第33話 本音


4階の空き教室に、甘楽となじみ、爽香、杏奈と織田がいる。

なじみの正体が織田にバレてしまったところだ。


甘楽はノイセレの3人に言う。

「お前たち、練習があるだろう。事務所へ行けよ。


後はこっちで何とかする。男と男の話もあるからな。とりあえず、上新部長には起こったことだけ報告しておいてくれ。」


3人は、何か言いたそうな顔していたが、やがてリーダーの爽香が、

「わかりました。後をよろしくお願いします。」


そう言って、なじみと杏奈を連れて、教室を出て行った。


甘楽は、織田に向き直る。


「織田、お前、なぜ野島に告白したんだ?」



正体の話でなく、告白の話を聞かれ、織田は戸惑う。


「…それは、一緒にノイセレを応援したかったから…」

織田は口ごもりながら答える。


「本当か?それだったら別に今のままでもいいじゃないか。


それはついでの理由だろう?


誰でもいいから彼女が欲しかっただけだろ?」


甘楽は厳しく追及する。


「彼女ができたらオタク仲間に自慢できるし、場合によってはいろいろできるかもしれない。そう思ったんじゃないのか?


もうちょっと言おうか。モテない俺でも、あの地味子だったら口説けば簡単にOKされるんじゃないか。もしかしたらやれるんじゃないかとか思ったんじゃないのか?」


かなりストレートな言い方だ。さすがにこの会話は女性陣には聞かせられない。


それに対し、織田はふてくされて答える。


「…悪いか?男ならみんなそう考えるだろう。」


「俺は男だが、そういう考えはしないぞ。、


お前、本当に彼女を見ていたのか? 地味な野島なじみを好きだったのか?やらしてくれそうな女なら、誰でもよかったんじゃないのか?」


織田は答えない。甘楽は続ける。


「それはあまりに相手に失礼だろう。人間と人間の付き合いだ。


相手も自分に好意を持っていることを確認してから告白しろとまでは言わない。


だから、アプローチするのは構わん。むしろ推奨するよ。ただ、女の子を口説くんであれば、せめて相手が喜ぶようなことを言ってやれよ。


綺麗だとか、魅力的だとか、相手のどこが好きだとか、そういうところを言ってあげないと、女はなかなかなびいて来ないさ。


iいろいろ誉めて称えて、そうやて付き合い始めたら、て結果的に仲良くなって、いろんなことをするのは別にいいだろう。


だが、この程度の女なら、何とかなりそうだとか、頼めばいけるんじゃないかとか、そういう下心で近づくのは良くないぞ。」


ま、女から来る場合は別だけど、非モテには関係ないからな。」


さらに甘楽は続ける。


「お前、大体、彼女に、好きだの一言も言わなかったんだろう? あまりにお粗末だ。

お話にならない。」


織田は開き直って言う。


「あぁ、そうだよ。お前の言う通りだ。だがお前だってわかるだろう。俺たちみたいに地味でモテない奴に、女の子と仲良くするチャンスが来たと思ったんだ。


これを逃したら一生童貞かも知らん。そう思ったら勇気を出してアプローチしようと思うのも自然じゃないか。」


「だから、相手のことをちゃんと見てやれってことだ。自分勝手な論理でぶつかっても、相手は困るだけだよ。」


織田はちょっと呆けたように、甘楽を見て言う。


「淀橋よ、お前、地味で目立たない根暗な奴なのに、妙に詳しいな。」


甘楽は誤魔化すように答える。


「まぁ、そこら辺は、はっきり言って、今はどうでもいい。問題は、お前が野島なじみの秘密を知ってしまったことだ。


それは、織田が彼女の本質を全く見ずに自分勝手なことをした結果だ。


色々な事情があって隠している彼女の秘密を知ってしまった。どうするかな。


裏社会で簡単なのは、秘密を知ってしまった奴を消すことだがな。」



「…お前。まさか、裏社会の人間なのか?

織田は震える。


「…まさか。」


甘楽はは笑う。「冗談だよ。」


「返事の前の間が怖いんだが。」

織田が震え続ける。



「織田、お前には野島なじみの秘密を守ってもらう。そうでなければ東京湾に沈むぞ。ちなみに、関西だと浮かべたろかって言うんだ。関東だとコンクリートを使うからな。」


「…」織田は恐怖で声が出ない。


「と言うのは、まぁ冗談だが、もしお前がこの秘密を漏らすなら、容赦はしない。損害賠償も視野に入るな。」


織田は必死で首を横に振る。

「いや、そんな事は絶対にしない。俺はノイセレの大ファンなんだから。」



「まぁそれはわかってるさ。」甘楽は笑う。ただ、笑みに自然な凄みがある。



「秘密は絶対守ってもらうことは前提として。


お前には選択肢が2つある。


今まで通り、ノイセレの外部でファンをやるか。


それともお前も知ってしまったからには、ノイセレのチームの一員として、ノイセレのプロモーションを手伝うか。」


「そんなことをさせてくれるのか!ぜひやらしてくれ。いえ、やらせて下さい。お願いします。」

織田は頭を下げるが、ふと気づいたようで、甘楽に尋ねる。


「というか、さっきから不思議なんだが、淀橋、お前はチームのメンバーなのかい?」


「あぁ。俺は、実はノイセレのプロモーションの中核を担う一人だ。高校生ではあるが、アムールの名刺も持っている。」


「す、すごい、どうしてそんなことが?」


「何といっても、野島なじみをアムールに紹介したのは俺だからな。俺は、彼女にアイドル性を感じたんだ。」


「えー、すごい。どうしてそんなことができたんだ?」

凄い勢いで話題に喰いついてくる織田。


「まぁ、お前はこれからインサイダーになるからな。ある程度経緯を教えてやろう。

ここからの話は、すべて守秘義務契約を前提だ。


契約は後日交わすことになるが、この瞬間から適用だ。ちゃんとその重要性を理解しろよ。さもないと…。」


甘楽はちょっと脅す。


「ああ。守秘義務契約を結ぶくらいに重用な情報なんだな。心得た。」



甘楽は話しだす。

「俺はな、野島なじみを見ていて、彼女は目立たないが、実は元気で綺麗で、アイドルの素質が充分あると思ったんだ。


だから、アムールの部長をやっている、俺の従姉に紹介した。


彼女は、野島なじみに化粧をして、最新ファッションを着せて、原宿を歩かせた。


いきなり2回スカウトされたよ。


それを見て、アムールで契約することにしたんだ。」


織田は驚く。

「え? エイティーンの読モ出身ということだったと思うんだけど。」


「まぁ、それも嘘じゃない。先に声をかけてきたのは、エイティーンだからな。


結局、大人同士の話し合いによって、読モ決定の後ですぐにアムールと契約したと言うことにしたんだ。 エイティーンでのデビューは当然だが、コミックスターは偶然だよ。


その後、たまたま、アイドルのオーディションにも応募させたら、やはり審査員みんなが彼女に魅了されて、選ばれてしまったのさ。


あのオーディションは事務所の所属は関係ない。だからいろんな事務所の女の子が応募していたようだよ。


その中で、野島、いや芸名野間奈美と山田杏奈、小島爽香が選ばれたというわけだ。


ちなみに、山田杏奈は事務所の所属じゃなかった。外部応募だ。


外部の事務所で言えば、例えば野間奈美の前任モデルのカエミーこと楓美奈も応募してたようだぞ。


奈美との相性が悪いので、選ばれなかったようだけど。」


「そんな裏話まで…本当にインサイダーだな。」

織田は戦慄する。


「ちなみに、アイドルプロジェクトの総責任者は、上新智香。俺の従姉だ。


だから、いろいろなことに、俺も駆り出されてる。


3人と同い年だと言うことも大きいし、クラスメイトにもなった。


いろいろ彼女たちのサポートをしているんだ。


それこそ、アイス買ってこいなんてパシリまでな。


ただ、正直なところ、1人で多くのケアをするのは難しいんで、お前が手伝ってくれるととても助かるんだ。企画から雑用まで、いろいろやることがある。」


「ぜひやらせてくれ。」

織田がきっぱり言う。


「ただし、変な気を起こすなよ。アイドルは商品だ。スキャンダルは禁物だし、精神的に崩れられても困る。 今日みたいなことは、野間奈美のメンタルに影響するんだよ。わきまえてくれ。」」


「当たり前だ。」

織田が胸を張る。


「アイドルとファンと言うのは、適度な距離を保たなければいけないんだ。


アイドルは夢を売る商売。ファンと言うのは、その夢、幻想を糧に生きていくものなんだ。


アイドルがトイレに行かないなんてありえないだろ。でもファンはそれを信じるんだ。


なぜなら、アイドルと言うのは手が届かないからいいんだ。」



「その辺を力説されても、俺にはよくわからないが、いずれにしても、お前にはこれから、いろいろ手伝ってもらうぞ。」


「あー、任してくれ。」



「最初の仕事は、多分オリジナルグッズの企画になると思う。


まだウェブサイトの準備があるから、二週間はあるだろう。


ありきたりではない、オタク心をくすぐるようなグッズをいろいろ考えてくれ。


ただ、あまり商業的過ぎて嫌われないようなものをな。」

甘楽は言う。


「任せとけ。オタク魂を揺さぶるようなグッズ企画をたくさん考えるぜ。」


「おお、期待してるぞ。

あと、SNSパトロールもよろしくな。」


ノイセレへの誹謗中傷や個人情報漏洩を防ぐ活動のことだ。織田は、自らそれをやっている。


「あぁ、そっちもしっかりやってる。同じ学校で過ごすためには、絶対にやらないといけないことだからな。」


織田は胸を張る。



「じゃぁ、詳細はまた事務所と相談しておくから、どんなことを具体的に依頼するかはまた話し合おう。


グッズのアイディアよろしくな。」



数日後、織田は事務所に甘楽とともに赴いて智香に会い、アムールから業務委託を受けたJTコーポレーションと契約した。


業務内容は、都度指示に従うというもので。給料は時間給と出来高払いのセット。

SNSパトロールについては、行った時間と内容を報告することとなった。



ただし、守秘義務契約はアムールに直接提出している。


織田は、ノイジ―セレニティプロジェクトの名刺を渡され、ご満悦だ。


…ただ、この名刺をオタク仲間に渡せないことに気づいて、頭をかかえることになるのは別の話だ。 渡したら、質問攻めに合うことは明らかなので、下手に渡せない。



かくして、ノイセレプロジェクトに、頼もしい仲間が加わったのである。



(あの時、脅しすぎて、あいつの心を折ってしまわなくてよかった。)甘楽は、しみじみ思うのだった。


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こんにちは。お急ぎですか。


…バイトしてる子もいるよ。


作者です。

女の子を舐めてかかっちゃいけませんね。


あの流れでOKしれくれる女の子、いるのかな?自分が女の子なら、『一緒に行けるならだれでもいいのか?』と思うかも。


ま、相手がイケメンならいいのか。但しイケメンに限るのか! どうせ… 


織田はJTコーポレーションからバイト代をもらいます。

甘楽はどうでしょうね。


それはさておき、お楽しみいただければ幸いです。


ハート、★、感想いただければ幸いです。もちろんレビューも。

特に★が増えると作者は喜びますので、まだの方はお気軽にお願いします。


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