第7話 二人の部長候補

 次の部長の候補は、事実上、二人いる。

 一人は、いまジュニアリーダー、つまり二年生以下のまとめ役で、いわば部長見習いの大鹿おおが早智枝さちえだ。

 順当に行けば、当然、早智枝になる。トランペットの首席奏者だから、音楽的実力も十分だ。

 しかし、もう一人、その大鹿早智枝に対して副リーダーを務めている郡頭こうずまちという子がいる。

 郡頭まち子はいまの向坂さきさか部長といっしょに部に入ってきた。向坂部長はこの郡頭まち子のほうを気に入っているだろう。

 まち子自身もやる気十分だ。

 りゆ先輩はいまの部長と仲がいい。

 したがってりゆ先輩は郡頭まち子を推すつもりだろうと、千鶴ちづるは考える。

 「わたしは、だれがリーダーでもついて行きますけど」

 考えて、これがいちばんましな答えだと思った。

 「グンズでも?」

 りゆ先輩が念を押す。「グンズ」というのは郡頭まち子のことだ。

 でも、「グンズ」というのは、どっちかというとバカにしたあだ名のはずだが?

 「はい、もちろん」

 で、軽く逆襲する。

 「まち子ちゃんだったら、何か問題でもあります?」

 イノセントなふりをして。

 「まち子ちゃん、もの知りだし、だれとでも話をするし、いいんじゃないですか?」

 「そう思う?」

 りゆ先輩が念を押してきた。

 自分で始めた会話の流れだけど、これはちょっとまずい展開だ。

 「大林おおばやし千鶴は郡頭まち子を推した」とかいう話を流されると、めんどうなことになる。

 だから、

「早智枝はきっちりしてますから、タイプが違いますよね。どちらでも、わたしはついて行きますよ」

と言って、バランスを取っておく。

 さらにつけ加える。

 「どちらがリーダーなのがやりやすいかは、いまはわからないです」

と逃げる。

 りゆ先輩はそこから

「どっちがリーダーでもやりにくいです」

という千鶴の本心は読めないだろう。

 郡頭まち子はみんなをまとめられるような性格でもないし、信頼もされていない。

 しかし、大鹿早智枝は、二年生以下のまとめ役といいながら、いつもむっつりと黙っていて、何を考えているかわからない。何か言わなければいけないときには、もにょもにょと不平を言うような言いかたで言う。しかも、いきなりきついことを言う。

 同学年の千鶴でも「怖い」と思うような子なのだ。

 威圧する力はあるかも知れないけど、威圧だけではやっぱりリーダーにはなれない。

 ソロトランペット部門次席の藤井ふじい佳菜かなが部長ならばみんな喜んでついて行くと思う。でも、残念ながら、藤井佳菜はトランペットパートで大鹿早智枝の下の次席だから、部長候補ではない。

 「あのさあ」

 りゆ先輩はそう言って、またためらう。

 隣を歩く千鶴の顔を見たまましばらく歩く。

 よそ見は危ないよ、りゆ先輩。

 「今回、朱理あかりがいやに積極的でさ」

 朱理ってだれだっけ、と、思い出すのにしばらく時間がかかった。

 りゆ先輩の周囲にいそうな生徒を一人ひとり思い浮かべて、ようやく答えにたどり着く。

 副部長の宮下みやした朱理先輩だ。

 向坂部長が生徒会役員から部長になったときに生徒会から連れて来た、部長に絶対服従の先輩だ。

 この先輩は、生徒会にいたころには「スーパー書記補」と呼ばれていた。

 書記補というのは、生徒会の役職でも下のほうだと思うのだけど、学校から言われたことでも生徒から持ち込まれた問題でもすぐに解決してしまう、と評判だった。

 だから「スーパー書記補」。

 この「スーパー書記補」がほんとうに快刀乱麻を断つような名解決を連発したかというととても疑問なのだけど、ともかく、生徒会にいるころには、向坂先輩よりもこの宮下朱理先輩のほうが生徒に名を知られていた。いまもたぶんそうだろう。

 だから、フライングバーズに移って来て、向坂先輩が部長、宮下朱理先輩が副部長、というのも、何か不自然な感じはするのだけど。

 でも、だいたい、それまでの猪俣いのまた沙加恵さかえ部長を辞めさせてこの一派が部長とか副部長とかパートリーダーとかになった、ということ自体がものすごく不自然なのだから、どっちでもいい。

 で?

 宮下先輩が積極的といっても、宮下先輩も三年生だから、自分は次期部長になれないはずだが?

 りゆ先輩が言う。

 「朱理が、部長は大鹿ちゃんじゃないとだめだってけっこう強く言ってるらしいんだよ」

 「それは珍しい」と声に出そうになって、止める。

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