❄️4👨

 あの後、動揺するユキからなんとか聞き出せた話は、こうだった。


 あの日の朝、いつものようにバイト先のラーメン屋に行くと、店の前で急に知らない女が声を掛けてきたらしい。


 やたら化粧の濃い顔に、派手なラメのワンピース。


 スナックのママのような身なりの女は、酒焼けしたしゃがれ声で「アナタ、イシカワ ユキさんだよね」と、名乗っていないユキの本名を言い当てた。


「ごめんね、急に。アタシ、アイツに頼まれてコレを渡しに来ただけなの」


 ユキがびっくりしてる内に、女は一枚の白い封筒を差し出してきた。

 それがあの封筒――ユキの親父からの手紙だった。


「あんな男の顔、二度と見たくもないだろうけどサ。気が変わったら中の名刺の番号、ソコにかけて」


 女は、それだけ言い残して去っていった。


 その女の話から三日、女がもう一度店に来る事はなかったみたいだが、あれからユキはすっかり変わっちまった。


 バイトには、何とか行ってる。

 けどウチに帰るなりすぐに寝込んで、ヤバい時は飯食ってすぐトイレで吐いちまう。一応病院でも診てもらったけど異常なし。いきなり仕事を始めたストレスじゃないかって医者は言うが、オレにはそう思えない。


 こんな時、オレは何をしたらいいのか分からない。


 ガキだった頃も、ユキと同居し始めた時も、こんな状態のユキをオレは見た事がなかった。誰かに嫌われていようが少しすさんでいようが、たまに弱ってる時だってオレの見るユキは今も昔も変わらないしっかり者のユキだけだった。


 木棚の上に置かれた手紙を何となく手にとって、部屋で寝てるユキの方に目をやる。

 今日もユキは「気持ち悪い」って飯も食わず布団に入った。白い雪肌の顔は、この手紙を貰ってきた日よりさらに血の気がなくなったように見える。


 コレさえなきゃ、ユキは今ごろ楽しくやってたのか。


 ふと、そんな考えが頭に浮かぶ。


 ユキとユキの親父の関係を、オレはあんまり良く知らない。

 多少の事は人づてに聞いて知っているが、昔にユキがどんな風な扱いをされて、そして捨てられちまったのか――。

 ユキがオレに話さなきゃ一生分からない事だし、そもそもユキが知られたくないならそれで良いってオレは思ってる。


 けどよ、こんな手紙一枚でしんどくなっちまう程の事って何だよ。


 いきなりこんな手紙を寄越したコイツに問い詰めてやりたい。

 そんで、ただそう思ってるだけで何もできねぇ自分にマジで腹が立つ。


「クソ野郎が……」


 まだ封の切られてない手紙を、オレはただ睨むしかできなかった。

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