第27話 たくらむ佐伯姉妹
「さぁて……急がなくっちゃ!」
青いドアの向こうも気になるけれど……。戦った相手の力からして、実はかなり無理目の洞窟に入っちゃってるんじゃないかと話しながら昨日を終えた。
ルフィーアさんが、タイマンで全力を出し切る相手と同レベルの敵がきっと、青いドアの向こうにもいる。
そうなると、私の本業の出番だ。
お手伝い妖精のトロワにお願いして、作ってもらった武器や防具で、みんなをパワーアップしておかなきゃならない。
お店の方にポップアップして、準備してもらった物を回収してから洞窟に戻らなくちゃ。
「おかえり〜」
お部屋に出現した途端、見慣れぬ妖精さんが声をかけてくる。
以前の経験から、私がビクッと怯えてしまうよ。
見慣れぬ妖精さんは、困った顔で笑う。
「今回は殴りに来たわけじゃないから、怯えないでよ……。せっかく課金して作ったキャラだし、こっちもレベル上げしておこうと思っただけ」
そう、中身は私の双子の姉にして、このゲーム『
拗ねていた私を、何の遠慮も心置きもなく、全力でぶん殴る為だけに作った、腕力全振りの妖精キャラ。ちょっとしたトラウマだよ……。
「映画の撮影じゃなかったの?」
「こっちは朝から雨で、一日降り止まない見込みだから野外ロケは中止。ホテルでのんびりしてるわ」
「いいなぁ……今どこ?」
「北海道……富良野っていう所。ラベンダーの花が綺麗なの」
私でも知ってる地名だ。
シリーズドラマと、紫色のお花が有名な所。
女優さんは、あちこち行けていいなぁ。……苦労が多いのも、愚痴聞き役としては知っているけど。
「でも、ごめん。今は攻略の手伝い中だから、レベル上げには付き合えないかも」
「知ってるよ〜。昨日の夕方、打ち合わせのついでに、スタッフルームで
「そういうのは先に言ってよ!」
ドッと汗が吹き出した。
「違う違う。打ち合わせでメーカーさんの事務所に行ったら、みんながモニターしてたのよ。陽菜ちゃんのログイン時間制限は知ってるから、ログアウトまで見てから打ち合わせしようってなっただけ」
「だからってぇ……」
「スタッフ全員、頭を抱えていたとだけ教えておくわね」
やっぱり?
引きつった笑顔を返しておこう。
そうか……やっぱり、訪れるにはちょっと早い洞窟だったか……。
「戦闘バランス調整してる坂東さんは、可哀想なくらいに打ち拉がれてたわよ。『何で、最終決戦用に用意していた魔導ライフルをもう作ってるんだよ……』なんて言いながら」
「え……? 順を追って行ったら、作れたよ?」
そう答えたら、爆笑された。
テレビや映画では絶対に見られない、夏姫ちゃんの本気の笑い顔。
銃の性能を上げるのに、弾丸に魔法陣を刻もうって、普通に考えるよね。それで『海石』を見つけて、そこからマリンメタルを作ったでしょ。火薬でなく、爆発魔法で弾丸を飛ばせないかと考えた時に、リンクさんが貝の内側のキラキラで、魔法シールドが作れることを見つけてくれたから……。現実の銃や大砲の仕組みをネットで調べてたら、レールガンの仕組みを見つけて。……こんな感じで、魔法を直接打ち出す方が早くない? って思って、魔法シールドの応用で、魔力の収束と加速をさせてる内に……。
できちゃった。
「何でできちゃうのよ。あちこちにばらまいたヒントを、まだ誰も踏んですらいないのにって、頭を抱えてたわよ」
ツボに入っちゃったらしく、酸欠寸前で笑い転げてる。こうなった夏姫ちゃんは、しばらく会話不能なんだ。ファンの人や、お仕事の人の前では、絶対に見せない姿。
リアルでは、絶対にパンツ丸見えになるくらいに、のたうち回ってる。清純派アイドル女優なのに。
「また、規制されちゃうかな?」
「そ……それは大丈夫……アハハ……いずれ作ってもらう……予定だったらしいから……あぁ苦しい。出力は想定の倍だと嘆いて……た……ヤダ、止まらない」
まだ会話は無理そう。
仕方がないので、落ち着くのを待とう。
ゲーム内の物で、効果があるかどうかはわからないけど、コップにハーブ水を入れておいてあげる。
そんな笑い上戸で、よく撮影でNGを出さないものだわ。
呆れて見ている間に、ようやく笑いの波が引いたみたい。息を整えながら、お水を飲む。
「はぁ……っ。ルフィーアさんの杖には、完全に打ちのめされていたわよ。あれも魔導ライフルの仕組みの応用でしょ。それが有るから、多重構造は規制できないって、可哀想なくらいに落ち込んでたわ」
自分の笑いの波が引いたからって、よく平然と話の続きができるわね? 我が姉ながら、呆れてしまう。
そうなのよ。実は多重構造の元ネタは、魔導ライフルの魔力の加速用の銃身なんだ。普通じゃあ、魔法陣の処理速度が追いつかないから、多重構造にして、タイミングをずらして発動させることで、とんでもない加速を実現しています。
運営さんの誤算は、私ではなくてロックさんの加工能力。あそこまで多重構造にしてくれたから、出力が凄い事になったんだよ。
「復数作ってるなら、私も一個欲しい」
「いいよ。でも、ガンナーにしたんだ」
「腕力に全振りしたこの身体だからね。魔法職ができるわけがないじゃん」
胸張って言うことじゃないでしょ!
課金までして、そんなキャラを作るかな、普通。
「もっとレベルを上げないと、一発撃っただけで魔力不足になって、飛ぶこともできなくなるよ」
「それは踏まれちゃいそうで嫌ね……」
うーむと、顔を顰める女優さんに、火薬式の市販銃器一式をプレゼントしちゃおう。
私を殴って、何故か一レベル上がっただけの初心者キャラの相手なら、軽機関銃でもオーバーキルできるから。
魔法式の銃は絶対魔力不足になるだけ。まだまだ、十レベル早いね。
おっとっと……。武器をせしめたものだから、ホクホク顔で早速、お出かけしようとするせっかちさんを引き止める。
「そうだ。夏姫ちゃん、あっちの方のチェックはしてくれた?」
「私は、そんなに時間が取れないからね。陽菜ちゃんがログインしてくる前に済ませた。……でも、凄いね。本当にそのまんまだ」
「そりゃあ、『雷炎』の生産職の腕は、ゲーム随一だもん」
自分が褒められるより、仲間の仕事を褒められる方が嬉しい。
私はもう細かくは覚えていないけど、夏姫ちゃんがチェックして大丈夫なら確かだ。
夏姫ちゃんはキラキラ〜っと飛んできて、コツンと私の頭を優しく叩いた。
「どうせまた、オーダー用の写真を見て泣いてたんでしょ」
「良いじゃない。……今の内にいっぱい泣いておいて、当日は笑っていられるようにするんだから」
「ついでに報告すると、私の方のリアルサイドも準備オーケーよ。昨日、イズさんが用意してくれたソフトも二本、受け取ったし」
「本体の方は、大丈夫だよね?」
「当たり前でしょ。……それより、陽菜ちゃんの方は当日までに攻略のお手伝いが終わるの? 他のギルドからもメンバー集めているから、あまりわがままは言えないでしょ?」
「それは泉原さんに訊いてよぉ……。シナリオの進み具合なんて、わからないもん」
ぷぅっと頬を膨らませる。
佐伯姉妹の極秘プロジェクト、決行の日は六月十日の時の記念日。
あと一月半くらい先だ。
若干、ショートカットしている自覚は有るけど、今がシナリオのどの辺なのかなんて、私に解るわけがないもん。
昨日、泉原さんと話しているなら、絶対に夏姫ちゃんの方が詳しいはずじゃない。
「それは、守秘義務が有るから言えないの」
出たよ、大人の事情。
そりゃあ、私は世界が狭いから、お友達といるとつい、饒舌になっちゃうけどさ。
特に『FFO』関係だと、それを理由に教えてくれなくなっちゃった。……意地悪。
「まあ、楽しみながら頑張りなさいな。色々頭を抱えさせられても、運営さんは陽菜ちゃんの敵じゃなくて味方なんだから」
「……恨まれてない?」
「むしろ、娯楽? 予想の範囲を超えてくるから、みんなに面白がられてるわよ」
「……それも酷い」
「そんな面白いゲームなのに、運営側にもつけず、攻略にも回れない。ちまちまレベル上げしてるしか無いのも、ちょっと悔しいんだよ?」
ちょっと寂しそうに、夏姫ちゃんは笑う。
慰めようとしたら、きっぱり拒否された。
「だから、私達の企みは絶対に成功させなくちゃ。当日まで、絶対に言っちゃ駄目だからね!」
「うん、頑張る」
ハイタッチで別れる。
夏姫ちゃんは王都に戻ってレベル上げに、私は青い扉の攻略に。
タイムリミットが決まっちゃったなぁ……。
持ち歩いていなかったから、どうやら私の決戦兵器『ラピュタの雷』は、運営さんにバレていないみたいだね。セーフセーフ。
うっかり、夏姫ちゃんは魔導ライフルを準備するラストバトルが有ると、教えてくれちゃった。
流れからして、最後がバトルになるのか不安だったけど、倒すべき敵がいるなら、気が楽になる。
そこに行くまでの紆余曲折は当然有るのだろうけど……泉原さんのシナリオだし。
攻略しつつ、戦力強化が必要だ。
私は、補給用の武器防具を受け取りに、地下の工房に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます