こんな感じの関係

ミモザの一日

 白熊のミモザの一日は、いつも家の中で終わる。


 朝起きて、同居人である人狼のエリシャと、彼が作った朝食を共に食べ、慌ただしく朝の支度をする彼を見守り、そして出掛ける彼を見送る。


「テレビばっかり観てないで、たまには散歩とかしに外出ろよ」

「うん」


 そんな会話を週に何度かしているが、ミモザは自宅警備員を自称しており、ミモザ一頭だけで外に出ることは絶対にない。ゴロゴロしながら、お昼にバラエティー番組の『ほっかほーか』を観るのが平日の楽しみだ。魚の三枚下ろしチャレンジのコーナーが特に好きだったりする。プロデューサーが東洋かぶれで、やたらと和風なコーナーが設けられているのだ。

 エリシャとミモザの暮らしは、エリシャの稼ぎで回っている。

 人狼の腕力と脚力は人間よりもはるかに高い。なのでエリシャは、その力を十全に使える土木作業員として長年働いている。朝から夕方まで現場で励み、近所のスーパーで食材を買って真っ直ぐ帰ってくる。職場の飲み会には滅多に参加しない。ミモザが待っているから。

 名物コーナーが終わってもテレビは消さない。そのまま音声を聞きながら、乾燥まで終わらせた洗濯物を畳んでいく。その昔、エリシャの上司が買い換えをしたからと、古い洗濯乾燥機をくれたのだ。かなり重宝させてもらっている。

 畳んだ洗濯物はそのまま。畳んで満足し、ミモザは寝る。

 そして夕方、エリシャが帰ってきてもまだ起きず、エリシャは彼が寝てる間に、畳まれた洗濯物を片付け、夕食を作り、眠るミモザのふわふわの腹に顔を埋める。


「……ふんっ!」


 ミモザ的にはわりと不快なようで、エリシャの身体を蹴飛ばすが、小さく柔らかな後肢あしではたいしたダメージを負わせられない。エリシャの気が済むまでもふられる。


「自分の尻尾を触りなよ、もふもふでしょ」

「んなもん、何の意味もないだろうが。他の奴の毛をもふるのがいいんだろ」

「べっ!」


 ミモザがどれだけ暴れようと、エリシャは絶対に途中でもふるのをやめない。頭をもふり(頭突きされる)、顎をもふり(噛みつかれる)、前肢をもふり(殴られる)、腹をもふる(暴れる)。そして満足したら夕食だ。


「昼休みによ、先輩からお菓子もらってさ。後で食べようぜ」

「チョコ?」

「いや、クッキー」

「ほーん」


 食べ終わり、エリシャが皿を洗っている間に、ミモザは風呂の準備をしていく。ミモザは白熊だから服を着ない。タオルの準備だけだ。エリシャの着替えは彼が自分で用意する。

 一緒に風呂に入り、上がったらお菓子と共に冷えたミルクを飲んで、歯磨きをして共にベッドで眠る。


「成人男性が白熊だっこして眠るってどうなの?」

「あったかいからいいんだよ。湯たんぽ湯たんぽ」

「白熊に対して失礼な。てか、夏でも一緒に寝るくせに」

「冷房が寒くてな」

「贅沢な」

「恩恵に預かってるくせによ」


 そんな風に言葉を交わし、やがて眠る。これがミモザの一日。だいたいはこの繰り返しだ。


「……」


 眠るエリシャの顔は、伸びた前髪によって左側が隠れてしまっている。それをぼんやり眺めて、ミモザはそっと前髪を退かした。

 晒されたエリシャの左側。左目の瞼の上に、大きな古い切り傷がある。それを隠す為に、エリシャは前髪を伸ばしているのだ。


「……おやすみ」

「おやすみ」


 訂正、まだ起きていたらしい。


「なあ、ミモザ」

「寝なよ」

「寝るけどよ、その前に。明後日は休みだから出掛けようぜ」

「ほっかほーか観たいからやだ」

「録画しろ」

「……ゴロゴロするから無理」

「毎日してるだろうが。とにかく、明後日出掛けるからな」


 ミモザがブーブー文句を言おうと、エリシャが撤回することはなく、翌々日、本当に共に出掛けることになり、機嫌が悪くなるミモザなのだった。

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