第4話 コーアン観光案内
「キャラベルか……。こいつはスピードがあるんだぜ」
帆を畳んだ帆船を見上げて、ロックさんがひとくさり。
とはいえ、女性陣はポカンと口を開けて、目の前に見る帆船の大きさに驚いているところ。
海から吹く風がワカメ臭いと言ったら、みんなに笑われた。これは、磯臭いと言うのだそうな。私にピンとくるのが、ワカメとか海苔の匂いなのだから仕方ないじゃん。
日焼けしたマッチョたちが、荷下ろしに忙しい。
新しい航路が拓けると、新しい産出物が入荷するから、珍しくて高値がつくそうな。こちらと、あちらで同様の取引をするから、差額分丸儲け。
警戒して、余所者を寄せ付けないのも解る。利益は独占したいだろう。
「話は聞けそうにないね……」
コーデリアさんがチラッとこっちを見るけど、私だってそうそう変なものを見つけられるわけじゃないもん。空をカモメが飛んで、桟橋の脇に、お魚の分け前を狙うニャンコがいるだけ。
少し離れた所では、お魚の干物が売られている。
「もともと、漁港がメインだったのかしら?」
赤くて目の大きなお魚の開きを買いつつ、ペンネさん。
当りだったらしく、干物屋さんが教えてくれる。今の領主様が交易を推奨するまでは、魚の干物や海藻を王都に売っていたのだとか。町の西側は今も砂浜になっていて、海藻を干したりしているそうな。
「だから、目抜き通り以外は、そんなに発展してないのかしら?」
シフォンは、お洋服商売に向かない土地だと、眉を顰めた。
暑い気候のせいか、女性たちは風通しの良さそうなワンピース中心。ハワイのムームーみたいな、染めは華やかだけど、シンプルな服。解る。暑さには、かなわないもん。
「潮風に吹かれて、生地も長持ちしないのだろうね」
久し振りに、ザビエルさんのセリフ。建築の人がいうと、重みがある、
多すぎる塩分は大敵。入院患者が言うと、説得力あるでしょ? ……ちょっと違うか。
「でも、新しい土地から、珍しいものを仕入れているはずなのに……町には、船酔いの葉っぱ以外、目新しいものを売ってないけど?」
「そういうものは大概、お金持ちの貴族が買い集めてるのよ」
「好事家ってやつだな」
「自慢するのが、仕事みたいなところがあるものね」
私の疑問に、みんなして答えてくれた。
とはいえ、そうなると……。
「……何かヒント、有った?」
みんなして、首を傾げるばかり。
これでは、ミモザさんを責めるわけにはいかない。
取っ掛かりすら見えないのは、なぜ?
夏姫ちゃんに電話して、ヒントを訊いてみたくなる。……ズルはダメだけど。
でも……。
謎解きには全く関係ないけど、私には心惹かれる単語が一つあるんだ。
「ねえねえ……私、砂浜行きたい!」
「何か思いついた?」
「違うの。個人的な趣味。……前にドラマで夏姫ちゃんがやってた、砂浜に文字を書いて波に消されるやつ。私もやってみたかったの!」
笑わないでよ。
私だって、たまには乙女チックになることだってあるもん。
砂浜に文字を書いたり、大きな巻き貝を耳に当てたり……定番だけど、素敵でしょ。本当に波の音が聞こえるのかな? って、ずっと思ってたんだ。
当然、無菌室には持ち込めないものだから、試すこともできなかったの!
呆れながらも、付き合ってくれてありがとう。
「観光用のビーチにするには、ちょっと砂の色が悪いか……」
「建物同様に白いと、映えるんだけどなぁ」
少し赤みがかった砂浜を、ドラマそのままに、波が寄せたり、引いたり。
キャーッと、海に突進する私を追い抜いて、ロックさんとコーデリアさんが裸足で駆けてゆく。
私より、子供返りしてるよね?
途中で小枝を拾って……何を書こう?
『泉原さんのイジワル』
私の本音が、ドラマと同じ様に波に消されてゆくよ……。
言葉に、ロマンチックさのかけらもないけどさ。
波に触ろうとして、そのまま波に飲み込まれてしまって、慌てて助け出されたり。うん、海の水って、本当にしょっぱいんだね。
「何やってるのよ、あなたは……」
おなじみの冷水ポットで、シャワー代わりに水をかけながら、シフォンが呆れた。
定番だと思うんだけどなぁ……。おかげで、「砂に埋めて」って言い出しづらくなっちゃった。あれも、やってみたかったのに。
初めての海なんだし……。
私より、キャッキャと水の掛け合いをしているロックさんとコーデリアさんの方が、はしゃぎ過ぎだと思うんだけどな。
落ちていた巻き貝は、私が触れると妖精さんサイズになる。
耳に当てたら、こぉ……と静かな音がした。
「こんな波打ち際でそれをやっても、あまり意味がないでしょ」
そうだけど! 気分の問題だよ。
貝を耳に当てようが、当てまいが、周りは波の音しかしないのだけれど。
とりあえず、アイテム欄に貝殻を入れておく。今度、お部屋で一人で楽しむもん。
ひとしきり遊びのメニューをこなしたら、次は冒険だ。
さて、この砂浜は、どこまで続いているのでしょう?
「さすがに、誰もいないわね」
「みんな、情報収集で、それどころじゃないんだろうよ」
おかげで、砂浜を独り占めだもんね。
町中よりも、砂浜の方が潮風! とリアルに感じるのは、なぜ?
リコちゃんの喜びそうな、綺麗な貝殻を拾いながら、砂浜を辿ってゆく。結構広いね。
心地良い潮風に吹かれながら、のんびりお散歩。
もうちょっと、陽射しが弱いと完璧なんだけど……暑い。
「ん? 何だろう、あれ?」
興味津々な、コーデリアさんの視線を辿っていくと……平べったい岩みたいなものが、海から砂浜へ上がってゆく。
のんびりと、スローモーションで。
「ウミガメ……っぽいですね。産卵に来たのかも」
ザビエルさんの見立てに、女性陣の脚が早まる。
ウミガメの産卵って、見てみたいものね。
ところが……。
「ああっ、敵襲! ウミガメさんを護るんだ!」
コーデリアさんの指示に、お散歩犬状態だったロボくんが疾走する。
空から、雑魚風味の魔神が三体、ウミガメさんもしくは、その卵を狙ってるみたいだ。
遅れじと、前衛のロックさん、シフォンも走った。武器を取り出すのは、追いついてから。
……うん、ウチの前衛には弱点がある。
ロックさんのヘビーハンマーの一撃は、重いけど速度と命中に欠ける。ましてや、空を飛ぶ相手には、なかなか当たらない。ロボくんのジャンプも、元が四足動物だから、高さが限られてるし、シフォンは小柄。
ザビエルさんも神官だから、メイスを振り回すだけだし……。魔法攻撃のルフィーアさんが抜けると、対空支援に問題が有り過ぎる。誰か、支援プリーズ!
「おい! 自分がガンナーになったのを忘れてないか?」
あっ、そうだった。
つい戦闘は、自分に不向きなものという今までの癖が……。
レベル1とはいえ、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる……はず!
軽機関銃を取り出して、肩当てを引いて肩に当ててっと……。弾倉には、最大の50発。
引き金を引いたら、反動に押されてあらぬ方向へ。二度目には、ちょっと慣れた。
魔神たちが周回飛行する当りに、ダダダダダダっと! おおよその位置にばら撒こう。
投擲武器の弾丸や、矢は、敵の振り払われたりせず、皮膚や装甲を貫くと標準サイズに戻る。そういう意味では、銃器は小さな妖精さん救済なのかも知れない。
まあ、中には小さな刀を振るう、妖精のお侍さんもいるわけだけど……。
「っわぁ! 当たった、当たったよ!」
「喜び方のレベルが低い! でも、良くやった!」
褒めるのか、貶すのかどっちかにして。ロックさん。
地に落ちた魔神の一匹は、ヘビーハンマーでペチャンコにされ、もう一匹は身長をからかわれるのが大嫌いなシフォンに、滅多刺しにされた。
「最後の一匹は、私に殺らせて」
コーデリアさんが、ロボくんを止めてくれた。
私は実験がしたいのです。動けぬように串刺しにされた魔神に向けて、今度はリボルバーの拳銃を抜いた。さすがに、この距離じゃ外さない。
バンと一発。南無南無……。
「意外に、銃は使えそうじゃないか?」
「うーん……でも、頭が痛いよ」
「威力は充分だろう?」
「違う。……魔法陣が発動しなかった。命中して銃弾が潰れ、魔法陣が壊れる方が、発動より早いってことだよ」
「魔法が乗らないってことか……」
「うん。……鏃に魔法陣は刻めるけど、弾丸にはダメってこと。何でだろう? このゲームで魔法が乗せられない武器なんて、初めてだよ?」
剣はもちろん、槍だってハンマーだってオーケー。
魔法は杖で強化できるし、弓は鏃に魔法陣を刻める。でも、銃だけはダメだ。
「いいじゃん。研究材料は、多い方が嬉しいタイプだろ? お前さんは」
「うん……」
うっかり頬が緩んでしまう。
さあ、どうしてくれようかね……この銃というやつを。
そんな事を話していたら、産卵を終えたらしいウミガメがじっとこっちを見てる。
「何、仲間になりたいの? 残念、私にはロボくんが……」
「仲間になりたそうな顔じゃ、無いわよ?」
なんて言っていたら、突然海が割れた!
どんぶらこと波飛沫が収まった時、そこにいたのは巨大なクジラっぽい生き物だ。クジラじゃないよ。脚がついてるもん。
ウミガメさんは、ちょっとセクシー(?)に前ヒレを振って私達を誘う。
この子に乗れっていうこと?
「え……これって、まさか?」
半信半疑でクジラモドキくんに乗ると、物凄いスピードで海を進み始めた。
少し湿って、ヌルヌルしているけれど、乗り心地は悪くない。いや、心地良い。
ヌルヌルが、ちょうど良く私達をくっつけてくれて、滑り落ちないんだ。
私達は、クランチャットで、エクレールさんを呼び出した。
「何か、わかりましたか?」
「多分だけど……進み方発見!」
「さすがですね……情報をください」
「砂浜に出て、亀を助けましょう!」
ああ、できることならチャットではなく、会話して、エクレールさんの顔を見たかった。
あのクールな美人さんが、きっと呆然としていることでしょう。
しばらくのフリーズの後、ようやく一言呟いた。
「……浦島太郎ですか?」
多分だけど、今回のゲームデザイナーの泉原さんからのメッセージは
「南国リゾートに来てまで、仕事をしてないで遊ぼうよ!」
せかせか、情報集めをしても見つからない。
観光して、楽しんでしまった方が正解というのはイジワルなのか、優しいのか……。
我々の行く手に、少しづつ、南海の孤島が見えてきた。
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