうだろう?


ハードボイルドで恰好つけるのでせいいっぱい。


やがて青年ヤムダの気配が完全に消え去ると、おっさん戦闘中だというのに空を見上げるのだった。

ほほを伝う涙。


もうだめ、俺ほんとこういうの弱いんだから。


せつない思いを天に向けて。

若いヤムダのこれからの幸せを神に祈るのだった。




「FTヤマダ空を見て祈ってたけどアレどうなの?」

「一緒にいる俺達が神だって忘れてないか?」

「どうにも勘違いがある気がするの?」


祈るなら俺達に言えよその方が確実だろ!

ちょっぴり切ないNAKAMAのみんな。


「でもあの子、いい子だったね」

「そうじゃなあ。あの年で気遣いができておる」


おっさん山田はかれこれ20年近くも幼い魂ヤムダと共に生きてきたのだ。

この純真な魂が悲しい時。切ない時。寂しい時。不安な時。

おっさん山田は楽しませよう元気づけようと前世の「大リーグ」の話をヤムダに語っていたのだ。お得意は往年の伝説の選手「O-TANI」の大活躍。

おっさんが話をすればヤムダは目をキラキラと輝かせて次は次はと続きをねだる。もちろんヤマダは大喜び。自分の趣味語りが大うけなんだから。

ちなみにおっさんの数少ない趣味が大リーグ観戦である。通信デバイスをチラ見するくらいしかできなかったのだけど。



時は10分ほどさかのぼる。


「もう大丈夫だねおっちゃん!ボクは行くよ?大リーグの話いつも楽しかったよ」


”最後まで野球ってわかんなかったけど!でもおっちゃんが楽しそうに話してたからボクも元気になれたんだよ!”


ヤマダを傷つけないようそっと心にしまい込んだ続きの言葉。


そう、この世界に野球なんてスポーツはない。

だいたい球技って概念がない。

ちかい概念なら小石を蹴とばしながら『どっちが早くつけるか』競争するくらいだけど、もちろん球じゃない。投げたり打ったり蹴ったりダンクシュートしたりする『球』がわからないのだから意味なんてさっぱり。


おっさん山田の言う『ホームラン』も『センパツトウシュ』も当然意味はわからない。

それでも幼いヤムダは、楽しそうに一生懸命そんな話をするヤマダが大好きだったのだ。

それが自分を『上げようと』してくれているのがわかってるから余計なのだった。


「なによあの子」

ブワリ。

涙が滂沱のごとく流れ出した効果音だ。

「いい子。ほんと。いい子」

ウンウンと全員が頷きならが涙を流して立ち尽くしてる。

神と呼ばれる存在と幼く純真な魂が出会ったのだから、当然のようにヤムダの心なんて丸見えだ。レベル差なんてものじゃない。


お鼻をグシュリと指でかいた戦神。

「しゃーねーなあ、NAKAMAのヤマダからの願いなら聞いてやるしかねえなあ」

チチンプイプイ。

あっという間に戦神の加護がヤムダのまわりで煌めいた。戦闘力3倍。


「あらあら?そういうことならワタシも力を貸すしかないわね?」

チョチョイのチョイ。魔力量5倍、魔法出力3倍。


「なんじゃなんじゃけち臭いのおぬしら?NAKAMAの願いはそんなもんか?」

ドドンガドン。欲しい機械は必ず手に入る。どんな機械も一見で全て操作できる。死ぬまで機械はあなたの味方。


「なになに」武の極みに必ず達する。最強の武人になる。

「なのなのーー」死ぬまで鉄壁の守護、誰もあなたを傷つけられない。


全員が青年ヤムダに勝手に加護をつけまくった結果。


ちょっとやばくないコレ?

なんだか人類最強兵器が爆誕しちゃったわよ?

ちょっと調子に乗りすぎたか?いやでもあれだけ魂がふるえるたの千年ぶりじゃし

なにNAKAMAが育てたこれだけ純な魂、問題あるまい

なのなのなのーーーー!


コショコショと創造神に聞かれないよう秘密会議も無事終わり。


「「「「「まあ問題なしで!!!」」」」」



天界にいる創造神のコメカミに怒りマークが浮き出たのだった。

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