第40話
ざっと血の気が引いた。村にいたころのあどけないシュイの姿が目に浮かぶ。それから石としての役割を果たそうとしている、現在のシュイの姿を。どちらもヒースにとってはかけがえのない、大事な幼なじみに違いはなかった。
ヒースは全身びっしょりと冷や汗をかきながら、きつく瞼を閉じる。だが、身体の震えを止めることができない。そのとき、ヒースはある可能性に気がついた。
「もしかして武芸大会はそのためにあるのか? 他国に石さまの存在を知らしめるため?」
「そうだ。俺は王である父から密命を受けてこの大会に参加した。国に戻ったら今回の旅の報告をしなければならない。もちろん俺だけじゃない、他国からの出場者は大方それが目的だろうな。アウラ王都の石がまだその役割を果たしているか確かめるためだ。当然、アウラ王都もそれはわかっている」
ひょっとしたらと思ったことをあっさり肯定されて、ヒースはじっと考え込む。オースティンの話はすべて辻褄があっている。何より自分なんかを騙してもオースティンに得などない。だがわからない。オースティンの言葉が本当ならどうなる? 彼はなぜそんな大事なことを自分に話した?
ヒースはオースティンを疑いたくはなかった。これまで交わしたやり取りの一つ一つは、故郷をなくして人を容易に信じることのできなくなったヒースにとって、決して小さなものではなかった。それらのすべてが嘘だったとは思いたくない。だけどオースティンにはヒースよりも優先すべきことがあるはずだ。ただの親切心だけで教えてくれるとは思えない。
ヒースが自分を疑っていることがわかっているみたいに、オースティンはいつもと変わらないようすで「何だ、言いたいことがあるなら言ってみろ」とヒースを促した。
「お前は密命を受けてこの大会に参加したと言った。それなのになぜ俺に話した? 俺がいま聞いたことを誰かに話したら、お前の国にとっては都合が悪いんじゃないのか? お前は困った立場に置かれるんじゃないのか?」
「よくはないだろうなあ」
全く困っているようには思えないオースティンの返答に、ヒースは眉を顰め警戒を強める。いったい男が何を考えているのかわからない。
「――俺の国にはときどき異能の力を持つ者が生まれることがある。異能といっても大した力じゃない。人よりも天候が読めて自然災害に備えることができるとか、人の身体を包み込む色が見えるとか、あってもその程度だ。俺の母親は元は巫女で、俺を生むまでは目には見えないものの存在を感じ取ることができたらしい。俺にもわずかだがその力が備わっている」
話の先が見えず、男の言葉をどう受け止めていいかわからないヒースの戸惑いがわかったみたいに、オースティンは息を吐くと、困ったような笑みを浮かべた。
「お前に頼みがある。お前がいつも首から下げている袋の中身を、俺に見せてくれないか」
「袋の中身? いったい何の話だ?」
ヒースは内心でぎくりとしながら、とっさにシュイからもらった石が入った小袋を握りしめる。そのことに気がつき、反応した自分を腹立たしく思った。
じわりと不安が広がる。オースティンは何を知っている? いったい何が目的だ? それまで信用できる男だと思っていたが、オースティンのほうは何か目的があって自分に近づいたのだろうか。これまで彼と交わしたやり取りを思い返しながら、ヒースは何か決定的なことを自分が漏らしていないか不安を覚える。
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