ボスの心臓

@masamasann

第1話 交差する運命

深夜の高速道路。冷たい雨がアスファルトを叩きつけ、車のヘッドライトが滲むように暗闇を照らしていた。追跡劇はその中で展開されていた。


主人公である刑事・桐生雅也は、長年追い続けてきた犯罪組織のボス、氷室修一をついに追い詰めていた。氷室が乗る黒いセダンは猛スピードで走り抜けるが、雅也の執念のドライビングにより距離は徐々に縮まっていく。


「氷室、お前を逃がすわけにはいかない!」雅也は唇を噛みしめ、ハンドルを握る手に力を込めた。


一方、氷室は運転席で冷静さを保ちながらも、何度もルームミラーで後方を確認していた。その目には計算された余裕と、逃げ場を探る鋭い光が宿っている。


突然、氷室の車が急カーブを曲がりきれずスリップした。そのままガードレールを突き破り、崖下へと落ちていく寸前だったが、土壇場で車は停止した。雅也も急ブレーキを踏み、車を横付けに停める。


「氷室、観念しろ!」雅也は車から飛び出し、氷室の車に駆け寄る。しかし、次の瞬間、後方から大型トラックが雨でスリップし、猛スピードで突っ込んできた。


「……!」雅也が振り返る間もなく、轟音とともにトラックが氷室の車を巻き込み、雅也自身も衝撃に飲み込まれた。


目を覚ました時、雅也は病室にいた。ぼんやりとした視界の中、機械音が規則的に響いている。全身が痛む中、何とか状況を把握しようとしたが、医師と看護師の会話が耳に入ってきた。


「命は取り留めましたが……奇跡ですよ。心臓移植が成功しなければ、助かりませんでした。」


「移植?」雅也は呟いた。自分に心臓が移植されたという事実に混乱するが、さらに驚愕の事実を告げられる。


「移植した心臓は、同じ事故で亡くなった男性、氷室修一さんのものです。」


雅也の頭が真っ白になった。あの犯罪組織のボス、長年追い続けた氷室の心臓が、自分の胸の中で鼓動しているというのか。


その夜、雅也は初めて奇妙な体験をする。眠りに落ちると、目の前に突然、血まみれの路地裏の光景が広がった。雅也はその場にいる感覚を覚えた。


「ここは……?」


誰かの視点で見ているような不思議な感覚。路地裏の奥に、一人の男が倒れているのが見える。雅也が近づこうとした瞬間、声が聞こえた。


「奴を追え……まだ終わっちゃいない。」


目を覚ました雅也の心臓は激しく鼓動していた。その声が、紛れもなく氷室のものだったと気づいた時、全てが動き出す。


「未解決事件……俺の中に眠っているというのか。」


雅也は胸を押さえ、固く拳を握った。この心臓が映し出す過去と真実を追い、雅也の新たな闘いが幕を開けるのだった。

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