私、恋愛ゲームの親友ポジですからイベントをしても無駄です!

気まぐれなリス

プロローグ 親友ポジなんです!私

高校一年生の春

桜の木の下で私は運命的な出会いを果たした

校舎の裏側、入業式をさぼって桜の根元で惰眠だみんむさぼる男子生徒

ふと私の好きなゲームを思い出す

そうして今のシーンはまるで恋愛ゲームかのような導入だと思った

いや、そうだ。この世界は恋愛ゲームの世界なんだ

はこのためだったんだ!

そう思うと居ても立っても居られず『player』を起こす

「―ん?何だ、お前」

不機嫌そうな低い声に鋭い目つき

間違いない、この人が主人公だ

「こんにちは!私はアカネと言います!

あなたのお名前は?」

『player』はめんどくさそうに体を起こし

「アキラ」

とだけつぶやき、また寝転がろうとする

そんな彼の手を思いっきり握り、走り出す

「ちょっ!何すんだこのアマァ!」

「何って入学式ですよ!遅れますよ」

「わかった!わかったからこの手を放せ…痛え!」

本当に痛そうだったので離すことに

それと同時に入学式の始まりを告げるチャイムが鳴る

「あー!私まで遅刻ではないですか!」

「俺のせいか⁉」

「そうに決まってるでしょう!ほらっ!急ぎますよ」

そうして全力で走り出す

のだが久しぶりに走ったからか体力もほとんどない

『player』は私を越して、どんどん先に行く

「きゅう…」

ついに限界を迎え、バタンッと倒れてしまう

あと少しで体育館に着くのにな

『player』は気づいてくれないだろう

まあいいか、今は『player』の第一印象が少しでも良くなれば…

「おい!お前、大丈夫か⁉」

…なぜか『player』は私のもとに戻ってきてくれた

「先行ったのかと思いましたよ」

「俺は別に参加しなくてもよかったんだ。ただ…」

「ただ?」

「…俺のせいでお前が入学式参加できねぇっていうのは、わりぃからな」

「フフッ、アハハッ」

「何笑ってんだよ」

この『player』は強面こわもてなだけでいい人なのだろう

身をもって知った

それをみんなに知ってもらういい機会だ

入学式に参加しなかった、では本当にただの怖い人になってしまう

それだけは避けなければ

「じゃあ私をおぶって運んでください」

「…まあ仕方ねぇか」

『player』は軽々と私を持ち上げる

「…なんで私、脇に抱えられてるんですかね⁉」

「仕方ねぇだろ!一番楽なんだよ!」

「一応か弱い乙女なんですよ!」

贅沢ぜいたく言うな!」

でも運んでくれるには違いない

「それでは急ぎますよ!」

「俺に指図さしずすんじゃねぇ!」

そう言いながらも精一杯走る『player』

その顔には苦難が見える

「…私そんなに重いですか?」

「ちげぇよ。俺の心の問題だ

大体お前は軽すぎるくらいだ、もっと食え

…お前は俺が怖くねぇのか?」

怖くないか、と言われたら怖い。でも…

「別に、他の男性と変わりませんよ」

「…そうか」

「それに、あなたはいい人だって少ししゃべればわかりますよ」

そう話し、彼の顔を見る

彼は驚いたかのように目を見開き、つぶや

「あんがとよ」

その言葉にはさっきまでの威圧的なものはなかった

ただ照れくさそうにしていた

「いいえ!お礼を言われるほどではありません!」

そんな話をしていると体育館のとびらの前まで着く

それを『player』は勢いよく開け、こうさけ

道端みちばたで倒れた女を運んでたら遅れました!」

うんうん。これでほとんどの人が『player』を人助けのために遅れた強面のいい人と認識するだろう

問題があるとすれば私が道端でなぜか倒れていた女になるということくらいか

不名誉ふめいよすぎる!…まあいいか別に

いきなり現れた『player』の大声に、あっけにとられている『NPC』達

ただ流れている新入生を歓迎する音楽だけが流れている

あ、これ『OP』中か、なるほど。今、タイトルロゴが流れているのだろう

確かに『OP』の導入としては凄くいいと思う

少しすると前から女性の先生が私たちの元にやってくる

「それは…ご苦労様くろうさまです。アキラくん

今は新入生代表の挨拶あいさつをしています

二人とも列の一番後ろの席に座ってください」

「はい!」「はい」

元気よく返事し、言われた通りに席に着こうとする

「あ、あそこまで運んでもらえますか?」

「お前なぁ…」

不満そうに言いながらもきちんと運んでくれる『player』

そうして席に腰かける

「…なあ

なんで俺に声かけたんだ」

式の途中でそう言われる

「なんで…ですか?」

「ああ」

それはシナリオ通りに動いた結果…とは言えない

私もただの『NPC』であり、ゲーム内の存在だ

もしも私がこの世界がゲームだと分かっていると知られたら、消されるかもしれない

ただ、何故こうする必要があるか。シナリオから考えることができる

「仲良くなりたい…」

「―は?」

「ただ仲良くなりたかったからですよ

それにあなたのことをみんなに誤解させたくないですし」

そう言うと真っ直ぐ前を見ていた彼が私を見て

「ありがとうな」

と笑みを浮かべる。このゲームで初めて見る、心からの笑みだった

つまり!『player』が私に心を許したってことだ

これにて親友ポジとしての地位を確立しただろう

さあ!これから『player』の手助けをするぞ!


…なんて思っていた一年前の私に言ってやりたい

「アキラ、あなた本当に好きな人いないの⁉

もう告白イベント始まっちゃうよ⁉」

『player』は全くゲームを進めません

なんでこのゲーム開いたのかわからないくらい

好感度も上げようともしないし、なんなら私以外に友達すらいない

「なんだよ告白イベントって」

「ほらっ!あの桜が満開になる時に告白すると両想いになれるってうわさ

今日が丁度ちょうど満開なの!」

学園ものの恋愛ゲームによくある恋の噂である

もちろんこのゲームでも採用されている

「告白か…」

「そうだよ!」

まあせっかく調べた女子の情報一切聞いてこなかったから、しないんだろうなぁとさっしてるよ!

いないんでしょ!好きな人!

「じゃあ思い切ってするか」

「いるの⁉」

「ああ、お前の言う好感度ってやつも上げたつもりだ」

まさか相談すらされないとは…私必要だったのだろうか

結局『player』一人で全部やっちゃったらしいし

「そっか」

「なんだ?悲しそうだな」

「いや。親友に相談すらしてくれないとは…とは思ったケド」

「わりぃな、今度から相談する」

今度、か

もう次はないのにね

多分二週目の私は私じゃない。そんな気がするのだ

「まあ告白、頑張って!」

「おい、待て」

さっさと退散しようとする私の腕をつかむ『player』

「きゃっ!」

かなり強い力でその手を振りほどく

「…わりぃ急に掴んで」

「いや、いいよ」

明らかに私の過剰反応かじょうはんのうだ。申し訳ない

「その、告白する場所を見てぇんだけど…一人だと心細くてよ」

「一緒に来てほしいの?」

『player』はただコクリとうなずく

「…もう!仕方ないなぁ」

最後に頼られるなら私の生まれた意味もできるというものだ

そうして向かう、私たちが出会った桜の木に


向かう途中で一番気になったことを聞く

「誰に告白するつもりなの?」

私が見ていた限り『player』が誰かの好感度を上げていた記憶もない

学校では私以外とは積極的に話さないし休日も割と私と遊びに行っていた

流石に接点くらいは作らないとと私がほかの人を誘って三人で行ったことはあったが、二人きりで話すようなこともなかった

考えれば考えるほどわからない

『player』は少し考えた後に

「俺の恩人」

とだけ呟く

そんな大層なものがいたのか

私が知る限り『player』が命の危機にあったことはなかったはずだが

まあ命の恩人とは限らないけど

「具体的には?」

「着いてから話す」

『player』がそう言い放つと静かな時間が訪れる

互いが一切しゃべらない時間、私はロード時間だと思っている

だから『player』は声をかけないし私も静かにする

これからは~now Loading~と入れるか

―しばらくすると例の桜の木が見える

桜は満開に咲いており、綺麗きれいだった

私もこれくらい綺麗だったらな

そんなことを思っていると『player』が桜に向かいながら話す

「初めて俺らが会ったの、ここだったな」

「一年前の入学式だね!私も懐かしく思うよ」

初めて会ったときはこんなことになるとは思っていなかったけど

「あの時の俺は色々あってよ、グレてたんだ」

「?そうなんだ」

一体何の話をしてるのだろうか

私は『player』の好きな子について知りたいのだが

「そんな時怖がらずに話しかけてきたやつがいてよ」

「私だねぇ~」

「真面目に聞いてくれ」

さっきまでの雰囲気はなくなっていた

珍しく本気の目をしていた

「俺はお前のおかげで救われたんだ」

この時点で分かった、私のことを言ってたんだ。恩人って

「だから…俺は!」

私は親友ポジションなの、だからやめて

「俺はお前のことが!」

それ以上はダメ!

「お前のことが好きだ‼アカネ‼」

―ブツッ

視界が真っ黒になる


「―はっ‼」

朝、目覚める…何?今の

壁にかけてあるカレンダーを見る

「…一日経ってる」

つまり、さっきまで見ていたものは本当にあったことということか

早く学校に行って『player』にも確認しよう

もしかすると彼も覚えているかもしれない


「昨日?何かあったか?」

朝一番、『player』に聞いて出た答えがこれだった

私はすぐに察した。これはゲームのシステムなのだと

親友ポジションの私と結ばれるのはシナリオにはない、つまりバグなので無理やりにでも告白イベントを消したのだろう

だが私は自我を持っている。バグのような存在だ

だからだろうか、その消した記憶すらも覚えてしまっているのは

そして恐らくだが、私はこのままでは詰んでしまう

なぜなら『player』は私のことが好きだから

彼の性格上、やる時はやる。告白だってそうだ

そしてそのたびにイベントは消される

そうしているうちにシステムは気づくだろう

「バグデータごと消した方がいいのでは?」と

本当はあの告白は私の妄想もうそうだったのかもしれない

だが何かを成し遂げる前に死ぬのは勘弁かんべん

その可能性が少しでもあるならば消しておきたい

となれば手は一つしかない

『player』が他の人を好きになればいい

そうすればゲームとして成立するし私も成し遂げることができる

そうなれば早速…と行きたいところだが今は高校一年生の終わり

今から頑張っても一年生の誰かを好きになるのは厳しいだろう

だから、二年生。そこが本番だ

頑張れ私!成し遂げるためにも!おー‼

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