その頃の王様と新米騎士団④

「馬鹿野郎! ガキ三人が命掛けて戦ってるのに、ふんぞり返って座ってろってか!? ふざけるな!」



王都に聳え立つヴァリエント王国の中心。

その会議室でカーライル王が吠える。


公爵家騎士団の諜報部隊であるD隊を通じて魔導伝達所襲撃の急報を聞きつけ、今や王城は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。



既に王都守備騎士団が出撃し、現場付近を結界魔法で隔離し終えている。


「魔導伝達所は切り捨てて早急な結界隔離。スムーズに王城にある予備動力に切り替えれたから一般市民に目立った混乱はなし。上々の滑り出しかと思いますが?」


王都守備騎士団 の隊長が無精ひげをなぞりながらカーライル王を窘める。


「話をすり替えるな! レオナルド達の援護に行くと言っているんだ! ガキにだけ命を張らせるなんて俺は認めねぇぞ!」


いつもは王っぽさを出そうとして自分の事を余といっているカーライル王だが、激昂して素の口調が出てしまっている。



「誰が戦っていても貴方はふんぞり返って座っていて下さい。 貴方は王なんですよ? 行くなら我々が突入します。むしろ、我々に交戦許可を頂きたい」


「……え? あー、うん。……お前たちが行くの?」



王都守備騎士団 の隊長の言葉に冷や水を掛けられたように冷静になるカーライル王。



確かに広範囲における戦域を攻略するための戦略において、質よりも数は重要だ。


どれだけ強くても、無敵の個人に広大な戦域をカバーする事は出来ない。


しかし、狭い範囲の戦術レベルの戦闘において、数はむしろ邪魔になる。


特にたった一人で広範囲を爆撃出来る英雄のいる戦場では明確に足枷にしかならない。


仮に王都守護隊が向かっても、レオナルドの黒雷の雨に巻き込まれ、アランに近付いただけで焼け死ぬことになるだろう。


残念ながら、王都守備騎士団 に英雄足りえる実力者はいないのだ。



「……私達にも矜持はあります。貴族とは国と民を守る剣にして盾。民より先に死ぬのは貴族の務めであり、そして王より先に死ぬのは臣下の務めであります」


隊長の目は静かに燃える。


彼が冗談で言っている訳ではないとカーライル王は理解した。



「いや、うん。そうなんだがな?」


でも、お前たちが行っても無駄死にだろ。


喉元まで出て来たそんな心無い言葉を呑み込み、しどろもどろになるカーライル王。



彼らは決して弱いわけではない。

降魔大戦の生き残りであり、あの大戦を潜り抜けた猛者ぞろい。


しかし、常人にはどれだけ努力をしても決して届かない領域がこの世界には存在した。



「……わかっております。私程度では決して届かない高みがある事を。しかし、彼らの援護に行くのであればどうか私共から―――― !」


剣ダコだらけの手を震えるほど強く握り込み、カーライル王に詰め寄る隊長。


その勢いに押されて困り果てるカーライル王。


彼らとて好き好んで子どもに戦場を任せている訳ではない。


年長者として、騎士としての矜持がある。


加えて、自分の王という立場と彼らの騎士としての立場もある。


カーライル王は彼等を否定したくない想いと、自分の頭に据えられた冠の重さを確かに感じた。



「はぁ……。分かった。俺の負けだ。……しかし、結界内部の監視は強化しろ。後、貌なしの分体をここへ呼べ。リアルタイムで状況を監視する。王都守備騎士団 は即応体制は維持。マジでやばくなったら俺も一緒に出るからな!」


「はっ!」



会議室から走り去る王都守備騎士団 の隊長を見送り、ふんと鼻を鳴らしどかりと椅子にふんぞり返るカーライル王。


「くそ。偉くなんてなるもんじゃねぇな……。

――――頼むぜ。レオナルド。尻ならいくらでも拭いてやるからよ……」



この後に貌なしを通じてイチャイチャして叩き落されたレオナルドを見て王は再度喚きだすことになる。



――――――――

――――

――


ざわざわと漆黒の大樹の枝葉が怪しく揺れる。


そこは黒雷の雨と白炎の余波が付近の空気を加熱し、熱波となって駆け抜ける焦熱地獄。


辺りを埋め尽くしていた不定形の黒水は雷と炎に焼き尽くされ、そして残る全てが漆黒の大樹となった。



抉れた大地に積み上げれた瓦礫の山。


ドゴンッ!! バヂィッ!!


衝撃が瓦礫を吹き飛ばし、付近に黒い雷が荒れ狂う。



「はぁはぁはぁ! ユーリア、怪我は!?」


「私は平気ですが、レオナルド様は――――!」


「問題ない。あの人形たちは……!」


瓦礫の山を吹き飛ばし、砂埃にまみれたレオナルドとユーリアが顔を出す。



『君たちがイチャついて失態を冒したこの数分で状況はだいぶと変わったよ』


パタパタと羽音を立て、貌なしが操る蝙蝠の使い魔が二人に話しかける。


「その声はルーシ……いや、貌なしか。状況を説明してくれ」


『懐かしい。その誤魔化し方、御館様そっくり。――――いいよ。小言は後にしてあげる。アランと元凶が接触した。あの大樹はその結果』



貌なしに促されて視線を向け、驚くレオナルドとユーリア。


「竜の次は世界樹か。よっぽど魔族は古典文学が好きらしいな。……アランは?」


『ちょっと拙い。この件に関しては私も悪い。ルーシーの役に成りきってソフィアの背中を押してしまった……。』


「ソフィア? ……おい、まさかこの事件を起こした元凶は――――!」


『そう。全ての元凶はソフィア。ネビロスの黒水と指揮者の空間魔法を植え付けられた哀れな聖女は今やあの黒い世界樹に成り果てた』


「なるほどな。アルの奴にはキツそうな状況だ……」


レオナルドの知るアランという少年は間抜けではない。



――――もしこれがソフィアという少女がルーシーの様な仮初の存在であればいい。

きっとアランはそれを見破り戦えるだろう。


しかし、もしソフィアがソフィアのまま敵に回ったら?


きっとアランは立ち止まってしまう。


なんせあいつは一度信じた相手を疑う事がないからだ。



貌なしの端的な説明から情報をくみ取り、レオナルドは状況を類推する。



――――なんにせよあの大樹はやばそうだ。

術式を植え付ける?


なるほど。魂すら操るネビロスなら出来るだろうな。


ソフィア嬢のあの様子だとかなり精神的にも汚染されていたのかもしれん。


お父様の仰っていたチュウニビョウなる精神の病もそれが原因か?


つまり、精神にまで影響を及ぼしていた訳だ……。


他種族、特に魔族と俺達、人間の術式の大きな違い。


精神や魂、アストラルに作用する術式……。



レオナルドの頭脳がフル回転する。


父親であるロベルトに追いつくため幼少の頃より学び、蓄えた知識が結びつき発想を飛躍させる。



【それは詠唱に問題がある。僕の感覚だけど、術式にもよるが最低でも十節以上だね】


あの夏の夜、少しだけ話をした魔族。

ネビロスの言葉が脳裏に閃く。



「レオナルド様……?」


ユーリアが黙り込むレオナルドに心配そうに声を掛ける。



「……アルと合流する。全部はアイツ次第だ」


決意した瞳でレオナルドは漆黒の大樹を睨みつけた。

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