堕天使アウニエルの羽は10の命令を下す

白鷺雨月

第1話 帰宅したら堕天使がいた

 仕事がやっと終わり、僕は自分のアパートに帰宅した。築三十年の安アパートだ。安月給の僕がすめるのはこの程度だ。

 玄関を開け、短い廊下を進み部屋の扉をあける。


「やあやあ、飯沼賢志いいぬまけんじさん。私は堕天使であり悪魔元帥が一人アウニエルと申すもの。あなたはこの魔王の羽ペンの所有者に選ばれなたのです。パチパチパチパチ」

 僕の万年床にあぐらをかいて小柄な女性がすわっている。黒髪の少女はわけのわからないことを言った。服装はなぜかセーラー服であった。

 こいつ勝手に人の家に上がり込んで何を言っているんだ。この不法侵入者め。


「あら、賢志さん。私の言うことが信じられないようですね。それでは私が堕天使だということを証明してみせましょう」

 バサリと甲高い音がした。

 突如、黒髪の少女の背中からカラスのような黒い羽が生えた。少女はバサリバサリと何度も羽を羽ばたかせる。部屋中に羽が舞い散る。

 ワンルーム広さ八畳の僕の部屋は羽だらけになる。


「分かった分かったから羽をしまってくれ」

 僕が懇願すると黒髪の少女は羽をシュルシュルと収める。どういう仕組みかわからないが、彼女の背中に手のひらサイズに黒い羽はおさまった。


 堕天使アウニエルと名乗った黒髪の少女は手のひらに羽ペンを乗せ、僕に見せる。

 この堕天使を名乗る黒髪の少女けっこう可愛い。だからかどうか分からないが、僕は気を許してしまった。


「ふふーん、賢志さん。あなたのリビドーの強さは通常の三倍です。この羽ペンを使えばそのリビドーエネルギーはもっと跳ね上がるでしょう。僭越なかがらあなたのリビドーエネルギーは悪魔にとっては貴重な栄養源なのです。なので少し分けていただければこれ幸いなのです」

 顔はけっこう可愛いのに堕天使アウニエルとやらは何を言っているんだ。やっぱり不法侵入者として警察に突き出そうか。

「このニコラの羽ペンを使えば君の命令は何でも聞かせられるのです。いわば絶対遵守の羽ペンなのです。使用回数は10回です。よくよく考えてお使いください」

 堕天使アウニエルは指パッチンをし、どこかに消えてしまった。部屋には黒い羽と手にはファンタジーものでよく見る羽ペンが残った。



 いったいなんだったのだという気持ちでいっぱいだ。部屋の掃除をしたあと僕は羽ペンを手にもった。手帳に当てると勝手にインクがにじむ。

 試しに社内一の美人である相田由美あいだゆみの名前を書く。半信半疑で相田由美は僕の彼女になると書いた。


 翌日、出社すると相田由美が僕に近づいてくる。

「賢志君、お弁当作ってきたの一緒に食べよう」

 相田由美はかばんからお弁当箱を取り出し、僕のデスクに置いた。

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