第28話 故意のかけひき

「ごめん、工房に寄っていたら知り合いと会っちゃって」


 いっぱい骨が散らばった広間(一部だけ片付けてます)のセーブポイントに戻ったのは、やっぱり私が最後だった。

 けっこう話し込んじゃったからね。

 誰と? というのは、まだ付き合いの浅いロリエーンちゃん以外の『雷炎』のメンバーは、察してくれたみたい。

 みんなに夏姫ちゃんを紹介したいけど、盛大な身バレを伴うから、それも難しい。

 私の境遇を知っても、平気で笑い話にするくらいに、素敵な無神経さを装える人じゃないとね。


「よし、じゃあ青い扉だな」

「おっちゃん、ずいぶんやる気じゃん」

「おうよ……。魔法戦の次は、肉弾戦だろう」

「頭脳戦かも知れないわよ?」


 ロックさんの気合を、冷ややかにシフォンが削いだ。

 気持ちは解るけど、決め打ちは危険だよ。

 持って来た物を配ろうかと思ったけど、みんな待ちかねていたようなので……後にしよう。

 私の時間に合わせてくれているのだし、必要になった時に渡せば、良いかな?

 一番心配だったディアーネさんも、予備のタワーシールドを装備してる。

 隊列を乱さぬよう、慌ててキラキラ〜っと追いかけた。


「それじゃあ、開けるぞ」

「待って。何が有るかわからないのだから、せめて盾を持ってるディアーネさんにお願い」

「……それもそうか」


 ノリノリのロックさんも、フレイアさんの言う事なら素直に聞くんだ。

 こういう時は、説得に苦労するのになあ。

 胸の差? 色気の差?

 ロックさん制御の為に、『雷炎』にもお色気系巨乳メンバーが必要かもしれない。


 気合を入れて、ディアーネさんがドアを開くと、その先は藍色の世界だった。

 壁も、天井も床も、絨毯を敷き詰めたような深い青に染まっている。

 部屋の中央には、一本足の白い一人用の丸テーブルが、スポットライトを浴びている。

 背の高い椅子と併せて、優美な曲線で形作られたデザイン。猫脚のロココ調ってやつ?

 そこに腰掛け、白いタキシードにシルクハット、片眼鏡という気取った服装のシャム猫が、のんびりと紅茶を飲んでいる。

 残念! 肉弾戦じゃなさそうだよ、ロックさん。

 そして、コーデリアさんがいなくて良かった。

 いたら絶対に、モフりに飛びついてた。


「ようこそ、青の部屋へ。……ふむ。赤の部屋をくぐり抜けて参りましたか。素晴らしい」


 肉球の掌で、ポムポムと拍手をしてくれる。

 服を着てるし、お茶を飲むし、その上、言葉を話す変な猫。猫舌じゃないのかな? ついでに、長靴を履いているわけでもない。


「御世辞はいらない。あなたがここの担当?」

「はい。ご覧の通り僕はケット・シーの……」

「自己紹介はいらない。私達に何をさせたい?」


 気取った猫妖精ケット・シーの挨拶を強引に遮るルフィーアさん。

 ニャンコが鼻に皺を寄せて、ムッとしてる。

 気を取り直して、器用に肉球の指をパチンと鳴らした。……どうやったの、君?

 すると、ゴゴゴォと重く、引き摺るような音がして壁が動き出した。

 広くなった床に、白い魔法の光が六角形のマスを敷き詰めてゆく。


「テニスコート・サイズ……かしらね?」

「六角形のマスっていうと、思いつくのはアレっきゃ無いけど……相手は猫さんチームか?」


 シフォンときゅうさんに答えるように、対面に七体の白磁の人形が並んだ。

 人形は、ゆっくりと形を変えてゆく。

 フル装備の女ドワーフ、マッチョな人間、とんがり帽子の女魔道士、金属鎧の女神官、普段着の男、それに妖精さんが二つ。ひとつは燕に乗っている。

 ……つまりは、私達のコピー?


「自分たち自身なら、相手に不足は無いだろう?」


 木で鼻をくくった感じで、冷ややかに笑う猫。

 ニャンコは好きだけど、ちょっと嫌な子だね。人を馬鹿にしてない?


「……猫って、そういうものでしょう?」


 首を傾げるシフォンに、みんなで頷いてるし。

 うーん、そうなのか……。私はナマの猫と触れうことができないからなぁ。

 認識を改めておこう。


「じゃあ、あなたは何もしないの?」

「このコマに知能はないよ。僕が操作する」

「……試験官失格」

「どういう意味だい?」


 ケット・シーくんが気色ばむ。

 らしくないくらいに、ルフィーアさんがケット・シーくんに絡んでる……というか、煽ってる?

 ……何で?


「赤の部屋のサラマンダーは、自らの魔力を出し切るくらいに全身全霊で私達を試してくれた。なのに、あなたは何? ……人形を後ろから操作するだけで、私達の何を試せるというの?」


 静かだけど、きっぱりと言いきった。

 ついでに目配せをする。

 ん……? その間に作戦を立てろと?

 自分たちのコピーは、確かに強敵だ。装備の能力もコピーしているだろうから、威力での力押しもできないものね。

 装備でのバックアップを考えていた私が、一番パーティの弱点を見てるって判断?

 考えるけど……随分楽しそうに煽ってますよね?


「心外だな……僕は冷静な目で君たち全体を見て、判断するつもりだけど?」


 ケット・シーくんの、緑色の目が細められる。

 静かに、怒ってる?

 そんな事は意に介さず、ルフィーアさんの弁舌は、追撃の手を緩めない。


「それで、私達が勝ったとしても、あなたは失うものなど何も無い。そんな状態で本気の勝負ができるとは思うの? サラマンダーくんの足元にも及ばない」

「君の言うことにも一理有る。だが、これは審判者として認められたやり方だよ? 君が異議を唱えるようなことじゃないよね」


 吐き捨てるように、ケット・シーくん。

 気取った言葉遣いを、保てなくなってないかい?

 効いてる、効いてる。


「やり方の問題ではない。あなたの心意気の問題」

「解らないな。君は一体何を望んでいる?」

「この勝負に、あなたも何かを賭けなさい。本気のあなたと戦わなければ、審判の意味はない」

「おいおい……わざわざ手加減無用にしてどうす……すまん、黙ってる」


 茶々を入れようとしたロックさんが、ルフィーアさんに睨まれて黙った。

 迫力有るけど、そこまで本気にさせなくても……ねえ?


「解った。……では、望むものを賭けよう。君はいったい僕に何を臨む?」


 エメラルドの瞳が、不遜な挑戦者への怒りで燃えている。

 そこまで本気にさせるほど、欲しいものが有るの? 何も聞いていないよ、ルフィーアさん。

 ようやくその言葉を引き出したと、満面の笑みを湛えているけど……。


「その言葉を待っていた。私達が勝ったら……モフらせろ!」


 ああッ……忘れてた!

 コーデリアさんの影に隠れているけど、ルフィーアさんも、もふもふ大好きっ娘だった!

 前のシナリオのもふもふの森(通称)での、幸せそうな顔が蘇ってくるよ。


「モフるって……僕はケット・シーだ。そこいらの猫と同じに扱うなんて……」

「だからこそ、賭けになるし、モフり甲斐もある。お澄ましニャンコをモフって、虜にするのもまた良し!」

「また良し、じゃない! 勝手に決めないでくれ」

「約束した。私の望むものを賭けると。……命を取ろうというではない。あなたのプライドを掛けてもらう」


 ケット・シーくんは、言葉に詰まった。

 うんうん。気取って身なりを整えているだけあって、毛並みもツヤツヤのシャム猫くんだ。

 モフり甲斐は、とても有る。

 ニャンコをモフるのが、嫌いな女子がいるだろうか? いや、いない。

 男性陣は呆れ気味だけど、女性陣は期待に目を輝かせている。ルフィーアさん、ナイスです。


「もう絶対に、手加減してやらないからな!」


 小学生のように言い捨てて、ケット・シーくんは踵を返した。

 自陣とも言える、人形たちの後ろへと早足で歩いてゆく。


「ルフィーア、煽り過ぎじゃねえか?」

「冷静なままよりも、勝率は上がる。後は、シトリンの作戦次第」


 ロックさんの苦言に、尤もらしい言葉を返す。

 すでにモフる気満々のルフィーアさんは、期待の目で私を見た。

 私に全てを押し付けないで……。

 どうしよう?

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