第4話 二つのルート――イベント重視の〝女官ルート〟か、それとも――?

 さて、私の選択すべき二つのに関して、詳しく説明しよう。


1.まず曹操孟徳が先ほど述べた〝女官〟のルート

 後宮とかではなく、簡単に言えば『君主や武将を全体的に、生活面などからサポートする』のが主な役目。

 内務の手伝いなどをこなしつつ、勢力に所属する人物達の悩みを聞いたり、時にアドバイスしたり。そうして交友度・好感度を上げていき、最終的に結ばれたり、正史とは違う歴史を歩ませたりすることも可能……。


〝乙女ゲーム〟としての〝ロード・オブ・三国志〟は、この〝女官〟ルートが最も色濃い。別名〝個人攻略ルート〟とか〝イベント重視ルート〟とも言われる。



2.一方―――〝個人〟ルートは、大きく意味合いが異なってくる。

 プレイヤーがどう行動するのか、本当に自由なのだ。

〝女武将〟として戦場に出て、兵を操りつつ前線に出ることも可能。

〝文官〟として政治に関わり、富国に従事することも可能。

 やばいプレイでは〝女君主〟となって下克上し、勢力全体の実権を握る、なんてことも可能。


 そして。

〟―――策略や軍略によって、主君の覇道を支え、戦場にて勝利を掴む。


 当然だけど女性のプレイヤーは、男だらけの戦場では武力の面で普通に不利。この辺りはご都合補正もかかっていないレベルで、妙にリアル。

 だからプレイヤーが戦場で最も活躍しやすいのは、〝女軍師〟の道だろう。


 つまり『2.〝個人〟ルート』は、〝ロード・オブ・三国志〟における戦略シミュレーションとしての特徴が集約されている。

 乙女ゲームにしては、この戦略シミュレーションの出来が妙に秀逸で、意外と男性プレイヤーのファンも多かったらしい……というのは転生する前の現実世界でも、聞いたコトがあるけれど。


 でも、その自由度の高さから、難易度も非常に高く、先々の予測がつきにくいのも、大きな特徴だ。立ち回りを誤れば、周囲が敵だらけになったり、うっかり味方が討ち取られてしまったり、プレイヤー自身もあっという間に危機に陥るコトだってある。


 自身の安全を優先するなら、圧倒的に『1.〝女官〟ルート』だろう。

 ……けれど。


 ああ、けれど。

 さっき、曹操孟徳から直接、聞いてしまったからだろうか。


 主君に私なんかの後事を託してくれた、彼の――郭嘉推し様の、最期の頼みごとを。

 ようやく、鮮明に、



『どうか、我らが主君―――曹孟徳の覇業を、支えて欲しい―――』

「――――――――!!」



 私は。

 全く、なんてコトを忘れていたんだか。

 こんなの、自分の命とさえ比べるべくもない、大切なコトなのに。



 推しの末期まつごの願いを叶えるなんて――全オタ、当然すぎる概念なのに――!!

(※あくまで個々人の思想・信念につき、用法・用量は慎重にご考慮ください)



「ご主君さま――お気遣い、誠に痛み入ります。ですが私は〝女官〟の道を選びはしません。いえ、選べません」


「むう。そうか……しかし、ならばこれから、どうしようと――」


「私は。……当の郭嘉様より、その遺志を託されました。たかが一人の女が、何を生意気な、と申されるかもしれません。ですが、それでも、どうかお願い申し上げます。ご主君さま……いいえ!」


 そうして、清冽せいれつなまでの月光が、薄暗い室内を切り裂くと同時に。

 私は―――答えを出す―――!

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