第33話 そして二人は幸せに暮らしましたとさ
ギュウッ
眠るように気を失っているヤムダを優しく抱きしめるサク。
横にロープでグルングルンに巻かれてスマキになったエミイ。
まるでイモ虫のよう。
サクがエミイを見る目がまさに『このエロ虫がっ!』物語る。だけど久しぶりに愛しい人に会えたサクはエロ虫になんて構っていられない。
「よかった」
無事に自分の元に帰ってきたヤムダ。
ポロポロと涙がこぼれる。
二度と離さない。離れない。
この二人。
王国の英雄ヤムダと後に王国一の工房の親方となるサク。
二人はもう数年もすれば結婚して夫婦となる。
まだ若くてお金もない二人は小さな教会でささやかな誓いを神に捧げるのだ。
互いに国の重要人物となっていく二人は、苦労を重ねながらも一途に愛し合うオシドリ夫婦として有名になる。
慈しみながら大人物への道を歩む二人。周囲はホカホカと温かい気持ちで見守り、応援し、できる協力をしてくれる。
そしてお似合いの夫婦はこの世界で幸せに寿命を全うするのだった。
二人がラブラブな人生を送るためにもココが踏ん張りどころだぞFTヤマダ!
「ふんぬうううううっ!」
巨大ゴーレムとの力比べ。
おっさん黄金の輝き。ピカピカ光って気合満点!
・・・ではない。
なんだか動きに精彩がない。
顔を見れば必死にやっているようにも見えるけど。実は心から染み出るしょっぱい汗に泣き笑い。
「おいヤマダ!もっと気合いれやがれっ!」
「どうしたのあなたらしくもない?わたしたちが一緒なのにこんな土人形に負けるわけないわよ?」
「なのなのなのーーーー!」
ヤマダを包む神々からの激励。
必死にやっているつもりのおっさんヤマダ、しかし心にスキマ風。
るーー、るるるーーーー
北の雪原でキツネでも呼びそうなちょっぴりもの悲しい雰囲気が漂っている。
心によぎる懐かしい情景。
幼かった娘が自分の足に抱き着いてくる。
全身で飛びついてニパリと笑う笑顔。父親の自分を大好きだと全身で表現。
幸せの絶頂。
あの時に浮かんだ感情で胸がギュウと締め付けられる。
この娘のためならなんでもできる、そう誓ったあの日。
上司からの罵詈雑言にも耐えられる。厳しいノルマだって乗り越えてみせる。
20連勤で今月休み1日だけで来月も間違いなく同じだって耐えられる。
どんなブラックでも耐えられる。
この誓いが正しかったのかは横におくとしよう。今はおっさん山田の心象風景だ。
そんな懐かしい娘の姿が、この世界のとある海の見える公園の小さな女の子と重なるのだった。
変なのっ!!
変なのっ!!
変なのっ!!
少女の言葉はおっさんの心核にコダマしてガラスのハートへ突き刺さる。
絶対に他人に触れられたくないおっさんの心のやわらかいトコロを『ポチッとな』
女の子の何の気ない一言が、パンケーキのようにフンワリやわらかなトコを指で押しまくっているのだ。
滲む涙が地面に落ちてミルククラウンを描くと、つまり詰まったおっさんの心の訴えが解き放たれて周囲に響く。
なぜワタシはマッパなのデスカ?
ワタシ、ヘン
ワタシヘンナノ
ワタシは変態なのですか!!!
「なんだおまえそんなコト気にしてたのか!」
「大丈夫よカミサマって基本マッパだから!」
え?そんなこと気にするの?
笑顔でヤマダの肩を叩く戦神たち。
神々たちには不思議でしょうがない。
神々はヤマダを仲間だと思い、いつの間にか同列の神として扱ってしまっている。
その存在は人間でいう魂や精神に近い『神体』
神々が現世に顕現する際の見た目は『神っぽい感じのヤツ』
それぞれの神が自分を認識させるのにふさわしいイメージを見せているだけなのだ。神に大人も子供もなく男も女もない。
いわゆるイメージ戦略。
闘う戦神は筋骨隆々いさましく、機械神は技師や開発者っぽく。それだけ。
むしろ人間の感覚ってわかんないよねー元は裸のサルだってのにーハハハハハー、くらいの感じ。
そんな神々の悪意ない言葉が、NAKAMAの単刀直入な感情がスパスパとヤマダのパンケーキにナイフをいれていく。スパスパと切れ目が入ると2分割、4分割、16分割と細切れになってそのうちボロボロになって千切れてく。
あんなにあったかくてフワフワでおいしそうなパンケーキマインド。ボロボロにちぎられて焼いた小麦粉のクズが吹き溜まってるようにしか見えない。
誰もわかってくれない。
美の極致である神々の肉体とおっさんの自分を比べられても。だって俺は自分を知ってるんだよ?
たるんだ腹!染みた肌!薄くなった頭髪!そして動くたびにブランブランの秘密の花園!!
なんで堂々とマッパでいられるのどういう感覚なの?
恥ずかしいとかそういうの人間だけ?でも俺って神様じゃないのですよ魂だけどニンゲンナノデスヨ?
誰だってそうなのだ。
神でないニンゲンには触れてはいけない場所がある。
年を取ると心を守る防壁は固く強くなる。それが大人ってもんだ。
だけど守られる心はいつまでもやわらかく弱いのは変らないのだ。
心の底なし沼にズブズブと沈んでいくヤマダ。
闇は深い。
ついには頭までのまれて、伸ばした腕だけがかろうじて残ってバタバタしてる。すぐにのまれてしまいそう。
「山田のおっちゃん!俺はいつだっておっちゃんの味方だよ!!」
もう手のひらも闇にのまれそうなおっさんの手をガシリと握ったのは、宙から手を伸ばして太陽のように笑いかける若者ヤムダの魂なのであった。
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