第43話 ここは〝Ⅹ(10)〟の世界……じゃ、ない!?

 烏林うりんに築いた陣営を離れ、曹操様の本隊と一緒に襄陽まで撤収する最中――待ち伏せしていたかの如く、劉備軍からの襲撃を受ける。


 けれど私にしてみれば、これも想定内。今や慣れてきた馬車の上から、〝神算〟で伏兵を見透かし、兵を動かし対応する……とはいえ。


常山じょうざん趙子龍ちょうしりゅう、推参! 曹操殿、御命、頂戴いたす!』


「ッ。ここで趙雲ちょううん……許褚きょちょ殿に守らせながら、曹操様を隠して! 私が策でどうにか――」


『―――甄嘉殿こそ、下がっておれ! ヌゥゥゥゥゥンッ!!』


「えっ――か、夏侯惇かこうとん殿!? ど、どうして……」


 劉備軍の伏兵に対し、怒涛の勢いで突撃し――夏侯惇殿の振るった刃が、趙雲の槍を騎馬ごと弾く――!


『!! ッ――ふ、ふふ。やはり夏侯惇殿……それが本来の実力ですな。この趙子龍、感服いたす……我がよ、再見ツァイチェン!』


「フン、ぬかせ若武者! チイッ、相変わらず逃げ足の速い……それに、甄嘉殿も! どうしてなどと、ことをぬかすでない!」


「へ。……え、ええっ、私ですか!?」


 そもそも深追いする気はなかったのか、すぐさま退却する趙雲に――意趣返しを終えた夏侯惇殿はスッキリするどころか、私に何やら文句を言ってきた。

 ただ、その内容は、といえば。


「……約束したであろうが、、と。男・夏侯惇、一度した約束はたがえぬ!」


「! そ、そうですか……ふ、ふふっ! ありがとうございます、夏侯惇殿!」


「べ、別に……フ、フンッ、そもそも城でジッと療養しておるなど、柄ではないのだ! 腕を揮いたかっただけなのだから、勘違いするな!」(好感度↑↑)


 安心のツンデレをかましてくれる夏侯惇殿に、ほっこりしていると――話はそこで終わらず、他にも率いて来てくれたらしい援軍に親指を向ける。


「それに俺だけではない。甄嘉殿への援軍を願い出たのは、そのほとんどが荊州の民であった。覚えておるか、甄嘉殿が出来る限り生かして帰順させるよう働きかけ、説得して回った連中だ」


「……えっ!? まさか、そんな……ほ、本当ですか?」


『――ウオオオ甄嘉さまをお救いしろぉー!』

『あの御方はわしらの女神さまじゃ、傷一つ付けさせてなるものかぁ~!』

『もう一度、是が非でも御説得を拝聴したいです。甄嘉さま教を設立したい所存』


「フン……敵をできるだけ生かす戦など、甘っちょろいことを、と思ったものだがな……これを見ると、全てを否定する訳にはいかぬ。この夏侯惇、そこまで狭量ではないゆえな!」


「っ。は、はい……嬉しいです、本当に……宗教みたいなのは遠慮したいですが」


 嬉しい――それは彼らが救いに来てくれたこと、だけではない。私自身、甘い戦い方かもしれないと危惧していたことが、けれど決して無駄ではなかった。結果論かもしれないけれど、こうして良い方向に転んでくれたのだから。


 思わず目が潤む……けれど、あれ? う、うぅん? その援軍さん達を率いて、劉備軍に突撃していった人が……曹操軍の武将にしては、ていうかシリーズ通して見たコトない、イケメンの武将さんなのだけど……?


『――我が殿の覇道、妨げる者に容赦はせぬ! 砕け散れィ!!』


「ん、んん? あれ、夏侯惇殿……今の将軍は……ど、どちら様です?」


「む? ああ、甄嘉殿は会ったことが無かったな……とはいえ甄嘉殿が知らぬとは、珍しい。あれは我が軍の誇る猛将・楽進がくしんという」


「え。……え……ええええ!? が、楽進、殿って……えええええ!?」


「? ?? ど、どうした、一体何を驚いておる?」


 夏侯惇殿は訝し気、だけどそれも当然――私の今の驚きは、このゲームを知っていて、シリーズ通してのファンでも無ければ、理解できないはずだから。


 ――――――★女軍師・甄嘉のやわらか人物評★――――――


『楽進』汎用人物……の、はずだけど……!?

 字を文謙ぶんけん。元々は記録係の文官だった説があるにも関わらず、叩き上げで将軍になる。曹操に長らく仕え、常に前線を張る猛将として活躍した。


 さりげに私の三国志・推し武将なんだけど……〝ロード・オブ・三国志〟シリーズでは攻略可能キャラに抜擢されず、そこが不満だった。……だったん、だけど……。

 今、初めて見た楽進は、明らかに夏侯惇殿と同様、いわゆる〝攻略可能〟の精悍な武将系イケメン……ど、どうなってるの!?


 ――――――――――――――――――――――――――――


 ――赤壁の戦いで曹操様が〝9〟に変身したように、何かがおかしい。シリーズ通してプレイし、全て覚えてるレベルでのめり込んできた、そんな私でも――知らないコトが、起こっている。


「……――した。どうした、大丈夫か……甄嘉殿!」


「……あっ。は、ハイ! すみません、呆けてしまい……平気です!」


「ム。なら、良いが……フン、大戦を終えて疲れておるのだろう。世話が焼けるが、無理もない……後は任せておけい! ハッ――!!」


 威勢を上げた夏侯惇殿が、巧みに騎馬を操り、兵を率いて敵に突貫していく。

 それを見送りながら、私は――馬車で一人、疑惑に囚われる。


 この世界はシリーズ10作目、つまり〝ロード・オブ・三国志10〟――私は、そう思い込んでいた。

 けれど、シリーズ通しての大ファンである私にも、知らない現象、分からない事態、初めて見る武将。


 この世界は、確かに〝ロード・オブ・三国志〟に違いないだろう――けれど〝Ⅹ〟ではない。〝Ⅹ〟では、無いんだ。


 だとすれば―――これって、まさか―――

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