死霊術師の魔工芸品弐式~ネクロマンサーのクラフトワークⅡ~ 魔法で造るパワードスーツ

大黒天半太

一 それはある朝突然に

 突然の闇に困惑し、眩い光に眼を開くと、そこにはチグハグな光景がひろがっていた。


 高校三年生の晩秋、そろそろ私大の出願を控えた頃、県立鞍橋くらじ高等学校三年A組の生徒二十九名と教諭二名は、朝のホームルームの真っ最中、異世界リューセッツラントに召喚された。


 一瞬の闇に包まれると、教室まるごと、正確には、廊下の一部を含んだ円柱形の空間が、これまでの現実から切り離された。


 3Aクラス内の三十一名全員が、謎の声を聞いた。

 それが、男性の声に聞こえた者も、女性の声に聞こえた者もいる。


『汝らは、異なる世界リューセッツラントに召喚された。

 リューセッツラントが魔界からの侵略を受けたため、それに対抗する戦力として喚ばれたのだ。

 汝らにはそれらに対応するため、これより戦うための才能アビリティ技能スキルがそれぞれに与えられる』


 一方的に言い渡され、各人それぞれの視界にはゲームのように『表示枠ステータスボード』が現れ、与えられた才能アビリティ技能スキルが表示されているが、それ以上何の説明も無い。とりつく島もなく、再び、世界は暗転する。


 異世界リューセッツラントの国の一つ、レツスバード王国、その中央都クンリグスタットにある魔法省の中庭に設えられた巨大召喚陣に、強制召集/召喚を受け、教室まるごと出現した。


 鉄筋コンクリートは切断され、両隣のクラスの前後の黒板と廊下とベランダの一部はくっついて来たが、巻き込まれた他のクラスの生徒はいなかった。天井は全く無く、逆に床に欠損は見られない。円柱形の空間が切り取られたらしい。


 半壊した教室の周囲には、鎧兜を纏い剣と槍と弓矢で武装した六十人余りの兵士が、囲んでいる。


「よくぞ、レツスバード王国に参られた、異世界からの客人まろうど、レツスバードの救世主すくいぬし達よ。諸君らは、選ばれし者、勇者、聖者、賢者、その候補生アプレンティスとして召喚された。レツスバード王国はこれを歓迎する」


 物々しい警備陣の中、恭しく案内された高位の人物、レツスバードの魔法大臣ヴィンチトーレは、大仰に歓迎の意を表し、国を上げての支援と厚遇を約束し、彼らの活躍にレツスバードの存亡がかかっているし、今後に期待していると述べて、早々に去って行った。


 将来のことを考えると、高校三年生には非常に迷惑なタイミングだが、中には進路に悩む煩わしさからの、解放だと捉える猛者達もいた。


「病欠だった鍋島ナベシマ以外は、全員いるな」

 大人である担任の数学教諭・椿 繁ツバキ シゲルと副担任の国語教諭・楳津 幸子ウメツ ユキコはなんとか平静を保っていた。

「3Aクラス二十九名生徒全員います」

 学級委員・級長である池田 誠一イケダ セイイチは、『魔戦士マジカリィアーティスト』に覚醒し、自然とリーダーシップを取っている。


 生徒二十九名+教諭二名全員が、魔法省の鑑定士アプレイザー達の鑑定を受け、各人の得た職種ジョブによる権能プリヴァレッジ技能スキルに応じた指導者が付けられた。


 技能スキルは、大きく魔術系と技術系に分かれている。


 更に魔術系は、攻撃魔術と防御・補助支援・回復の各種魔術に、技術系は、戦闘スキルである武器・格闘技・強化等や各職業の技能・生産加工等の専門スキルに細かく分かれていた。



「で、天の声ってヤツは、『魔界からの侵略者と戦う力を与える』とか大仰なこと言ってたけど、魔術系も技術系も大した技能スキルは貰ってない、俺みたいな員数外余り者は、所謂いわゆる『巻き込まれ召喚』ってヤツじゃないの?」


 『魔道具士アイテムクラフター』に覚醒した高橋 明タカハシ アキラは、ファンタジー小説やコミックで得た知識から、状況に応じた言葉を選んだつもりで、そう口にした。多分、同様の読書経験の無い級友達には、伝わらないだろうなと思いながら。また、自分に主役を張れるような技能スキルが無いことにも、少し落胆していた。

 コミックやアニメや映画とかの知識のあった幾人かには、なんとかそのニュアンスは伝わったようだ。


「今日、体調不良で欠席した鍋島ナベシマは、そういう意味ではむしろ強運だったってことになるんだろうなぁ?」


 『魔術師《マジックキャスター》』に覚醒した松本 博務マツモト ヒロムは、姿の見えないクラスの女子一人の名を挙げて、嫌味を言う。これも低レベルではろくな魔法も使えない職種ジョブになったことも含めた、ほぼ八つ当たり気味の無責任な放言だ。

 

 三十人の級友クラスメイトの内、当日病欠で只一人の欠席者・鍋島 光ナベシマ ヒカルは、召喚されなかったことを強運と言うべきなのか、才能アビリティ技能スキルが得られなかったことを不運と言うべきなのか。

 当然、彼女には彼女なりの言い分が、あるだろう。


「王国の鑑定士アブレイザーが鑑定した後だが、私にもみんなの能力スキルを観せてもらえないだろうか? 私の職種ジョブは、そちら関係に関連するらしいんだ」

 勇者候補生アプレンティスの一人となった『提起者プロポーザー大黒 天オオクニ タカシは、その才能アビリティ提起プロポーズ』と技能スキル鑑定アプレイズ』を生かし、級友クラスメイト二十九名の才能アビリティ技能スキルを把握し、理解した。

 その上で、自分達でも当面の計画を立案し、自分達主導のプランを王国側に提起することを提案した。

 尚、教諭二人の才能アビリティ技能スキルも聞いているが二人とも『強化エンチャント』系なので、協力してもらえる部分に参加してもらえればいいと、タカシは考えている。


 各個人に与えられた才能アビリティの効果は、ほぼ固定だが、技能スキルは得た後、どれだけ伸長出来た伸ばせたかで評価が変わる。


 魔術系のスキル保有者は、魔術師・魔導師の指導を、技術系の内、戦闘スキル保有者は、剣士や弓士等の専門職の指導者の下で訓練を開始し、実戦実用レベルまでスキルを磨く。


 平たく言えば、戦っても死なない程度以上にならねば、話にもならない。王国にも利用価値は無いし、低レベルの現状で王国に見放されれば、全員の死活問題そのものに直結しかねない。


 残る問題は、一見して、直接この魔界からの侵略という事態に寄与するとは思えない才能アビリティ技能スキルの所持者をどうするかということだ。


 ここに召喚された呼ばれたということは、彼等のスキルも必要だと天の声は言っていると考えるべきだろうが、具体的根拠が示されておらず、そこを含め、全員の有用性と必要性を、王国に、王立魔導師団に、認めさせなければならない。


 例えば、『魔戦士マジカリィアーティスト』の誠一セイイチや『勇者ブレイブ』に覚醒した吉田 臨ヨシダ ノゾムは、王国の期待通りに成長できる見込があるから、成り行き任せでも構わないが、その他大勢のメンバーには、成長の機会の確保と活躍できる場の設定は必須で、尚且、王国にそれを認めさせなければならない。



 学級委員・級長で『魔戦士マジカリィアーティスト』である池田 誠一イケダ セイイチと『提起者プロポーザー大黒 天オオクニ タカシは、この際、全員がかりのブレインストーミングで何かアイデアを捻り出そうと試みた。

 三人寄れば文殊の知恵、三十一人ならその十倍とはいかないにしても、誰かが思いつかなかったことに、他の誰かが気付くことだってあるはずだ。


 まず、立候補してくれた郡山 和己コオリヤマ カズキら仲のいい四人グループを、下地を作るための最初のチームとすることにした。魔道具マジックアイテム関連のスキルが、その四人に集まっているということらしい。アイテム遣いの『駆使者トルーパー』である和己カズキを中心にして、『魔道具複写アイテムコピー』の九十九安之ツクモ ヤスユキ、『錬金術師アルケミスト』の天海沙和子アマミ サワコ、三人をサポート出来る『魔力供給マナ・サプライ』の高田奈穂タカダ ナオの四人は、元々仲が良かったし、和己カズキ沙和子サワコが交際し始めたのにつられ、安之ヤスユキ奈穂ナオもカップルになったので、別行動を取ってもらうにも頼みやすい編成だった。


「で、チーム名はその『スケルトン《骸骨》』でいい?」

「いや、『スケルトン《骸骨》』じゃなくて『エグゾスケルトン《外骨格》』ね。魔道具を生産というか量産してもらって、私達に使わせてもらうのが目的だから」


 そこへ、王立魔導師団の魔術師の一人が訳知り顔で口を挟む。


「スケルトンと言えば、死霊術師ネクロマンサーの領分でしょう、我が国には、かつて最高位の死霊術師ロードオブネクロマンサーがおられ、亡くなられた後も、弟子である高位死霊術師ハイネクロマンサーが後を引き継いでおられます」

 四人の送り出し先は、その高位死霊術師ハイネクロマンサーに決まりそうだ。


「『骸骨スケルトン』と『外骨格エグゾスケルトン』じゃニュアンスが違うんだけど、コレで失敗したら、王立魔導師団の発言の責任にして、口を挟ませない方へ舵を切ることもできるな」

 それをベースにして、数人づつでチームを組んで、王国側が予測出来ない結果/成果を出す。

 それによって、まだ能力を発揮できていない級友達全員にも、価値があることを間接的にでも認めさせる。


 誠一セイイチタカシの深慮遠謀は、まだ入り口に差し掛かったばかりのところだった。


 とりあえず、第一陣のエグゾスケルトンチームの四人と、勇者として表看板を背負ってもらう吉田臨ヨシダ ノゾムくんには頑張ってもらわねばならない。

(以下、『死霊術師の魔工芸品』と『四天王が倒せません』に続く)


 自主的に動いても、王国に貢献できていると言う実績・事実を作らないと、一方的に王国のいいように使われることになりかねない。


 そして、王国が、大臣が、魔導師団が、自分達に何を期待しているのかを把握しなければ、次に打つ手も選べない。


 誠一セイイチタカシは、不本意ながら、彼等との折衝にこそ比重が偏ることになる予感に、げんなりした。

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