失恋した時の飲み物

ぬまちゃん

第1話

「ふられちまったな……雄二」

 友達の健太は、ことば少な目に、僕に話しかけて来る。


 そりゃ、そうだ。せっかく気合を入れて告白したのに、ああもあっさり玉砕しちゃったらちょっと立ち直れない。


 僕達ふたりは、まだ残暑の残るアスファルトの道をとぼとぼと歩いていた。健太の言葉になんて返答しようか、そう思って涙をこらえながら彼の方に向き直ろうとしたら、うらぶれた自販機が目に留まった。


 それは、普通の自販機と違って販売価格が100円と激安なんだけど、聞いたこともない飲料水メーカーの、のどの渇きさえ癒せれば良いだろう? 的な飲み物が出て来る、街中で時々見かけるヤツだった。

 僕は、健太の言葉に返事を返す代わりに、その自販機に向かって歩き出した。健太は慌てて僕の後に付いて行く。


「あー、そうか。そうだよな。こんな時には飲み物か」

 健太は、一人納得したように僕の背後から声をかける。


 あれ、なんだこれ。


 僕は、自販機の押しボタンの文字の中、コーラ、ジュース、といった中身を表す文字とは別に『おまかせ』と言う不思議な文字を見つけた。僕は引き寄せられるように、100円玉を入れて、そのボタンを押した。


 ガチャン!


 飲み物が落ちて来るいつもの音がして、僕は受取口に手を突っ込んでその飲み物を取り出す。


 なんだこれ?


 それは、見た事もないペットボトルだった。外見は普通の飲料水だけど、ラベルには『惚れ薬』とだけ手書きの文字が……


「うわぁー! これやばい。飲んじゃダメ系だぞ」


 ちょっと自暴自棄になっていた僕は、健太のその声を聞いた瞬間に、何も考えずにその水を一気にあおった。


 ぐにょーん。


 味や飲み心地は蒸留水と同じだった。だけど、飲んだ瞬間目が回って、僕はペットボトルをもったまま、その場に崩れるように座り込んでしまった。


「おい、雄二。大丈夫か?」


 健太は、心配して声をかけてくれた。僕はペットボトルを持った手を上げて、大丈夫だと意思表示をした。健太は、そのペットボトルを僕から取り上げて、匂いを嗅ぎながら恐る恐る口にする。


「ふーん、なんか普通の水じゃん。手の込んだ悪戯かな」


  ◇  ◇  ◇


 その違和感に気が付いたのは、僕達が家に帰るために電車に乗っている時だった。


 電車に乗っている女性達の、僕達を見る目がみんな『ハートマーク』になっているんだ。中高生は言うにおよばず、大学生のお姉さん、さらにおばさん達までも、ホホを赤く染めて僕達をうっとりとして眺めていた。


「おい、あの『惚れ薬』って、方の薬なんじゃないか?」


 健太は僕に小声で告げてから、僕の袖を引っ張りながら出口の扉付近にじりじりと移動していった。それは、彼女達の理性が負けて僕たちを襲おうとしたときに、直ぐに逃げられるようにするための僕達の本能的な行動だった。


 次の駅に到着するまでの時間が、こんなにも長いなんて僕達は考えた事もなかった。電車は、次の駅に向かってゆっくりと進んでいった。


(続く、のか?)

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