第47話 vs亜種(後編)

「ただいま〜」


 昼食終えて帰還。

 タブレットで実況を見ながらだったから、完食しつつも、今日は何を食べたんだか解らない私。

 早めに戻ってきたとはいえ、『雷炎』が単独で褐色の亜種を倒したこともあって、『オデッセイ』さんがちょっと意地になってる。

 狙いは青い子らしくて、私達は赤いのを引き離すお仕事中です。

 ちょっと気になるので、『神聖騎士団』のフレイアさんにメッセージを送ってみよう。


『『神聖騎士団』さんも、赤いのを単独打破、狙ってます?』

『ウチは、さっさと亜種をクリアしたいって考えてます。あの白いのが気になり過ぎる』


 うん、同意見で良かった。

 褐色を打破されても、あの白いのは動じないどころか、振り返りもしない。

 じっと洞窟の中を見つめている。……寝ているわけでないのは、時々唸り声がするから解るんだけど。

 いつ動き出すか解らないから、早めに亜種を仕留めたいのに。


『きゅうさん、ちょっと熱くなりすぎてませんか?』

『悪い。俺たちも試してみたいことが有るんだ』


 試したいことは、試しておいて。

 あの白い竜にも、通用するかも知れない。ウチは、シフォンが刺しておいてくれた棘があってこその作戦だったもん。


「赤い奴の牽制をお願いします。なるべく横方向に引き離して下さい」


 指示は『オデッセイ』のリーダーのクラウスさんからだ。

 赤いのは『神聖騎士団』側にいるので、私達は逆に、青いのを『オデッセイ』の方へ牽制しておこう。

 さて、『オデッセイ』さんは、何をしようというのか?


「おい、まさかアイツら……」


 上空を見上げたロックさんが、驚くと言うよりも……呆れた?

 亜種たちよりも高く舞い上がっていたワイバーンらの騎獣から、人が飛び降りた!

 ちょっと! ゲームで死に戻りができるからって無茶し過ぎだよ!

 紐無しバンジージャンプで、人が潰れる所は見たくない。慌てて青い亜種を牽制して、足止めするけど……心臓に悪いよ。


「リアルのスカイダイビングで、練習してきた成果を見せろ!」


 あれって、インストラクターさんに括られて飛び降りるんじゃなかった? 前に配信者さんの動画で、体験記みたいなのを見たよ……?

 亜種だって、かなりのスピードで動いているのに。


 もちろん、ただむやみに送り出しただけじゃない。

 胸元に取り付けた装置から、ロケットアンカーみたいなものを射出した。

 上手く亜種の身体に絡められた人は、グンと引っ張っられ、振り回されながらもワイヤーを巻き取って、その巨体に取り付いてゆく。

 チャレンジャー十名中、二名が取り付いたのは、はっきり言って凄い。

 残り八人は……地面に叩きつけられる直前に、【無重力ゼロ・グラビティ】のスクロールを発動させる。身体は叩きつけられていないけど、浮いたまま気を失ってるよ。加速度までは消せないから、静止のダメージが酷そう。

 素早く、ヒーラーさんたちが回復に走る。

 VRゲームだからね、ヒーラーさんでも心のダメージは消せないと思うんだ。


「GYUAAAAAAAAAN!」


 亜種が、悲鳴を上げている。

 見上げると、亜種に取り付いた二人が魔力剣を、その硬くゴツゴツした鱗が覆う背中に、突き立てていた。


「向こうが降りてこねえなら、こっちから取り付くって作戦かよ……」


 これには、ロックさんも唖然としている。

 あまりにも無茶すぎるけど、確かにこれなら魔力剣は威力を最大限に発揮できるよ。


「突刺す事に拘るな! 翼を狙え。地面に落としちまえば、こっちのものだ」


 クラウスさん、その指示も無茶だから。

 あのスピードで飛ぶ亜種に、取り付いて魔法剣を突き刺すだけでも凄いんだよ。なのに羽ばたいている翼を狙えだなんて……。

 突き刺された痛みで、敵の存在を知った亜種は、振り落とそうと、曲芸飛行を始めてるんだから。

 一人は必死に掴まっているけど、一人が振り落とされ、まだ絡んだままのロープで振り回される。そのまま、岩山か何かにぶつかってしまう結末は嫌だよ。

 私は、グロ耐性は無いから。

 ただ、亜種の方も、振り落としたのかどうかは解らないみたい。刺された痛みがなければ、上着に留まった虫の存在なんて、気付けないだろう。

 速度を落とし、急旋回した時にワイヤーが弛み、岩ではなく亜種の身体そのものに、叩きつけられてしまいそう!


「マッシュ! 意識があったら、適当で良いから魔力剣を振り回せ!」


 あれだけ振り回されて、まだ意識が有るんだ。

 もう型も何もなく、子供がする様に適当に振り回すだけだけど。

 それで、充分だった。

 身体の方が、勝手に翼に向かっていたのだ。振り回しただけの光の剣が、被膜の翼を支える骨を断ち切ることに成功した。

 左翼の羽搏きを失い、錐揉み状態の青い亜種が横倒しに落ちた。地響きと砂埃の中、地上部隊が群がる。

 でも、まだ……。

 氷のブレスが薙ぎ払い、数人が凍りつく。

 シールドの魔法を使い、ブレスを警戒して近づけば、鞭のようにしなる尻尾が襲いかかる。

 しかも、仲間の亜種を援護するかのように、赤い奴がブレスを吐きながら滑空し、炎のラインを引いて、地上部隊を追い払う。


「よぉし、今だ!」


 声を上げたのは、『神聖騎士団』を率いるジークフリートさんだ。

 低空を通り抜けようとした赤い亜種の前に、光り輝く聖印が突然立ちはだかった。

 ああ、【聖盾セイクリッド・シールド】射出型のタワーシールドを持った神官戦士たちが、ずらりと盾を並べていたんだ。

 ゴキッて、凄い音がしたんだけど……。

 ここぞとばかりに祈りを重ねられた神様の盾は硬く、亜種の激突にも揺るがなかった。

 すべての衝撃を食らっては、いかに頑丈な亜種だって、無事では済まなかったみたい。

 額が大きく割れて、緑色の血がどくどくと流れ落ちている。

 それ以前に、首が変な角度になってますよ?

 何が起きたのか? 亜種くんには、それさえも解らなかっただろう。

 後ろ足で立ち上がる根性は見せたものの、そこまでだった。

 首の骨が折れて、即死……だと思う。

 地響きを立てて崩れ落ち、ポリゴンの破片に変わって行った。


「チッ、先を越されたか」

「そっちが先に亜種を墜落させてくれたおかげで、赤い奴が来る角度が読めたからだよ」


 ジークフリートさんと、クラウスさんが称え合う。

 さすがに大手クランを率いるだけあって、二人とも凄過ぎるよ。

 残るは、手負いの青い奴。

 きゅうさんはなんだか、巨大ないしゆみを持ち物欄から取り出し、地面に設置した。


「ヨイチ、お前さんならこの矢をアイツの口の中に射込めるだろう? 舌に突き刺してくれれば、なお良い」

「おいおい、俺の専門は大弓だぜ。弩は使ったことがねえって」

「ゲームシステム上は、同じスキルだから大丈夫だ」


 使い方だけ聞いて、ヨイチさんがしゃがみ込んで狙いを定めた。銃身というか、矢をつがえているレールに三脚がついて、支えてるんだ。

 お見事!

 白く艶の無い矢は、注文通りに舌を貫く。


「また毒か? 何だかよだれが激しくなったが……」

「岩塩で作った矢だよ。毒には入らないと思う」


 楽しげな薬師の言葉に、みんなは一斉に顔を顰める。

 塩の塊が舌に突き刺さってる状態って……そりゃあ唾液が溢れるよ!


「一気に押し込もう。ノルン、アイツの口の中に【極限凍結マキシマム・フリーズ】の魔法を撃ち込んでくれ」

「氷呪文か? アイツの属性は氷だろう?」

「俺を信じろ。その為にわざわざ、青い方を狙ったんだ」


 ノルンさんというのか、『オデッセイ』の男性魔導師さん……ここできゅうさんが指名するからには、腕が良いはず。は、半信半疑で詠唱に入る。

 放たれた呪文は、何と氷のブレスを吐くはずの亜種の口の中を凍りつかせた。……何で?

 もう全軍の中枢は集結している。

 みんなの注目を浴びて、きゅうさんは、してやったりと説明を始めた。


「ブレスを吐いたって、竜や亜種の口の粘膜は、火傷もしなけりゃ、氷もしない。ずっと不思議に思っていたんだ。この間、竜の血の混じった飛竜を解剖したろう? その時に、魔力袋のような臓器を見つけた」


 うんうん。

 その機能を調べて、私は魔力バッテリーを作り、魔力剣という武器にしたんだから。


「で、それがどう繋がっているのかと調べたら、声帯の前、舌の付け根の後ろの方に開閉可能な孔があって、そこに繋がっていると解った。……つまりブレスは、最初から魔力が混ざっているのではなく、エアブラシのように、流速を増した息が魔力袋の中の魔力を巻き込むようにして吐き出すもの。ノズルになっている口から、吹き出しながら混合が進み、属性がつくんじゃないかと考えたんだ」

「じゃあ、口の中に炎や氷の耐性が無い?」

「実際に、凍ったじゃないか」


 ブレスを吐くどころか、喉が凍り、呼吸も苦しそうな亜種を見やり、きゅうさんは会心の笑みを浮かべた。


「岩塩を放り込んで、たっぷりと唾液を含ませたからな。凍らせる液体は行き渡っている。しかも魔法による凍結は、魔法の炎か、解呪でしか解けない。氷属性のアイツには、もうどうすることも出来ないだろう?」


 もう恐れる武器は、振り回される尻尾と鋭い爪だけだ。

 きゅうさんの大胆過ぎる作戦で、翼を奪われ、ブレスをも奪われた亜種は、追い詰められてゆく。

 ついにポリゴンの破片へとなって、『オデッセイ』は大歓声を上げた。

 死に戻った、殊勲のスカイダイビング部隊の二人が、仲間の手荒い祝福を受けている。

 良く、あんな無茶を引き受けたものだ。

 私は絶対に、やりたくない。


「あれ? シトリンさんが正月にやった、ドラゴンの口の中に飛び込む作戦を参考にしたんだけど?」


 ……訂正。私は、もう二度と・・・・・やりたくない。


「GRRRRRRRRRRRR……」


 浮かれた戦勝気分を、重く低い唸り声が掻き消した。

 まだ、終わっていない。

 ずっと背を向けたままだった、白銀の竜が残っている。

 ついに振り向いたその竜を見て、私達は絶望した。

 白銀の竜には、腕がない。

 つまりは、これも亜種ということになる。

 じゃあ成竜レッサードラゴンは、どこに隠れている?

 まだ戦いは続くのか……。

 勢揃いした人族の軍勢を見渡した白銀の亜種。

 その目は何だかとても、悲しげに見えた。

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