不登校の従妹と同棲して彼女を元気にするお話。
霧
一章 医師になる決意と従妹との同棲まで
第1話 さすが十代。がんばれわたし、ヤればデキる
シャワーヘッドから放たれる水滴が、うら若き乙女の肌を流れ落ちていきます。
わたしの肌は五月雨が巌に降りしきるがごとく、水滴の一つ一つをはじき返します。
さすが十代。がんばれわたし、ヤればデキる。
ハンドルを時計回りにまわしてシャワーを止め、わたしは拳を握り締めました。
さすがにちょっと…… 怖いです。
脱衣所で濡れた体を丁寧にぬぐい、ドライヤーで濡れた髪をざっと乾かします。男性は女性の濡れた髪に色気を感じると聞いたことがありました。
「兄さんもきっと、そうに違いありません」
腰のあたりまである髪を無造作に頭の後ろでまとめ、ひとり呟くわたしの名は久里浜真帆といいます。
海の近くで育ったためか髪は日焼けしやや茶色がかっていますが、肌は透き通るように白いのが自慢です。
黒い宝石のような瞳が整った鼻梁の上で輝き、先月まで荒れていた唇はリップが塗られ暗闇でもわかるほどの光沢を放っていた身長は百五十センチと小柄だが、たとえゆったりとした寝間着の上からでも形がわかるほどに大きい
手も足も細いこともあって胸部の存在感は一層増している
ってわたし、誰に解説しているのでしょうか。
大きい胸に小さい手を当てて、何度か深呼吸をしわたしは覚悟を決めました。
「うん、私、いけます」
兄さんの部屋の扉をゆっくりと開けます。腕を大きく伸ばしたことでバスタオルがずれ落ちそうになるのを慌てて抑えました。
「まだ、まだ早いですよね」
脱がせたいのか、脱ぐのを見たいのかわからない以上うかつなことはできません。
部屋の電気は消え、家具の大まかな形がカーテンの隙間から入ってくるわずかな光でわかる程度です。
しかし、遠目にもわかるヘッドの盛り上がりでわたしの心臓の鼓動はいやがおうにも高まります。
今日この日この時をもって、私の膜は開通するはずなのですから。
抜き足差し足忍び足で、ベッドに近づいていきます。ベッドに膝を立てると、スプリングのきしむ音で心臓が口から飛び出すかと思いました。
幸い、ベッドの上のふくらみは動く気配がありません。
震える指先で布団に手をかけて、そっと引っ張ります。
兄さんだと思っていたふくらみは、布団のしわでそう見えていただけでした。
「今日もでしたか……」
安堵と落胆のまじった息が暗闇の中に溶けていきます。
一旦自室に戻り、パジャマに着替えたわたしはその足で居間に向かいます。
わざわざこの家に越してきた時に寝間着をジャージからフリル付きの可愛いパジャマに代えたというのに、今のところ役立たずです。
居間には、朝の五時だというのに電気をつけて参考書片手に勉強している兄さんがいました。
さて、お役目を果たすと致しましょう。
わたしはキッチンに行ってガスコンロでお湯を沸かすと、湯呑みに緑茶を注いで兄さんに差し出します。
「お茶です」
兄さんはありがとうも言わず、丁寧な手付きで湯呑みを取りました。
でも茶柱の立った緑茶を喉を鳴らしながら飲み干している兄さんを見るだけで、わたしはお股きゅんきゅん、いえ、胸キュンです。
兄さんは基本そっけない人です。でも空になった湯呑みを受け取る時に指が触れただけでキョドるのがまたたまりません。
バスタオル姿でであるわたしを注意しながらも視線だけは外さないのがたまりません。
口で嫌がってもしょせん体は正直なものです。
そんな兄さんをお世話するのがたまらなく嬉しいです。料理炊事にお洗濯。わたしなしではいられない体にしてあ・げ・る。
これですよ。これこそが女の喜びってやつです。
心に決めた男子に尽くしてその一挙一動にえへえへする、女子の本懐ここにあり。
湯呑みを洗って食器カゴに置いてから私もお茶を頂きます。
同じおじいちゃんを持つ孫同士、おじいちゃんの好物だった緑茶がお互い好きなのは自然な流れでしょう。
身体の相性もきっといいに違いありません。
久里浜仁と久里浜真帆、名前からしても相性がよさそうです。
そんなことを考えながら、居間の一角に飾られたおじいちゃんの写真に目を向けます。
先月故人となってしまった、おじいちゃん。
そしてわたしと兄さんが同棲するきっかけとなった、おじいちゃん。
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