第4話料理部員のバレンタイン
女子校の王子は大変そうだ。
いつも。
バレンタインの時期。
隣は可愛らしいパッケージの箱や袋でいっぱいになっているのを見てしみじみ思う。
モテるって大変なんだなあ。
三ヶ月前。
席替えがあった。
声を殺したかすかな悲鳴の中、私、日浦可保は、皆が狙う、学校イチの有名人、通称"王子"の隣の席になった。
あまりにかの人が人気かつ席譲りは過去席替えのたび起きた度重なる熾烈な王子の隣の席争奪戦を経て、禁止、ただしその分、うちのクラスは他クラスより頻繁に席替えをし、より王子の隣に行ける人を増やしている。
下手な争いになりかねる人気だから、特例だ。
とは言え。
好きな人の隣に他人がいたら。
嫌だよな誰だって。
全く私は興味がなかったと、て。
それを言い出したら、余計に。
周りからの視線が痛い。どんな配慮も。
私が今いる、この席を狙っていた人の氣持ちまでは止められないから。
しばらく胃が痛いな、と思いつつ。
机を移動し、王子様こと秋田萌奈美さんと、挨拶をする。
はは、よろしくと笑った顔にを間近で見て。
なるほど、これはモテるわと実感。
身長が高く男顔寄りで格好いいのに、笑顔が可愛い。
いつも人垣があり、積極的に避けていたが。
なるほどね、と思い、また痛い視線から我に返り王子から目を逸らす。
危ない危ない。適度に距離を取らないと。
そうやって、席替えがあって、日がすぎ。
今日はバレンタインデー。
私はというと。
数人、友チョコを配って、おしまい。
さっさと周りから見えるように渡して、立場は明るくしておく。
私は、王子様を狙っていませんから。
トイレ休憩時間すら全て、自分の席から離れておく。
好きに、好きな人が、王子に氣持ちを気兼ねなく伝えられるように。
さて。授業も帰りの会も終わり。
部活動に行く人、まだまだチョコ渡しに頑張る人、色々周りはバタバタしているが。
私は今日は帰らなくては。
お父さんと、弟用にケーキを焼かなきゃならない。
『日浦さん?』
『はい?秋田さん、どうしました?』
珍しい人に呼び止められた。
ふと周りを見たら、彼女の周りには誰も居ない。
『ふふ、撒いてきた』
だから、安心してと言い添えて。
紙袋に入れた私より大きな手。
取り出したのは可愛い小箱。
『ありがとう。いつものお礼』
『え、いいですよ』
『いやいや。貰って、日浦さんにだから』
お返しがない。
私はいつも数ぴったり作り派。
そして朝早くには配ってしまった後だ。
結局。
押し負けて受け取る。
お返しない、だから受け取れないと言うを制し。
じゃホワイトデー待っていい?と、言われ。
帰宅して開いた中はデパートで本命に送るようなお高めみたいな品、買ったのであればこの辺のお店で見た事ない箱だからネット購入か?
やばい、どんなお返しだ、この高級チョコレートと釣り合いが取れるの。何作る?いや買う?
受けてなお悩ましい。
いっそ買いたい。
これと比べたら月とスッポンだろう、私のお菓子。
だけど。
かの人は、私の部活、料理部と知っていて。
手作りで、とオーダー付けて去って行った。
困る。困った。どうしよう。
試行錯誤していたからか、自分的に吟味するからか、時は早くすぎて。
ホワイトデー。
前日にお願いして、早めに登校してもらい手渡す。
どうしようか迷い迷いした。
嵩張るも目を引いて誰からとか氣にされたら困る。
もし自宅で召し上がるなら、保管時間持つものを。
『わぁ可愛い』
その場でリボンを解き、箱を開けた王子の顔が輝いて、そして。
3個入りの一つを口に。
『ありがとう。……ねえ、日浦さん、カホさんって呼んでもいい?』
『は、はいっ』
眼福過ぎて、ここにいない、王子ファンに後ろめたいような、見せてあげたいような変な氣分で。
反射的に答えて。
我に返る。
や、王子ファン敵に回して、今より危険増やしてしまわないか?と。
だが。
『ありがとう〜』
氣付くと彼女の腕の中。
嬉しいらしく、私を抱きしめて入れたまま、くるくる回り始めてしまい。
やっばなし、はこんな喜んだ後に言えない。
連絡先交換して。名前呼びは2人の時にと約束取り付けたら、時間だ。
『私部活の準備に行きますね?』
ホワイトデーは忙しい。
予算が高めの今月、そして先月はスペシャルに豪華だが手間が半端なくかかるお菓子作りの月。
下っ端な一年生の私は。
準備をしなくちゃならない
『私もバスケ部行くわ、カホちゃん、いってらっしゃい』
『はーい』
走りながら。
ふと。
王子様は何人にチョコレートお返ししたり
あげたりするんだろうと素朴な疑問。
まあ、連絡先交換したし。
また聞いたらいいか。
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