第3話 いざ、新シナリオへ!

「どんな感じだ? この世界の銃の性能とやらは?」


 手元を覗き込むロックさんがウザいので、ポイッと拳銃を渡してあげる。

 ものは試しと、売り出されたばかりの拳銃、軽機関銃、狙撃ライフルを全て買い揃えてみたよ。あまり使ってなかった斥候技能を外して、ガンナーにスキルチェンジしちゃった。レベルは低いけど、これから育つ予定。


「前に火山で、硫黄を見つけたけど……。火薬式の普通の銃だね。弾丸も、材料を用意すれば、普通の工房設備で作れるよ。魔法で撃ち出すとかじゃないみたい」

「そりゃあ、拍子抜けだなぁ……」


 春爛漫の草原の道。

『雷炎傭兵団』の攻略班に混ざって、私達も港町コーアンに移動中。

 突然マップに現れた、その町こそが新シナリオのスタート地点らしい。コーアンの町か、その先にあるはずの孤島の町に、早めに『シトリン工房』とロックさんの鍛冶屋『叩き上げ』の視点を作って欲しいとの要望もあって、ある程度シナリオを進めなくちゃならない。

 とは言え、銃の研究もしたいので、コーデリアさんの相棒である白狼のロボくんの背中を借りて、銃の構造を調べながら移動していたりする。

 剣士のBlueWindさんや、弓師の北味きたみさんといった久し振りの人とご一緒しています。

 まあ、30人くらいの団体さんだ。

 攻略組だけあって、高レベルまで上げたスキルを減らしたくないのか、誰もガンナーには手を出していないの。物珍しそうに、チラ見されてる。……いつも引き籠もってる私が珍しいわけじゃ、無いよね?


「機構的には、ネットで調べたものとあまり変わらないかも。魔改造しちゃって良いのかなぁ」


 ふと呟いた言葉に、周りが引き攣った笑いを浮かべる。

 ファンタジーなんだし、魔法で弾丸を撃ち出したり、できそうじゃない?

 そこに到達する術は、当然まだ無いんだけど。夢だけは大きく持っておくよ。


「弾丸に魔法陣とか刻めそうか?」

「技術的には問題ないけど……人が多すぎて試し撃ちもできないし」


 新シナリオ開始当日とあって、ぞろぞろと移動中だもん。他のギルドの団体さんとか、個人勢のパーティとかも。気の早い人はすでに行ってるらしいけど、入念に準備をしたパーティーは、だいたいこの時間になってしまっているみたい。

 これだけいると、魔物が出てもすぐ討伐されてしまう。

 命中した弾丸が潰れて、魔法陣が壊れるのと、発動するの。どっちが先なんだろう?

 ロックさんで試すわけにもいかないし、ロボくんを撃つと、当分コーデリアさんが口を利いてくれなくなるだろうから、悲しくなってしまうもの。

 とりあえずは、リボルバー拳銃に装填して、腰にぶら下げたまま。

 ちなみに服装は、シフォン特製のフリル付きカウボーイルックです。


「見えてきたぞ」

「わぁ……海だぁ……」


 丘を越えたら、一気に視界がひらけた。

 眼下に何隻もの帆船が停泊する、港町が見える。その先は大きく広がり、キラキラ輝いている。

 そっか……あれが海なんだ。

 ポリゴン製とはいえ、生まれて初めて見る海は、キラキラ輝いて、とても綺麗だ。

 目的地が見えると、自然に足は早まっていく。

 簡素な石壁に囲まれたコーアンの町は、真っ白だ。白い石造りの建物や、道。南国の強い日差しが照り返して、目に痛いくらいに眩しい。常にサングラスの私でも、眩しいくらい。

 町の門を潜ると、オープニングムービーが……と思ったら、タイトル文字が出るだけかい!

 前回は、ムービーがヒントになったのに!

 みんな気にしてなかったみたいだけど、太陽の巫女のミューちゃんとか可愛らしかったし。ちゃんと見ていれば、正規のルートとのズレが解ったはずだよ。

 でも、今回はそれも無し。

 夏姫ちゃんの姿さえ、見えないや。

 絶対に参加して、キャラのセリフをアテレコしていたはずなのに。


「今回は、出し惜しみするのね……」

「解けない謎は無いはずだけど、簡単にヒントは貰えそうにないよ」


 シフォンとコーデリアさんが、顔を見合わせる。

 ワールドデザイナーの泉原さんが、胃痛覚悟で繰り出したシナリオだけに、大変そうだ。

 みんなで戸惑っていると、キラキラ〜っと派手目の妖精さんがやって来た。


「シトリンちゃん、やっと来たしぃ」

「おい、キャバ妖精。先行攻略隊が、こんな所で何してるの?」


『雷炎傭兵団』が誇る二連主砲の一人、妖精さんな魔法使いのミモザさんだ。パリピ乗りというか、距離感めちゃめちゃで、ちょっと苦手。

 いつものように、ミモザさんに厳しいルフィーアさんが詰問した。

 見当たらないと思ったら、彼女は先行していたらしい。


「どうやって進んで良いのか、解らないしぃ! ウチだけじゃなく、みんな詰まってるしぃ!」

「マジかよ……」


『雷炎』だけじゃなく、それを聞いたプレイヤー全員が愕然とした。

 泉原さーん、頑張りすぎだよ……。

 とりあえず、イベントスタートのフラグを立てに、領主の屋敷へと向かう。貴族というよりは、商人っぽい目をした、壮年の細身のオジサンが迎えてくれる。


「最近、新たな航路が拓かれた為かな。一攫千金を狙う君たちのような人々で、この港町は大盛況だよ」


 長々とした話はしても、要点はそれだけだ。

 新たな航路というのは気になるけど、「他所の領主と揉めなければ、それでよかろう」な方なので、細かいことは気に留めていない様子。

 大陸の端のこの町の南なら、たしかに他所の領地はない。船を出し、交易をしているだけだし、税金さえ収めてくれれば良いタイプだね。

 ちなみに、年頃の娘さんはいないらしく、ヒロイン候補にも引っかからない。


「でしょー? 商館に行っても、きとくけんえき? 振り回されて相手にもされないしぃ」

「既得権益か……。難しい言葉を良く知ってたな、キャバ妖精」

「バカにすんなよぉ。ハゲマッチョ」


 睨み合いを始める、ミモザさんとロックさんは放っておいて……。

 開拓したばかりの新規航路なら、他人……それも見ず知らずの人に紹介したくはないよね。

 顎に手を当て、考えていたエクレールさんが方針を決めたみたい。


「ルフィーア、ミモザ。一緒に来て。『雷炎』は一度集まり、分担を決め直して、町の情報集めにかかりましょう」

「シトリンちゃんもいるし、私達は自由に動き回った方が良いわよね?」

「はい。気の向くままの方が、良い結果が出そうなメンバーですから」


 ペンネさんの提案は、了承された。

 団体行動が苦手な私としても、その方が嬉しいかも。

 ロックさん、シフォン、白狼のロボくんと、前衛は三人いるから、トラブルが有っても大丈夫だと思う。それに……初めての町なら、情報集めよりも、観光するのが絶対楽しい。

 言ったら、バカにされるから言わないけどさ。


「しっかし……ヒントが少なすぎねえか、導入だっていうのに」

「それがヒントだと、気がついていないだけかも知れないのが、一番つらいわ」

「ふっふっふ。でも、それが好きで泉原シナリオのゲームを遊んでるからなぁ」


 難しいんだけど、気がつくとあっとなる。それが遊ぶ方にも快感なのだとか。

 でも、何がヒントなのだろう?


「前のシナリオは、この世界に存在する種族たちの存在を知り、それぞれの考えを理解して行動するっていうのが基本だったけど……まだ人間だらけよねぇ?」

「それも欲にまみれた……」

「欲がヒントだったり?」


 喧々諤々と意見交換をする、みんなに加わりたいんだけど……。

 私の視線は、つい通りすがりの店先に流れてしまう。

 あのお店は、薬草屋さんかな? あの葉っぱは何の薬になるんだろう? 初めて見る種類だよ?


「こら、シトリン! 余所見してないで、真面目に考えなさい」


 あちこち彷徨う、私の目線に気づいたシフォンに頭を小突かれた。

 ごめん、でもぉ……。


「確かにあれは、見たことのない葉っぱだねえ。何に使うんだろう?」


 もとは全員、生産チームだもん。

 初めての素材には、興味津々になってしまう。


「それはヨナフイの葉っぱで、船酔いの薬になるのだとさ」


 脇から、聞き慣れた声が教えてくれる。

『雷炎』のライバルギルド『オデッセイ』の薬師、きゅうさんだ。さすがに詳しい。

 船酔いしたら、葉っぱを噛んでるだけで効果があるのだとか。

 確実に船には乗ることになりそうだ。念の為にと、みんな買ってる。

 私も買っておこう。ホバリングして浮いていれば、船酔いは無さそうな気もするけれど……私のことだ。見ているだけで、つられて酔いそうな気がする。


「なあ、きゅうよ。『オデッセイ』は、どう動いてる?」

「屋根や、路地裏。上と下に目を配って、別の種族がいないか探ってるよ。同じ手は二度、使わないと思うけれども……ロックさんの方は?」

「分担して聞き回ると言ってたな。……俺達は遊軍で、好き勝手に動くけど」

「引き籠り妖精は、勝手気ままに動かす方が正解。解ってるなぁ、エクレールさんは」

「だろ? ……って、あいつはどこへ行った?」

「ロックさん、こっちこっち! ほら、カエンダケのサンドウィッチだって!」


 せっかく呼んであげたのに、なんで呆れ顔で見るのよ。

 私達の世界のそれと違って、こちらでは食用キノコらしい。味見したペンネさんによると、パラペーニョと同じくらいに、スパイシーなお味だそうな。


「お前ら、観光モードに入ってないか?」


 大正解。

 攻略班じゃないんだし。初めての町だもの、まずは楽しもうよ!

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