第2話 入学式②

 よく見ると同い年くらいの女の子だった。

 制服を見る感じ、同じ高校なのは間違いなかった。

 紺のとんがり帽子から伸びる銀色の長髪は、どこか大人びた印象を受ける。

 道が分からないのだろうか。

 確かに、この辺りは複雑に入り組んでいる為、子どもの頃はよく迷子になったものだ。

 僕は、親切心で彼女に声をかけた。

「すみません、同じ高校の生徒ですよね。どうかしましたか?」

「…………」

 おいおい、無視かよ。

 銀髪の生徒はうつむいたまま、じっとして動かない。

 もしかして体調が悪く、応答もできない状態なのだろうか。

「大丈夫ですか! 聞こえますか! 聞こえたら、何か合図を下さい!」

「…………お腹空いた」

 …………?

 オナカスイタ?

「…………お腹が空いて、力が出ない」

 学校へ急がないと。

 僕は立ち上がろうとすると、銀少女に制服の裾を引っ張られた。

「助けて……ください!」

「嫌だ」

「……そこをなんとか!」

「普通に嫌だ!」

「……お金だけでもいいから!」

「絶対ヤダ!」

 何てパワーなんだ、動けない!?

 どんなに引っ張っても、裾を放してくれない。

 制服が千切れんばかりに悲鳴を上げていた。

「……はぁ。分かりました。これでいいですか?」

 僕は、鞄の中から昼食用の干し肉を彼女に差し出す。

 すると、銀はで干し肉を引ったくり、かぶり付いた。

 魔獣か。

「……はむっ……んっ、もぐ……。ほらぁやっぱり、持ってたじゃない。あたしの嗅覚を侮らないでよね!」

 ……魔獣だ。

「……んっぐ、ぷはぁ。生き返る~」

 あっという間に干し肉を平らげた銀髪魔獣オオカミは、幸せに包まれていた。

「……満足しましたか?」

「うん! まんぞく~」

 おや?

 何やらムカついてきたぞ。

「学校に遅刻するので、そろそろ放してもらってもいいですか?」

「え~いやだ~」

 笑顔のいぶし銀は、一向に手を引こうとしない。

「何でですか!」

「だって~がっこうまでのみち~わかんないんだもん~」

 額の血管が切れた音がした。

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