第3話 入学式③

「へぇ~、新入生ちゃんなんだ」

 上級生なのかよ。

 学校までを案内している途中、何気ない会話の中で明かされた真実。

「そういえば、自己紹介まだだったよね。あたしは、リム・バルバード。由緒あるバルバード家の末妹すえのいもうとよ」

 バルバード家?

 知らない名前だ。

 どこかの財閥か何かなのだろうか?

「聞いたことありませんね。バルバード家は何をしている家ですか?」

「何もしてないわ!」

 ……?

 何やら嫌な予感がする。

「でも由緒あるって?」

「……これからついてくるのよ!」

 …………。

 何を言っているんだ?

「由緒はがないと付随ふずいしませんよ」

 それを聞いたリムさんは、誇らしげな顔をした。

「物事なら、今やっているよ。大魔法の研究をねっ!」

 嫌な予感が確信に変わった。

「まさかとは思いますが……将来の名家の話をしてます?」

「それは……捉え方にもよるわね」

 リムさんはあごに手を当て、考えるような仕草をした。

 この人とは、もう関わらないようにしよう。

 そう心に決めたのだった。

 ようやく学校に到着したころには、入学式が始まっていた。

 校門前に鎮座ちんざしていた、生徒会長と呼ばれていた人に事情を説明した所、生徒会長は僕には平身低頭へいしんていとうして謝り、リムさんには𠮟咤激励しったげきれいして、彼女を担いで教室まで運んで行った。

 その後、僕は沢山の視線を浴びながら、大講堂の長椅子の脇に座る。

 こんな恥ずかしい入学式は初めてだった。

 そして、床まで届く程、長い白髭を伸ばした学校長のありがたい話は、誰の耳にも届かなかった。

 堅苦しい形式的な入学式が終わり、一息つく間もなく全身、赤いローブに覆われた身長は2メートルを超える巨漢が登壇とうだんする。

「ワシは、魔法高校一年主任で赤魔法第2等級のダルカトスだ。先ずは、シノ魔法高等学校への入学おめでとう」

 赤魔法?

 第2等級?

 聞いてるだけで暑苦しそうな熱血教師が、笑顔で意味不明な肩書を並べる。

「もう知っているやつもいるだろうが、ここは魔法の学び舎だ。近年、日常生活では当たり前になりつつある魔法の構造や知識など、基本的なものから応用的なものまでをここで学習することになる。」

 ダルカトス先生は、一呼吸置いて、視線をに向ける。

「学習していけば分かることなのだが、魔法というものは一見、便利な道具の一つだと思われがちだが、実は非常に危険で使用を誤ると時に凶器にもなるのだ。」

 気になり視線の先を追うと、そこには変態のニトラルが座っていた。

「その為、魔法資格を有していない一般人が使う魔法道具には、魔法省による厳正なる審査と、緊急時用の安全装置が備え付けられている。しかし、などの学校支給の備品には、それらがない可能性があることに留意する必要があるのだ。それを今日、この場で説明する予定だったが、もう使用して登校した愚かな生徒がおってな……なぁ、学籍番号180210のニトラル君」

 ざわめく大講堂、名前を挙げられ落ち着きのないニトラル。

「まぁ実際には、自動浮遊魔法棒に公空使用許可証(但し、免許を所持している者のみ)と緊急時安全自動操縦オートモード緊急着陸装置パラシュートがあるから安全ではあるが、それでもシノ魔法高等学校の校則としては学校外での魔法使用を禁止している。この高校へ入学したからには、それを一生徒として心しておくように!」

 ダルカトス先生は、正面に向き直り、生徒全体へ注意を促す。

「返事は!」

 ダルカトス先生の一声で周囲の空気が一瞬だけ張りつめた。

「「はいっ!」」

 全員の返事を聞いて、先生の表情は笑顔に戻った。

「以上である!」

 これにて大講堂での入学式は幕を閉じた。

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