幼馴染が私に催眠術をかけて命令してくるが全然効いてない
皇冃皐月
プロローグ
「あーし、催眠術できるよーになったんよねぇ〜」
金色のながーい髪の毛を揺らして毛先を私の机にくっつけながら唐突にそんなことを語り始めたのは私の幼馴染。
校則違反のファンデーションで艶やかな肌は教室に差し込む夕日に照らされてオレンジ色に輝く。
ケバいという感想は出てこず、綺麗だなぁと素直に思う。
私は化粧というものに触れてこなかった。
最低限する時はするけれども、ロリっ子が化粧をしているような、されている感がどうしても拭えない。って、私の話はどうでもいい。
「催眠術……?」
唐突に語り始めた催眠術。まずはそれと向き合わなければならない。
「そー」
人差し指をぴんっと立てて、くるくる回す。
「どういう催眠術なの?」
「命令できる催眠術〜」
「ふぅん。そりゃまた厄介そうな催眠術なことで」
「
「私に?」
「そ」
流れとしてこうなるだろうというのは想像できていた。
だから吃驚するようなことはない。毅然な態度をとれる。
「いいよ。やってみ?」
と、挑発的な態度もとれちゃう。
放課後。
教室で二人っきり。
暇。
やることは特にない。
だからまぁいいかって思った。
それに催眠術とか超能力みたいな非科学的なものって信じてないし。
かかるわけないでしょというのが私の考え。
「まじ!? いーの?」
「いいよ。どうせかからないし」
とか言ってバリバリかかったりしてね。
即フラグ回収。
わりとありえそうなので勘弁して欲しい。
「じゃー、まずあーしの目まじじーっと見てね」
小美玉はとんとんと涙袋を指で叩く。
こくりと頷き彼女の瞳をじーっと見る。
宝石のように華麗な瞳。ずっと見つめれば吸い込まれそうになる。瞳はもちろんまつ毛ま長いし……ってか、小美玉は贔屓目なしに見ても可愛い。元々は清楚系な女の子だったが、高校生になってからギャルっぽくなった。まぁ昔は昔、今は今でそれぞれ彼女らしさがある。
「だんだんと凛はあーしの言うことに従いたくなーる、だんだんと従いたくなーる、だんだんと従いたくなーる……」
ぽつりぽつりと小美玉は言葉を私にぶつけてくる。
今絶賛催眠術をかけている最中なのだろうなってのはわかるのだが、どうしよう。全然催眠かからない。これっぽっちも小美玉の命令に従いたいと思わない。
ただ自信満々な表情を見ていると、全然効かないよとも言い出しにくい。
効かないと私が言い出したら小美玉は露骨に落ち込むだろう。それが目に見える。
別に小美玉を落ち込ませたいわけじゃない。
むしろそんなことは一切望んでいない。
じゃあ、かかったフリをしてあげる。それが一番丸く収まりそう。
どうせ彼女がしてくる命令なんて『焼きそばパン買ってきて』とか『そこの自販機で水買ってきて』みたいなのだろうし。
それくらいならかかったふりをしてやろうと思える。
虚ろな目をして小美玉を見つめている。
催眠術にかかった人って多分こんなんになるよね。知らないけど。
「まじ? え、まじ? やば。まじかかっちゃったんだけど。ウケる」
ウケないよ、小美玉。全然ウケないから。
かかったふりをしている以上、そう言えるわけもなくて、彼女の命令をただ待つ。
さぁどんな命令がくるだろうか。
「それじゃあ」
小美玉は口を開く。
「あーしの頭撫でて」
喉元まで「えっ」という言葉が出かかった。
催眠術にかかったふりをしているのでそんな声出していいはずがなくて本当に寸のところで止まった。
小美玉は真剣な表情だった。
冗談っぽさは彼女の表情からは伺えない。
ここから彼女が命令を変更することは無いのだと理解できた。
つまり私に残された選択肢は一つ。
小美玉の頭を撫でる。
以上。
なんとまぁ単純明快だろうか。
頭を撫でなきゃ催眠術にかかったふりがバレてしまうから、頭を撫でる以外の選択肢は残されていないのだ。
染めているはずなのに自然な金色の髪の毛に手を伸ばす。
私の華奢な手を彼女の頭に乗せる。
そうすると小美玉は心底嬉しそうな顔を見せて、彼女のためについた嘘なはずなのに、猛烈な罪悪感に襲われる。罪悪感を消すためにやっぱり催眠術効いてないですとは頭を撫で始めてしまった以上言えず。
「えへへ」
と、笑う小美玉を見ながら、私は大きな過ちを犯したのでは。なんて思い始めた。
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