イベニティお嬢様の縦ロールは6000ボーン
イータ・タウリ
第1話 黄金の縦ロール
「完璧! 本当に、本当に完璧!」
思わず私は大声を上げてしまった。PCの画面の中で、フリルたっぷりのドレスに身を包んだ少女が、まるで生きているかのように微笑みかけてくる。一番の見せ場は、黄金色に輝く縦ロール。光を受けて煌めく髪の毛は、本物の髪のように柔らかに揺れている。
これが私の新しいアバター、イベニティVer.2025。
有名アバターデザイナーのMauveに依頼してから2週間。ヴァーチャルヴィヴィッドチャット(通称:
画面の中のイベニティが、くるりと一回転。ドレスの裾が優雅に舞い、縦ロールが空気を切るように弧を描く。この動きの滑らかさ、さすがプロの仕事だよ!
「よーし、さっそくV3の世界でデビューしちゃおっと!」
私は意気揚々とログインボタンを押した。VRヘッドセットを被る手が、子供のようにわくわくしている。新しいアバターの読み込みだから、ちょっと時間がかかるのは当然。でも、待ちきれない!
ところが―
「え? なにこれ......動けない!」
まるでスローモーションのように重い動作。画面がカクカクと引きつっている。フレームレートが明らかにおかしい。
「PCのスペック、足りないの? でも、今までは普通に動いてたのに......」
アバターの詳細情報を必死に確認する。そして、目を疑った。
「うそ......モデルの骨(ボーン)の数が、6000!?」
思わず画面から離れそうになる。普通のアバターなら100から200程度のボーン数。それが何と6000もある。しかも、その大半が縦ロールの髪の毛に集中している。まるで髪の毛一本一本をピンポイントで動かせるみたいな数値だ。
「こんなの絶対におかしいでしょ!」
仕方なくV3からログアウトし、PCからMauveにメッセージを送った。
「これじゃあ動けません! ボーン数が多すぎます! せっかくの可愛いイベニティなのに......」
返信は意外なほど素っ気なかった。
「V3のアップデートで対応するから大丈夫だよ。それまでの辛抱」
「でも......」
画面の向こうのイベニティは、相変わらず優雅な立ち姿を保っている。動かないから綺麗なだけかもしれないけど。
不意に、Mauveから新しいメッセージが届いた。添付されているバッチファイル。
「これを適用すれば、V3の中でボーン数を自由に調整できるようになるよ。今のバージョンでも使えるはず。ごめんね、こっちの確認が足りなかった」
半信半疑でバッチを適用して、再度V3にログイン。本当にアバター設定画面にボーン数調整のスライダーが追加されている。これは......!
「まずは標準的な200ボーンで試してみよう!」
スライダーを左に動かすと、イベニティの体が一瞬輝いた。世界がスムーズに動き出す。200ボーンに設定した縦ロールは、確かに細かい動きは制限されているけれど、それでも十分に魅力的だ。
中央広場に移動すると、すぐに声をかけられた。
「お嬢様、素敵なアバターですわね」
「まるで本物のお姫様みたい!」
「黄金の縦ロール、どこで手に入れたんですか?」
みんなの称賛の声を浴びながら、思わず調子に乗って髪をかき上げてみる。髪が自然に指に絡み、風になびくように揺れた。これはボーンがしっかりと入っているからこそできる動き。たとえ200本でも、計算しつくされた美しさがある。
「これが6000ボーンになったら......」
思わずニヤリとしてしまう。アップデートが待ち遠しい。きっとその時は、もっともっと素敵な動きができるはず。
広場の噴水に映るイベニティの姿を見つめながら、私は幸せな未来を思い描いていた。
シンプルに考えれば、普通のアバターの30倍ものボーン数。それだけでも十分におかしな話だったのに。
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