後編

「ごめんね。本当は『これからは冒険者として立派になるのよ』って辞めされられたら良かったんだけど……」

「ダメだ! この前入った新人受付嬢がようやく独り立ちしたし、近々3人目を作ろうかと……うぐっ!」

「まぁ、そういうことだからあと1年くらい受付嬢として働いてもらうわ」

「はぁ、まぁ……そういうことでしたら」



 申し訳なさそうに眉を下げる副ギルド長に、私は曖昧に笑みを浮かべた。


 副ギルド長には、新人の頃に何かと気にかけてくれたから、彼女からの頼みを無下にするわけにはいかないし、今まで副ギルド長の仕事をしていたのも、彼女に対しての恩を返そうと思ったから。


 決して、ギルド長を助けようなんて気持ちからではない。


 それに、10年も受付嬢をしていれば、何だかんだで仕事にも愛着がわく。もちろん、冒険者として活躍したい夢は諦めていないけど。



「でも、あなたの頑張りには応えたいから、しばらくの間、羽を伸ばして良いわよ。その間、私があなたの穴を埋めるように動くから」

「ありがとうございます!」



 これで、ようやく冒険者として活躍出来る!


 涙目の夫にコブラツイストをかけながらお茶目にウインクする副ギルド長に背中を押されて、私は意気揚々と部屋を出ると他の受付嬢に事情を話して引継ぎを済ませると、自宅に戻って冒険者の準備をした。


 そして翌日、私はCランク冒険者として迷宮の前に立っていた。



「ようやく、ようやく迷宮に入れる!」



 私が冒険者としてやりたかったこと。それは、かつて両親が仲間と共にしていた迷宮攻略だった。


 今まで迷宮に入る機会はあったけど、それは低ランク冒険者のランク上げのための同行であって、冒険者としてクエスト受けての攻略ではなかった。



「あまり活躍していないソロのCランク冒険者だから、深い階層まで行くことは出来ないけど、何度か迷宮に行ったことがあるし、準備も出来ているから大丈夫よね!」



 両親に憧れた私は、両親のような冒険者になりたいと勉強や鍛錬も魔法も頑張ったし、受付嬢として働きながら冒険者としての経験値を着実に積んできた。



「おい、嬢ちゃん! いよいよ迷宮攻略か?」

「はい! 頑張ります!」



 ランク上げに付き合ってくれた先輩冒険者パーティーの皆様の後を追うように、私は得物を携えながら薄暗い迷宮へと一歩踏み出した。


 その後、ソロで迷宮の中級階層まで行った私が話題になり、王都で活躍しているAランクパーティーがわざわざ迷宮都市の冒険者ギルドで受付嬢をしている私のところに声を変えてくるのは、そう遠くない未来である。

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ギルドの受付嬢として勤続10年。上司から「羽を伸ばしてこい!」と命令されたので、念願の迷宮攻略をします! 温故知新 @wenold-wisdomnew

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