第6話 勘違い
ゴールデンウィークがやってきた。
学校は休み。部活動も休み。課題さえ終わらせれば、家で好きなだけゴロゴロできる至福の期間。
当然、俺はアニメ三昧の日々を過ごす……と思っていた。
実際には、お昼前の午前中から、高崎駅前のショッピングモールのフードコートに来ていた。目の前の席には
小説の参考にするために、俺は今日も質問攻めに遭っているのだ。
「交際経験は?」
淡々と天宮が質問してきた。
「ない」
「でしょうね」
可笑しそうに鼻で笑われた。
「うるせぇ。そういう天宮はあるのかよ?」
「あ、あるに決まってるでしょ」
「さいですか」
まぁ、疑うつもりはない。なにせ、天宮は見た目だけは良い。
今日の彼女は、シンプルな白いシャツにショートパンツを合わせている。露出度の高い私服姿は、目のやり場に困る。
こんな美少女の天宮の内面を知らない人なら、今の状況も羨ましがるだろう。本音を言うなら、喜んでこの場を変わってあげたいものだ。天宮が許すはずがないけれど。
「なによ、その顔は」
天宮が睨みつけてきた。
こういう時は、目線を逸らして作り笑顔をするに限るこういう。彼女の機嫌を損ねて、顔にアザをつくるなんてまっぴらごめんだ。
「いや別に」
せっかくのゴールデンウィーク。2人きりになるのなら
「ねぇ。文句があるなら言いなさいよ」
「モンクナンテナイゾーー」
「正直に言わないと殴るわよ」
「……」
言ったら言ったで、殴られそうで困る。現に、彼女は拳を構えているし。
無言の俺に、天宮は呆れたような表情を見せた。
「ふんっ。いいわよ。どうせ、『小説を書くなんてくだらない』とか思ってるんでしょ?」
「そんなことは思ってない」
俺の返答に、天宮は僅かに驚いたように目を見開いた。
「じゃあ、どう思ってるのよ?」
「……せっかくのゴールデンウィークに質問攻めをされるのが面倒だとは思ってる。ただ、小説を書くことを馬鹿にはしてない。むしろ、凄いと思ってる」
「凄い?」
「ああ。だって、何もないところから話を作り出してるんだ。それだけで、十分凄いだろ。俺はこれでも、クリエイターに対して、結構リスペクトがあるんだぜ」
これは、殴られないための嘘や言い訳ではない。俺の本音だ。
今までに沢山のアニメを見てきた。それらに何度も、笑わされ、泣かされ、興奮させられ、感動させられた経験がある。
だからこそ、俺は何かを創ることのできるクリエイターには、常に尊敬の念を抱いている。それがたとえ、絵であれ、歌であれ、小説であれ、変わりない。0から1を作れるということは、素晴らしいことだと、心から思っている。
俺の言葉に、彼女は少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「そ、そう。なら、その顔も特別に許してあげるわ」
「特別に許してあげる」とは何様のつもりだ。
そう反論できないのが悔しい。今は拳を握りしめて怒りを抑える。
「じゃあ、あんた自身は何か作ったりしないの?」
「俺が?」
「ええ。それだけクリエイターに対しての思いがあるのなら、あんたがクリエイターになりたいと思ったりはしないの?」
「俺は……ないな」
脳裏に過去の黒歴史が蘇る。
天宮の言う通り、クリエイターに憧れた時期はあった。確か、中学2年生の頃だった。
当時、俺はロボットアニメにハマっていた。そして、俺自身でロボットアニメを作ってみたいと思ったのだ。
インターネットでロボットアニメの作り方を調べて、無料の3DCGソフトウェアを自宅のパソコンにインストールした。そして、試行錯誤しながら自分なりのロボットを数体3DCGで作ったのだ。アニメーションも付けて、ロボット同士が戦う数十秒の動画も作った。
俺は自分の作ったロボットアニメに大興奮していた。自分の頭の中にしかいなかったロボット達が、目の前で動いていたからだ。
そんな興奮した勢いに任せて、俺は動画をインターネット上にアップロードした。
それが間違いだった。
動画はアップロードしてから数時間後にコメントがついた。
『ナニコレ つまらな過ぎwww』
そのコメントをみた途端に、俺の興奮は一気に収まった。
それから、自分の動画とテレビで放送されていたロボットアニメを冷静に見比べた。
違いは一目瞭然だった。
動き方が変。迫力がない。カッコよくない。デザインがダサい。リアリティがない。画質が低い。パクリだらけ。
ダメな所をあげれば、きりがなかった。
それからハッキリと理解した。俺には才能がないと。
だから、俺はアップロードした動画を削除した。そうして、アニメを作ろうとすることを諦め、見ることに集中しだしたのだ。
「ふ〜〜ん」
俺の答えに、天宮は特に何かを言うことはなかった。
「さ。質問を続けるわよ」
「続けるのかよ」
それからしばらくした12時頃。
フードコートは必然的に人が増え始めた。それと同時に周りから多くの視線を感じ始めた。
露出度の高い服装に加えて、金髪のロングヘアと、見た目に華がある天宮のおかげで、自然と周りの男性たちから多くの視線を集めているのだ。
「あの子。めちゃくちゃかわいくね?」
「それな。一緒にいるの彼氏かな?」
「多分。……でも、別にそんなイケメンじゃなくね?」
「それな。釣り合ってなさすぎ」
そんな男性2人の会話すら聞こえてきた。
赤の他人から見れば、俺達はカップルに見えるのか。
と言うか、さらっと俺の悪口を言うなよ。
そもそも、比較対象が美人すぎるんだ。雑誌のモデルとかじゃない限り、天宮の容姿と釣り合える男子なんているわけないだろ。
そう心の中でツッコミながら、男性2人を睨みつける。
すると、男性2人の奥に、見覚えのある人影を見つけた。
「あれは……古賀だ!」
私服姿の
グレーのパーカーに、ネイビーのスキニーパンツを合わせて、カジュアルな着こなしをしている。ダボッとしたパーカーで柔らかそうな印象を与えつつも、下半身は細身を強調させ、スタイルの良さが分かる。
古賀は俺に気づくことなく、ポニーテールを揺らしてこちらに向かってくる。
普段は見ることのない古賀の私服姿は可愛すぎる。最高じゃないか。
ゴールデンウィーク。ありがとう神様仏様。天宮も、経緯はどうであれ、俺をここに呼んでくれありがとう。
ってちょっと待て。このままだと、俺と天宮が一緒にいる所を古賀に見られるんじゃないか? それでもし、俺が天宮と付き合ってるなんて誤解されたら……。嫌だ! そんなの絶対に嫌だ!
そう考えている合間にも、古賀がこちらに近づいてくる。
「まずいっ!」
慌てて、テーブルの下に隠れる。
「な、なによ?」
天宮が動揺しながらこちらを覗き込んだ。
「なんでもない。気にするな」
「この状況で気にしない方が無理よ」
「本当に気にするな。俺はただ、避難訓練をしたい気分になっただけだ」
「どんな気分よ」
言い合っている間に、古賀は更にこちらに近づいてきた。このままでは、気づかれるかもしれない。
すぐに、古賀の死角になりそうな、天宮寄りの位置に移動する。
「ちょっとあんた! 本当になんなの?」
「こっちを見るな。このままだとバレる」
すると、足元がつるっと滑った。
「うぉ!」
「きゃっ!?」
バランスを崩して、慌てて手を前に出す。直後、手のひらに柔らかく、それでいてハリのある感触が広がった。
イスの座面にしては柔らかすぎる。なんだこれ?
「っ!」
俺が手をついたのはイスの座面などではなかった。そこは、天宮の太ももだった。
恐る恐る顔を上げて、天宮の様子を伺う。
彼女は顔を真っ赤に染め、俺を刃物のように鋭く睨みつけていた。
「こ、これはわざとじゃなくて……」
「っ!!!」
「ご、ごめ」
「どこ触ってんのよっ!」
言われると同時に、俺は顔面に強烈な蹴りを食らった。その勢いのまま、テーブルの下から飛び出していく。そうして、テーブルとテーブルの間の通路部分で仰向けで倒れた。
「い、痛えぇ……」
激痛で意識が朦朧とする。視界がぼやけて、現状を理解できない。
「ソラノクン? ダイジョウブ?」
誰かが俺を呼ぶ声がする。
瞬きを数回して視界をハッキリとさせる。
「空野くん?」
「なんか、古賀みたいな天使がいるな」
「え? 天使?」
「そう。天使……って、うおっ! 古賀っ!?」
慌てて飛び起きる。
目の前には、大きくて丸い瞳で、不思議そうに俺を見つめる古賀がいた。
「そ、空野くん、大丈夫? 倒れてたけど」
「だ、大丈夫! 大丈夫! ちょっとコケただけだから」
痛みを我慢して全力の笑顔を見せる。
「良かったぁ」
古賀はふんわりとした笑顔で安堵している。
どうやら、上手く誤魔化せたようだ。
「あっ!」
突然、古賀が何かに気づいたような声を上げた。
「どうした?」
「もっとちゃんとした服着ておけば良かったなぁって」
「服? どういうことだ?」
「な、なんでもないよ。アハハ〜〜」
古賀は頬を赤く染めながら視線をそらした。
どういう意味だ。まさか、俺の服にゴミでも付いてるのか。一応、体全体を手で払っておく。
すると、古賀がチラチラと天宮の方を見始めた。
「……えっと、空野くんは天宮さんと、で、デート?」
「ちがーーう!」
やっぱり誤解された。くそっ。今すぐ誤解を解かなければ。
「これはだな、天宮のしょ……」
言いかけた所で、殺気の含まれた視線を感じた。
視線を右にずらすと、天宮が拳を握りしめてこちらに見せつけていた。「言ったら殴り殺す」と言っていることを、嫌でも理解した。
「天宮さんのしょ?」
言いかけで止めたせいで、古賀が首を傾げている。なんとか、ウソを言わなくては。
「しょ……小テスト! そう! 小テストの解説をしてたんだよ」
「あっ! この前、小テストあったもんね。2人とも偉いね」
あぶねぇ。なんとか誤魔化せた。
「ま、まあな。古賀はどうしてここに?」
「私はここで売ってるタピオカミルクティーを買いに来たの。この後、塾に行くから、勉強しながら飲もうと思って」
「糖分補給は重要だからな。古賀は真面目だな」
「そんなことないよ。それじゃあ、2人も勉強頑張ってね!」
そう言って微笑むと、小さく手を振ってタピオカ屋の方に行ってしまった。
古賀がタピオカミルクティー飲む姿は絵になりそうだ。
それはさておき
「誤解されずに済んだぁ〜〜」
と、元いた席に脱力して座る。
「今後も、私の秘密については誰にも言わないことね」
「分かったよ」
天宮が疲れた俺を労うことはなかった。ただ、様子を伺う限り怒っているわけではなさそうだ。太ももを触ってしまった件は水に流してくれたらしい。
「それにしても、あんた。私とデートしてるって勘違いされた時、やけに焦ってたわね。そんなに私とのデートが嫌ってことかしら?」
「そういう意味じゃない。ただ、まぁ、誤解されたくなかっただけだ」
「ふぅ〜〜ん。ん?」
そう言って、突然、天宮が手帳をめくりだした。以前、俺に質問して書いていたページを読み返している。
何をしてるのだろう。
すると、ピタッと天宮の動きが止まった。そして、手帳から顔を上げると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「へぇ〜〜」
「おい。なんだその顔は」
「ふふっ。あんた。あの子のことが好きなのね」
「っ!? な、なんで急にそんな話に!?」
「だって、あんた自身が言ってたじゃない。好きなタイプを」
「あっ!」
思い出した。確かに、以前された質問の中に、好きな女性のタイプというものがあった気がする。
まさか、こんなにあっさりとバレるとは。しかも、よりにもよって、天宮に。
「……そ、そうだよ。俺は古賀が好きなんだ」
「ふぅ〜〜ん。ああいう子が好きなのね。ま、確かに可愛いわね」
「だろ?」
「あんたとは到底釣り合えそうにないほどね」
「ほっとけ」
「あっ。良いこと考えた」
「このタイミングの『良いこと』って、絶対良いことじゃないだろ」
「私、あんたに太もも触られたこと、許してないの。なんなら、今すぐ警備員にあんたを突き出しても良いのよ?」
天宮が言うと冗談に聞こえない。何より、目がマジだ。
「くそっ。で、『良いこと』ってのはなんだ?」
「あんた、あの子とデートしなさい」
「はっ!?」
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